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□ 幻想の嵐≪続エリーシア戦記≫ □

第四章 剣士の幻想

第四章 剣士の幻想


 セリアの中心地に、城館を与えられた。
 この城館は、元々スピノザ=ディーン家当主フェリックス1世が、セリア居住用に建設した物で、使ってないからと気前よく贈られた。

 四隅に円形の小塔を持ち、その壁面はコーニス(水平線の帯)と薄いピラスター(付け柱)で区分されている。小さいが優美な外観を持つ建物である。
 また、マチコレーション(張り出し狭間)の形状をした壁面上部と、急勾配の屋根、屋根窓など城郭的な要素も留めているが、方形の玄関ホールと楕円形で吹き抜けの大広間を中心に左右対称と、整然とした平面をしており、典型的な都市邸宅の様相を呈している。


 昨日アイロンをかけて、鏡のようにピーンと張った白いシーツが、拠れて捩じれて皺だらけとなり、一面バケツの水をひっくり返したように濡れている。
 二匹の獣は、勢い余ってベッドから転げ落ちても、その隠微な行為を止めない。
「ああン……ああ……イイ」
 アイラの頭は床にあり、腰を高く持ち上げて、秘唇を天井へ晒している。そして、尻肉を自分で掴んで、淫猥に肉襞を広げている。
「ああっ……はっあ……ああああっ」
 日頃の気品が嘘のように、すっかり発情した雌を存分に嬲る。
 まず親指でクリトリスをこね回しながら、二本の指で、ぐちゃぐちゃと濡れた膣穴をかき混ぜる。
「ああっ、ひぃひぃ、あっいいーーーん」
渾身の力で激しく蜜を掻き出してやれば、ぷちゅ、ぐちゃ、と卑猥な水音が鳴り響き、熱い飛沫を巻き散らかす。
「い……イク、イっちゃう……はっ、ああああン」
 髪を振り乱して、白く細い喉を仰け反らすと、絶頂の声を上げた。
 しばらく、目を閉じ、荒い呼吸をしながら、恍惚の表情を浮かべていたが、ふいに、無邪気に微笑む。その瞳は、快楽に飢えたようにギラギラと輝いている。
「指なんかじゃなく、早く、あなたので、いっぱいにして!」
 アイラは中指を噛みながら、まるで幼女のように甘えた声を出す。
「ああぁぁん……んはッ!」
 その淫靡な誘いに導かれて、覆い被さり、秘唇に添えると、一気に突き挿入れた。
「あッ、あン、はぁぁッ、はんッ、あんッ」
 艶かしい喘ぎ声を絶え間なく、垂れ流す。
「ああああン……激しい……あああぁ……突いて、突いて、もっと突きまくって!!」
 熱く火照る秘肉を擦り上げてやれば、快楽の炎に身も心も焦がしていようにあられもなく卑猥な単語を叫び、自ら腰を振り立てる。
「お前を誰にも渡さない。俺だけものだ」
 強く抱き締めて言う。
 その瞬間、侵入者を逃がすまいと膣穴がきつく締まる。
「いい締めだ」
「ええ、ええ、あたしはシンだけのものよ。いつでも使って」
 アイラは感涙して、己から舌を差し出す。
 下半身を煽動させながら、二匹の獣は口を吸い合う。
「んッ、むッ、んんッ、はぁうっん、ンーーん!」
 口を塞いだまま、白桃のような胸を揉み扱く。アイラは2度目の絶頂を迎えた。
「……ねぇ、もう終わりなの?」
 暫く余韻に慕っていたが、また首を回してきて、愛らしく媚びた。
「もっと、もっと愛して、もっと、シンを感じていたの、ねぇ、きてっ!!」
「分かった」
 とんだ雌猫だ。
「あうぅぅぅ……あぁぁ〜〜あ〜〜」
 アイラは膝の上に跨り、抱き合って繋がっている。下から突き上げてやると、それに合わせて、美しい裸体を上下に揺らした。
「あっくぅあ…ああ…あ…あ〜〜あ〜〜」
