第二章 闘いの幻想
ウェーデリア公国首都、グリューネル。
バラクーダ劇場は、メインストリートの四つ角にある。角に建つクラシックな白亜の鐘塔が美しく、ウェーデリアが誇る名建築である。
その鐘塔の一階が正面玄関で、御影石の階段を数段上がって入ると、奥にはカフェがあり、床は全て豪華な赤い絨毯が敷いてある。手前に階段をあり、登った2階に大ホールがあった。
階段の金色の手摺に手をかけて、大きめのサングラスをかけた一組のカップルが腕を組んで下りてくる。
シンとアイラだった。「前にセリアで、楽屋に招かれたときに、見たんだが、冬服の衣装の中に、夏服の衣装を着ていて、裏を走りながら脱いでいるんだぜ」
「へーえ」
アイラは嬉しそうに頷く。腕にぶら下がるようにしがみ付いている。
「主役の子は、あんまり可愛くなかった」
「そりゃアイラが一番さ」
「そうじゃなくて、もういい!」
「危ない」
アイラは、一人先に玄関の回転ドアを抜けたが、御影石階段で、足を滑らせる。
咄嗟に手を伸ばして、腰をしっかりと支える。そして、抱きかかえるようにして、二人で階段を下りた。
「ありがとう。あたし、とっても嬉しい」
アイラは、首に手を回して、情熱的なキスをする。それから、何度もわざと転びそうになり、その度に甘えるように抱き着き、キャキャと喜びの声を上げている。
二人は、もつれるように路地裏を歩き、宿泊しているホテルに入った。
ドーン、カチャ。
部屋のドアを閉め、鍵をかける。
その瞬間、アイラは顎を上げて、舌を差し
出してきた。まるで雛がエサを求めるように、キスをねだっている。
唇より先に、舌と舌が絡み、混じり合った唾液が滴る。唇と唇が、噛み付かんばかりに重なり、唾液を吸い、流し込めば、人工甘味料のようにどきつい刺激的に、心が甘い陶酔感に酔っていく。
「ああン」
唇から離れて、口の周りの唾液を舐め上げて、首から耳へと舌を這わせる。アイラは抒情的な二重瞼を閉じて、悦びに満ちた喘ぎ声をもらす。
完全に、二人のスイッチは入った。
シャツのボタンを外す間に、アイラは洒落たパンプスを脱ぐと無造作に放り出し、スカートを尻が見えるまで捲り上げた。そして、ショーツをするりと片脚から抜き、そのショーツを足首に引っ掛けた脚を腰に絡ませてくる。
「ああん、ああん」
情熱的に鼻を鳴らす。その膝の裏に、手を差し込む。心得たように、アイラは首にしがみ付き、さらにもう一方の足を抱えやすいように持ち上げる。
「あああん!」
軽々と抱え上げると、アイラはそのふわりとした浮遊感だけで、さらなる高揚を感じている。
「うむむむ」
貪るようにキスをする。そして、すっかり馴染んだ穴へと弓なりに漲った肉塊を埋め込む。
「くっ、はぁんんん」
アイラは、満たされたのだろう。安堵にも似た喘ぎ声を発した。
突き上げる。アイラの腰が大きく上下に揺れる。浮かんで落ちてくるタイミングにあわせて、再び腰を突き上げると、また毬のようにアイラの尻が弾んだ。
「ふかいッ!」
男に抱えられ、その男にしがみ付く。さらに、脚を左右に大きく開き、股間を無防備に晒し、秘匿すべき女の穴を、重力に任せて突き出している。何とはしたない姿であろうか。つい数日前までとは全く別人になってしまった。
そうしたのは、セックスの快感だろう。一つの至極のセックスが、それ以前とそれ以後を変えてしまった。いや変えるのではなく、性格の一部を強調したのかもしれない。
それを知ることは、人として、幸せなのだろうか……。
「奥にあたるぅ」
毬突きを激しく繰り返す。
アイラは涙顔になって、情熱的に喘ぐ。抱えている限り、逃げることができない。そのもっとも刺激を感じる場所を、ずっと攻め続ける。
「あ、ああッ、イクっ、イクっ、イクっ、イクっ……あ、あーーッ!!」
この体位で一度いかせた。それから、そのままの格好で歩き、ベッドの上へ放り投げる。
「きゃあ」
公園の急な滑り台をおちる少女のように、無邪気な笑みを浮かべて、短くて小さな悲鳴を上げる。
「は、恥ずかしいよ……」
膝を掴んで、脚を押し開く。まだぽっかりと丸く穴が開き、蜜を湧水の如く溢れさせている。
アイラの消え入りそうな声を聴きながら、その固くとがった豆粒へ舌をあてがう。
「ひぃ、ひゃあああ」
感度よく、鋭く仰け反る。
次に洞窟のように開いた穴の中へと、舌を押し込む。同時に、クリトリスを指で摘まむようにいじる。
「ひぃ、ひぃぃ、ああん」