 だらしなく、呆けたような顔で、口からは涎すら垂れ流している。背中は汗が滲み、艶やかな髪が張り付いて、それに陽の光が反射して、キラキラ輝いていた。
「私のオマンコどう? いいでしょ? 好きなだけ使っていいのよ。もっともっと気持ちよくしてあげる!」
 アイラは肩に顎を乗せて、耳元で甘くささやく。
 その身体は熱鉄のように熱く、腰は生き物のように蠢き。瞳は、狂ったように極彩色に染まっていた。
「オマ○コがとろけそう……イイッ!!」
 更なる高みに昇り詰めていく。
「あーっ、イクッ!!」
 アイラはそれまででもっとも美しく吠えた。

 シャワー室から出てくると、アイラが頬を膨らませている。その唇の周りは、白い液体のあとが少し固くなっている。
「お前も顔ぐらい洗え」
 アイラは這って近づいてくると、洗い立てのペニスをしゃぶりだした。
「もういい。これから人に会うんだ」
「全部吸い出すの!」
「なんだ、それ?」
「女に会うんでしょ?」
 頭を掴んで抑える。しかし、それを咥えたまま、アイラは見上げて訊いた。
「さっき侍女がミリムって……聞こえたのよ」
「おいおい、ミリムはリュックの妹だ。まだほんの子供だ」
「……」
 アイラは、まだ不安そうに瞳を伏せる。
「リュックの妹に手をだしたら、俺は殺されるよ」
「シンはリュックなんかに負けないわ!」
 腰に縋り付いて、涙声で喚く。
「友は斬れんよ」
 笑って頭を撫でてやり、手を剥がした。

「ミリムちゃん、久しぶり」
「将軍、お会い出来て光栄の至りです」
「冗談はよせよ」
 ミリムは、両手でスカートの裾をつまみ、軽く持ち上げて、さらに膝を折り、腰を曲げて、頭を深々と下げる。
 思わず、苦笑する。
 試合会場を、兄のための情報収集と言って走り回っていた、そばかすだらけの少女は、すっかりレディーになっていた。
 兄のリュックの試合だけでなく、有名選手の試合では、必ず大きな声で声援を送っていた。リュック対ジャン戦では、兄が苦手にしている事もあって兄以上に昂奮して、何度も発破を掛けていた。
 ジャンは長身の左利きで、リュックはその剣筋をなかなか見切れずにいたのだ。
――俺の試合が好きだと言っていた……。
「どうか、兄を助けてください」
 突然、ミリムが跪いた。
 ガノム前線で、リュックの所属する部隊が取り残されているという。
「ご迷惑かと思いますが、他に頼る者もおりません」
「無論だ。だから、頭を上げて」
「本当ですか?」
「無二の友を見捨てたりしない」
「あ、ありがとうございます」
 堰を切ったように、ミリムは泣き始める。
「気にするな。何となくだが、天の配剤というのが分かってきた。俺の人生はどうやら美人が絡むと、動き出すらしい」
 心から快活に笑った。


……
………
 リュックと初めて会ったのは、ミッズガルズ大会の第一次予選だった。
 その頃の俺は、がりがりに痩せて、北辺訛りの強い少年だった。
 慣れないセリアでの生活のせいで、精神的にかなりまいっていて、ろくに食べることもできなかった。そして、指の皮を食べる変な癖があったのもこの頃だった。
「よ、その格好、ワ国風?」
 袴の裾を引き摺りながら会場を歩いていると、リュックの方から声をかけてきた。北陵冥刀流の剣士は珍しかったからだろうが、友達ができて素直に嬉しかった。
 しかし、その時の試合は、散々だった。
 試合開始と共に、袴の裾を踏んで足の指の骨を折って、そのままリタイアしてしまった。
「ついてなかったな。次、頑張ろうぜ」
 リュックは親指を立てて、励ましてくれた。
その姿は、とてもかっこよく見えた。
 勇ましい顔立ちで、黄金の髪の短く刈り込んでいる。その容姿は剛毅だったが、性格は柔和で、誰にでも気さくで、いつも礼儀正しかった。
 次に二人が出会ったのは、翌年のアルテブルグ大会の一次予選。
 俺はぽっちゃりと太っていた。その代わりに、訛りは完全に消えていた。そして、まるでスカートのように袴の裾は短くなっていた。それで、『スカート付き』というあだ名がついてしまったのは、あまりにも苦い想い出であろう。
 この時、リュックは初めて3次予選まで勝ち残り、あと一歩で、本戦出場と言う好成績を残した。一方、俺の成績は、相変わらずで、胴を払われて呆気なく負けてしまった。
 思わず、「胴なんて練習してないよ」と叫んでしまい、あの少女に、容赦なく、蹴り倒させてしまった。
 この年に頭角を現したのが、白鳳流の二人の少年、ラグナ・ロックハートとジャン・トレトンだった。
 ラグナは正統派の剣で、ジャンは長身で左利きという身体的特長を活かした変則的な剣で、本戦リーグに名を連ねた。
 15歳の時、俺とリュックは初めてサイア大会の3次予選を勝ち抜き、本戦リーグに昇進する。好成績なのだが、結局、大会はラグナの初優勝で終わり、注目を集めることはなかった。
 大会の後、道場裏の井戸端で、偶然ジャンと隣り合わせとなり、汗を拭きながら少し話をした。
「北陵冥刀流とは聞かない流派だが、君は強いね」
「君には敵わないよ」
「そりゃそうさ。僕は天才だから」
 ジャンは、伊達男だった。背が高く、颯爽として、髪は腰まで伸びていた。
「でも、二の太刀を考えず、必殺の太刀を撃ちこむ。勝負はいつも一瞬、完勝か惨敗。後の先を究めるラグナにとっては、苦手なタイプかもしれないね」
 ジャンはそう言った。その言葉で、小さなヒントを得たのかもしれない。
 一緒に合宿をしよう、と呼び掛けたのはリュックだった。打倒白鳳流のために、二人は手を組んだ。そして、その年の最後のセリア大会で、俺はラグナを、リュックはジャンを破った。
 ラグナと話をしたのは、確か、弥生坂一番街にあった劇場一階のカフェだった。
 俺が約束の時間から少し遅れて到着すると、演目のためか、店内は若い女性客で一杯だった。
 隅にあの少女が座っていた。店内を対角に横切って、窓際の席へ向かった。
「あっ、これ美味そう。何って言うの?」
「……」
 彼女は、ちょっと不機嫌そうに俺を見上げた。そして、何も言わず、ただそのちょっとキツメの瞳で俺を見詰め続ける。俺はドキドキして、そして、思わず、彼女の髪を飾っている紫の紐に触ろうとする。
「寄るな、触るな、近づくな!」
 それは俺の心を鷲掴みにし、そして、何度でも『虜』にしていった。
「俺も同じやつがいいなぁ」
「あたしはイヤ」
「……」
 いつもの事だ。めげない。
「そう言えばさぁ、今朝タマが、俺に噛みついたんだよね。あいつ絶対、俺を喰おうと思っているよ」
「あっ、それ私。だってアンタ嫌いだもん」
「いや、そうじゃなくて、あれは愛情表現の裏返しかも」
「あっそ、じゃ私身を引くわ。お二人でどうぞお幸せに」
 その時、ドアが開いて、一組のカップルが入って来た。
「ラグナ、ラグナ・ロックハートだ!!」
 店内にキャーという黄色い歓声が巻き起きる。だが、ラグナの横の女性が一睨みすると、太学の女性陣が静まり返る。あれが、歩くリーダシップと言われる太学の学生会役員であろう。二人が付き合っているというのは、セリアでも非常に有名な噂だった。まさにキングとクィーンと言う感じで、近寄り難い。
 俺とは住む世界が違う。永遠に無関係だろうね、などと言っていると、ラグナが俺に近付いてきた。
「やぁ、シン君じゃないか」
 ラグナは気さくに声をかけてきた。
「ども、寄寓ですね」
 俺は立ち上がり、さも対等なように振る舞った。
 軽く握手した。
 寄寓と言うのも変な表現だったろう。この演目のストーリーは、実際のセリア大会を描いたもので、ラグナがモデルだと言われている。当然俺もやられ役で出ていた。それで初日に招待状が貰えたのだ。当然、会う筈である。
 俺達は女性二人を残して、カウンターに飲み物を買いに行った。
 その時、俺の足元を竹刀が駆け抜けた。
「スカート付きめ、もらったぁ!!」
 俺は軽く跳んでかわす。
「お兄ちゃんの仇!!」
「瘠せただろうが、いつまでも変な呼び方するな」
 そして、もう一度戻って来る所を、思いっきり踏みつけた。
「……何?」
 ラグナが怪訝そうに聞いてくる。
「ああ、猫又ですよ、猫又。気にしないで」
「そ、そうなのか……」
「誰が猫又だって!?」
「お兄ちゃん、スカート付きが苛めるぅ」
 店に駆け込んできたリュックに、ミリムが泣きついた。当然嘘泣きだ。こういう芝居がかったことが好きな兄妹である。もう相手するのに飽きていた。
「人の妹に何しやがる。――って、ラグナ君じゃないか!」
 リュックは、俺の事など眼中にないという感じで、ラグナに視線を向ける。その下で、敵意剥き出しのミリムが、「いつまでもいい気になってんじゃないぞ」と意気込んでいた。それをリュックは、頭を小突いて止めさせた。
「前回は秦鷹流が全敗しましたが、今度は負けませんよ」
 俺への態度とは違い、真摯な表情である。
「こちらこそ」
 大所帯は大変だな、と思っていると、ラグナは爽やかにリュックに手を差し伸べる。やはり絵になる男だ。
「あれれ、ラグナじゃん」
 後ろから声が聞こえてきた。振り返ると、赤いドレスの女と白いスーツの男がいた。共に長身でまるで役者のようだった。
 また、女変えたなぁ、とラグナが呆れた声で小さく囁く。
 俺とリュックは並んで、きちっと挨拶をした。それにジャンも女性を離して応えた。女性はラグナに驚いた様子で、口に手を当てている。ミーハーな奴だった。
「すごいスーツですね。やはりジャン君には、このセリアが似合っていますよ。田舎で宮仕えなんて、全く考えてもいないのでしょうね?」
 リュックがジャンと埒もない話をしていると、再び後方で大きな声がした。その声には聞き覚えが嫌と言うほどある。振り向かずにいようと思っていると、ラグナが申し訳なさそうに言う。
「すまない。正論で人を叩くのが好きで……」
「いえ、こちらこそ好き嫌いが、はっきりしているもので……」
 仕方なく振り向くと、やはり彼女とアイリスが喧嘩していた。きっと他愛もない事なのだろう。原因には興味もわかない。
 この日の演目『三剣士』は大好評で、その後大ヒットした。ちなみに、ヒロイン役はビアンカだった。
 こうして、俺たちは知り合った。
「3点」「5点」「2点」
 小さな屋台のカウンターで、俺とリュックとジャンの3人で、並んでカキ氷を食べたのは、アルテブルグ大会本戦リーグの前夜祭だった。
 当時ほぼ無名に近かった三人は、人々の輪から弾き出されてしまい、入口付近の屋台に座って、だらけた会話を続けていた。
 そして、時折横を通り過ぎる女性たちを見て、点数を付けて遊んでいた。
「ラグナは?」
「取材だそうな」
「今大会優勝候補らしいよ」
「へーえ」
「それにしても俺たち緊張感ねえよな。敵なのに」
「所詮主役は優勝経験者だよ」
「あ~ぁ、早くタイトル欲しいわ」
 このアルテブルグ大会で、人々の注目を集めていたのが、前大会のミッズガルズ大会で、2度目のタイトルを取ったラグナだった。
 各種雑誌などの予想記事では、昨年の最多勝利者で緋燕流のベテラン剣士と並べて、双璧と持ち上げられていた。
「6点」「4点」「3点」
「おっ! 太学の生徒会連中だ。相変わらず、世界の中心にいます、という感じだねぇ」
「えっ、アイリスさん。な、何でここに!?」
 右端がカキ氷を引っ繰り返しながら、立ち上がった。
 3人の視線の先では、優雅なドレスで正装したアイリスが、取り巻きを引き連れて、赤い絨毯の上を歩いていた。
「なぁなぁ、何でだよ?」
「しかし、このカキ氷、不思議と体が熱くなってくるよな……」
「ブランデー入りだからね」
「だからか」
「何しに来たんだろう?」
「3点」「6点」「……」
「変わった味だと思った。これがブランデーかぁ」
「おい、大丈夫か、体中真っ赤だぞ」
「俺弱いんだよねぇ……」
「なぁなぁ、ここに何しに来たんだろう!?」
「で、ラグナは彼女と本気な訳?」
「本気らしいよ」
「何? 何? その会話?」
「お似合い、だしな」
「そうかな? ラグナには地味で堅実な女性の方が、合っていると思うけど」
「何? やっぱ付き合ってんの、あの二人?」
「二人とも、一人で十分過ぎるほど、派手で目立っているからねぇ」
「でも、あのアイリスを抑えられるのは、ラグナぐらいしかいないだろう?」
「……それはそうかもね」
「無視すんなよ!!」
 立っている右端が大声を出すと、座ったままの二人が顔を上げた。
「だって、二人一緒に劇観に来てたじゃん」
「あっ、あれ、そう言う意味だったの?」
「妹連れて来るのは、お前ぐらいのものだよ」
「……」
 右端が力なく座る。
「2点」「1点」「……10点」
「本気なの?」
 真中が、塞ぎ込む右端の顔を覗き込む。
「麻疹だろ。ああいうタイプに惚れるのは」
 左端は白けた口調で言った。
「うるさい!」
「そうなの?」
 右端は怒り、真中はぽかんと訊く。
「お前もそのうち卒業するよ」
「俺?」
 左端の言葉に、真中は驚いた声を出す。
「8点」「7点」「……1点」
「よく言うよ。逆玉狙っているくせに」
 右端が不貞腐れた声で言う。
「当然だろ。一生剣術やるには、それが一番なんだから」
「愛はないのか愛は?」
「そんな物いつか消えるさ」
 熱くなる二人を、真中が仲裁する。
「まぁまぁ、それにしても、ほんと何しに来たんだろね?」
「表向きはプレゼンターらしいが、たぶん蟲が付かないように監視するためだろ。ここのお姫様、すっごい美人らしいから」
「……それで、すっごい頭いいらしいよ」
「ふーん。一度ぐらい会ってみたいものだな。まぁ俺達には、永遠に、縁ないだろうなぁ」
「……当ったり前だ。まだほんの子供だ」
「げっ、騙したな」
「8点」「……7点」「……3点」
「僕は関係作るつもりだよ。何れね。それにしも、王族関係の知識ないよね」
「だって関係ないもん」
「……じゃ関係ある話しようぜ」
 右端の男が、ブランデー入りのカキ氷をがぶ飲みすると、赤く酔った眼を会場の中央に向けた。
「あの赤い服の男が、お前が本戦一戦目で当たる、優勝候補ナンバーワンだ。あれ? 名前なんだっけ?」
「去年の最多勝のオヤジだろ? ラグナと双璧らしいね。……名前は……?」
「ふーん、ラグナとね……」
「緋燕流のエースだ。剣の軌道が幾何学的に走って、赤い残像が見えるらしいよ。そう言えば名前は何だったかな……?」
「一度聞いたことあったなぁ。で、対策は?」
「その軌道のパターンを全部覚える事だな」
「面倒くさそうだな……あーぁ、思い出せん」
「だが、あの名無しさんを倒さん事には、ラグナも、その先も見えてこない……」
 3人の飢えた眼が、赤い服の剣士を睨む。
「世代交代の刻……だな!」
「ああ!」
「絶対に!」
 この翌年、リュックはサイア大会を制し、俺はアルテブルグ大会を制覇した。因みに、セリア大会とミッズガルズ大会はラグナ。サンクトアーク大会はジャンだった。こうして、エッダの四剣士時代が始まる。
………
……



 ガノム連邦は、四つの侯爵領(カーナ、オート、ヤーデ、パース)と、二つの大司教領(ザーク、リーア)とを中心に、十数の小規模な豪族の集まりによって構成されている。
 ザークとリーアは、それぞれ『ザーク連邦領主大司教領』と『リーア連邦領主大司教領』と正式に呼ぶ。
 エリース教会の大司教が統治する、一種の教会国家である。大司教は、エリース教会の大司教であると同時に世俗社会を支配する領主でもある。小さな町ではあるが、四侯国と同等の扱いを受けている。
 これら4人の侯爵と2人の大司教、さらに、カーナにあるユリア大神殿の大主教の7人で、『総統』を選ぶが、諸都市の自治が確立しているため、権威は高いが、総統に実権はなく、ほぼ名誉職である。
 実際の権力は、サリスから派遣された高等弁務官にあった。高等弁務官には各都市に対して、内政干渉権があり、裁判権も有していた。
 ガノム地方は、神威帝の時代に、サリスに従属している。
 その際、パース侯が処断されて、パースはサリスの直轄となり、ここに鎮北府がおかれた。後に、パース侯国は、カーナ侯爵の甥を迎えて復活し、鎮北府は廃止された。そして、カーナには、高等弁務官が常任する事となった。
 死んだレアル2世は、この権威と権力を一つにしようと目論んでいた。
 次期高等弁務官の地位を、『アドリフ・ギード子爵』に内定させ、かつ、7人の選定者に圧力をかけて、総統にも選出させようとしていた。総統となり、高等弁務官になれば、それはかつての鎮北将軍と同じ実力を有することとなる。
 レアル2世の死後も、アドリフ・ギード子爵は強気の姿勢を崩さなかった。さらに、ヴァシリ・オート侯爵を味方に引き入れて、大規模な軍事反乱へと拡大しつつあった。
 サリス極北軍は、オート侯爵の裏切りを知ると、オート領からカーナ領に撤退を開始した。
 その際、サリス極北軍の殿を務めたのが、リュック大尉の部隊だった。彼はよく戦い、味方の大半を逃がす事に成功したが、自身は逃げ遅れ、敵の勢力下に孤立してしまう。
 リュックは、アルファ城に立て篭もる。アルファ城は、オートからカーナへと流れる大河上にある。もともとは水上交通を警護のために建設された施設で、高い塔を持つ。
 どうにか持ち堪えていたが、急遽篭城したため、十分な兵糧を蓄えていない。暦はもう初冬、極寒の季節はすぐそこにあった。


「開門」
 隊商に化けて、オート軍の中を突破してアルファ城に到着した。
「シン・ハルバルズである。開門せよ!」
 名乗りを聞いて、リュックが飛び出てきた。
「おお、本当にシンではないか?」
「まだ生きていたか!」
「お前こそ!」
 お互い抱き合って、再会を喜び合う。
「それで、援軍は?」
「俺だ」
「分かった。それで援軍は?」
「俺、俺」
「分かった。分かった。援軍は?」
「俺、俺、俺」
 二人は周囲の視線が痛く感じるまで、繰り返し続けた。
「これはオーディン旗ではないか?」
 塔にオーディン旗を掲げる。
 サリスでは最も神聖な物だ。ディーン一族以外使用できない。
「これで敵がうじゃうじゃ寄って来るぞ」
 心配そうなリュックの肩を叩いて、快活に笑いながら言う。
「落城して奪われた、親族まで罪が及ぶぞ」
「勝てばいいんだよ、勝てば」
「それもそうか」
 二人は笑った。不思議とリュックといると負ける気がしなった。それはきっとリュックも同じだったのだろう。表情に一点の曇りもない。
 その言葉通りに、翌日には、砦は完全に包囲された。翌々日には、さっそく総攻撃が開始された。
 リュックと二人で、城門の前に立つ。
「寒いか?」
 リュックが問う。
「俺は極北の出身だぞ」
「そうだったな」
 リュックは自分の頭を小突いた。さすがに緊張しているようだった。
「俺に負け越している奴が、俺の心配をすしてどうする」
 さりげなく言ったが、リュックは聞き漏らさなかった。
「ちょっと待て、そんな話は初耳だぞ。毎年サンクトアークで絶不調になっていたのは誰だ?」
「あんな暑い所での試合なんて、参考記録にしかならん」
「それはずるいぞ!」
「じゃ、ここで決着をつけよう」
「おお、いいぜ」
 二人が不敵に笑う。そして、城門を内から開けさせた。
「先手必勝!」
「まず、突き崩せ!」
 二人は叫びながら打って出る。
 掛け声を合わせて、ゆっくり斜面を登ってくる敵兵へ、十文字槍を翳して、突っ込んでいく。
 慌てたのは敵兵である。攻めるつもりが、攻められてしまった。
 横に一閃、槍を振り、兵をなぎ倒す。
 そのできた隙間に、飛び込み、士官らしき人物を突く。さらに、槍で払って、陣形を崩して、また一人士官を突く。
「敵は少数ぞ。囲んで打ち取れ!」
 さすがに、多勢である。すぐに体勢を立て直した。そして、果敢に、接近してくる者がいる。
 それを左手の刀で切り捨て、さらに、威嚇で槍を大きく払う。さっと鮮やかな弧が地面を抉った。その線の内側に残った者を、左手の刀で仕留める。
「あれは赤い蠍の馬印!」
 繰り返すこと五度、散々に陣形を乱してやると、ついに先陣の司令官らしき人物を目に捉えることができた。
 槍を持ちかえて、透かさず投げる。的確にその胸を貫いた。
「リュック引くぞ」
「おお」
 全力で走り、リュックの脇を抜ける。追手をリュックが薙ぎ払った。
「来い、リュック!」
 立ち止まって、振り返り、リュックを呼ぶ。
「おお」
 リュックは槍を投げて威嚇し、すぐに反転、走って横をすり抜けていく。
 腰のベルトに吊り下げていた円月輪を抜き取って、適当に敵兵の顔へ投げる。そして、リュックに続いて、城門の中へ退いた。
「放て!」
 一斉に、城門の上から敵兵へ矢が放たれる。
 城門を閉じた時、すでに敵兵の一部が城門をくぐっていた。
「一人も生きて返すな!」
 リュックが、威勢よく叫び、兵を叱咤激励する。
 屈折した狭い通路で、敵兵を待ち伏せにする。地面には、20本ほどの刀が突き刺してある。その中の一本を抜き取った。
「きぃえええ!」
 角を曲がってきた敵を縦に一閃、兜ごと切り裂いた。すぐに新しい刀に変えて、二人目を今度は右から袈裟切り、返して、三人目を左から袈裟切り、さらに、正面の四人目の喉を突く。
 刀を変える。
 刀が半分ほどに減った時、通路は死体で埋まっていた。辺り一面に、異臭が立ち込めている。
 敵軍は攻城戦を一旦諦めて、撤退する。
「すぐにまた攻めてくるぞ。休めるうちに休んでおけ!」
 リュックが兵に告げて回る。
 しかし、その日の再攻撃はなかった。思う以上に甚大な被害を与えたのだろう。
 夜になった。
 リュックと二人で、歩きながら星を眺める。セリアと違って、星々は落ちんばかりに燦々と輝いている。足元では、「弟子にしてくれ」と土下座している兵士が点在しているので、非常に歩きにくい。
「変なものを流行らせるな」
 リュックが渋い顔で言う。
「お前のしつけが悪いのだろ」
 澄ました顔で返した。エッダの森時代を思い出して、二人は同時に吹き出す。
 古井戸の前まで来た。
「ここか?」
「……ああ」
「どうした?」
 横のリュックが、まだ星を見ながら、神妙な顔付きをしている。
「いや、何だか懐かしい気がした……」
「あ?」
 怪訝そうに眉を寄せる。
「ほら、空から妖魔が降ってくると言う噂を真に受けて、みんなで山に登ったことがあったじゃないか?」
「ああ、結局たんなる流星群で、森の中のカップルを覗いただけで帰って来たやつね」
 そうそう、とリュックは笑った。
「あの帰り……」
「ああ、お前がそりで(調子に乗ってスピードを出し過ぎて、カーブを曲がりきれずに)森にダイブしたことか?」
「違う! 死んだ直後に何て言われたいか、話し合ったじゃないか」
 はいはいはい、と何度も頷く。
 ジャンが、
『生涯真剣勝負で無敗だった』と言って、
 ラグナが、
『自分に最も厳しい男だった』と言った。
「俺は、明確に目標を持つ二人に対して、引け目を感じた。それは息苦しさすら感じさせるほどだった。そしたらお前が――」
 言いながら、突然失笑する。
「お前が、『おっ、呼吸を始めたぞ。目も開いた、と言われたいね』と言ったんだ」
「そうだっけ?」
「ああ、俺は呆気にとられ、他の二人は爆笑していたよ」
「ちょっと脚色入ってないか?」
「大体あっている。その時、お前が二人とは違うタイプだと改めて思った。そして、漠然と自分がラグナ達白鳳流に惹き込まれて、高潔な人生を生きなければならない、と決め込んでいた事に気付いた。シン程の男でも、ラグナとは違う道を歩く、その事実が息苦しさから解放してくれた」
「意味が分からんぞ」
「うむ、それはだな。お前はいつまでもガキだと言う事だ」
「なんだそれ」
 憮然とした顔を向けると、リュックはさっさと井戸を降りて、暗闇の穴の中へと消えていった。それに、その表情のまま続く。狭い穴の中で、先を行くリュックの背中の気配だけは感じられた。
 リュックはさらに呟く。
「人は些細な一言で傷付き、たあいのない言葉で救われる。お前は俺にとってそういう巡り合わせを運んでくる」
「何か言ったか?」
 声が冷たい石壁に木霊して、よく聞き取れなかった。
「いや、何でもない。じゃ行くぞ!」
「おお」 
 二人は真夜中、城の抜け道を通って、城の外へ出た。そして、寝込みを襲って、敵の士官を数人殺した。
「化け物が出た……」
「怨霊だった……」
「いや、鬼が召喚されたのだ……」
 朝になり、敵陣は騒然となっていた。その戦意は、城内からでも分かるほど落ちていた。
 数日が静かに過ぎた。
 そして、
「援軍だ!」
 物見の兵が叫ぶ。
 城壁の上からのぞくと、ものすごい大軍がまるで蟻が行進するように大地を埋め尽くしている。
「ようやく来たか」
 思わず、安堵の声がもれた。

 シンがオート軍の注意を引き付けている間に、本隊が川岸を密かに進軍していた。そして、包囲網の一角に奇襲攻撃を開始、それに応じて城内からリュックが打って出る。見事に挟撃を完成させた。
 それが留めとなった。オート軍は蜘蛛の子を散らすように撤退していく。
 篭城兵は、夜更けまで騒ぐと、その後死んだように眠った。


 どうにか、倉庫の隅に一つ空間を確保した。静かに眠ろうと体を横たえる。が、すぐに跳ね起きる。一度瞬きをすると、もう朝だった。
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Date:2013/02/05
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Thema:18禁・官能小説
Janre:アダルト

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