アイラは、敏感になった柔肉を、弄られて、声にならない悲鳴を上げ続ける。そして、もがくように脚を閉じて、顔を強く挟み込んできた。
まるで罠にかかった兎のようだ、と思う。脱出する方法は、一つ、攻め続けるしかない。
ずるずると穴から蜜をすすり、肉襞を口の中に含み舌腹の上で踊らせる。
「ンぁやぁ、……それらめェ、また、イク、イッちゃう、ま……たッ!!」
強くシーツを握りしめ、白い喉をぐっと伸ばして、かつ、脚を震えんばかりに突っ張らせながら絶叫する。
二度目である。
顔を挟んでいた枷のような脚が弛むと、身を起こして、左手の指でクリトリスを捏ねながら、膣穴の中に指入れて、鉤なりに折り曲げた指で肉壁を掻きまさぐる。
「ひぃーーーーーい!」
地の底から引きずり出したような呻き声を上げて、間欠泉のように、潮を吹き出す。連続で三度目の絶頂である。仕事をした気分である。
満足そうに、荒い息を吐くアイラの隣に寝転がる。
「少しは満足したか?」
「……」
アイラは、無言で乳首に吸い付き、円を描くように舐め始める。
まだのようだ。
「大丈夫、シンは何も心配しなくていいわ。あたしが守ってあげる」
すっかりアイラの口癖になった。これを言いながら熱狂的に奉仕するのが、お気に入りのようだった。
「シンはじっとしていて」
肩、首、顎とキスを繰り返しながら、ゆっくりと顔の方に上がってくる。そして、唇に一度軽く口付けをした後、貪るように吸い付く。ほぞ穴のようにぴったりと噛み合い、互いの口腔を一つに溶け合った唾液が行き交う。
「ン……うぐっ……」
アイラは、苦しそうにふさがれた口の奥で呻く。そして、その唇の感触を堪能し尽くすと、身を起こし、うっとり濡れた瞳で艶かしく見下ろしながら、口を腕で拭った。
そして、足の間に、身体を移動させる。
「冷たい」
自分が濡らしたシーツのシミの上に膝を突き、その量に自分で驚いている。
「すごい……」
「ほんと凄いな」
笑うと、頬を膨らませた。
「誰のせい?」
「アイラがいやらしいからじゃないのか?」
「そういうこと言う人には、お仕置きよ」
足の指に舌を這わせ始める。先、根元、間と丹念に舐め尽くす。
「どう、気持ちいい?」
両足を舐め終わると、舌は太腿の内側を、線を描くように舐め上げながら、ゆっくりと股間へと向かう。
「ほら…気持ちよかったのね、フフフ、アイラ、嬉しいわ」
舌足らずに言う。
指先を股間に這わせて、肉茎を擦り上げて、そして、小さな口を一杯に広げて大胆に頬張る。
「ん…くぅっ……かたい!」
硬度を増す肉の塊に、歓喜の声を上げて、奉仕に益々熱を込めていく。
肉茎の裏側をペロペロと舐め上げ、次に、エラにそってぐるりと舐め回し、時にはフルートのように、横からチュチュと吸った。さらに、袋を口にすっぽり含み、舌先で転がして先端を手で愛撫する。
「アアン……好きよ、大好き」
ついに腰の上に跨り、自分の唾液でべっとり濡れた肉棒に手を添えると、蜜のたっぷりと滴る肉壷に宛がう。そして、一気に腰を下ろした。
「ひッ! ぐッ! あっ…あああっ!」
身体全体を使って、がんがんと腰を振る。部屋中に、ずるずる、という派手な水音が響き渡った。
「ああッ、気持ちイイ。オマンコが溶けてしまいそう」
卑猥な言葉を口走りながら、自らをさらなる淫らな状態へと追い込んでいく。
――なぜ、ここまでするのか?
ふと冷静に思う。
「ねえ、あたしどう?」
その時、アイラは不安そうに質す。
「あたしのオマンコどう?」
まさに縋り付く子犬のような瞳だった。
「ああ、いいよ。よく締まる」
「うれしい」
真っ赤な顔に、涙を流して喜んでいる。
「いつでも自由に使っていいのよ」
そして、髪を乱しながら腰を振る。口から痴女のように涎を垂らす。まさに全身でセックスを表現するように、白い裸体を汗で濡らし、熱病にうなされたように奉仕を続ける。
こんな一途なアイラを可愛いと思った。
だから、強く抱き寄せて、体を入れ替えて、上から覆い被さった。
「イカせてやるよ」
「う、うれしい……あっ、あはっ!」
上気した顔で、至福の表情をする。
膝に手を当てて、足を腹に押し付けるようにして、より深く挿入する。
「うッ! ああ……す…すごい…壊れちゃうっうーー!!」
アイラの身体が浮き上がるのではないかというぐらい、激しくピストン運動を繰り返す。
「あっ…あっ…シンっ…シンっ…!!」
アイラも、名を何度も呼びながら、必死にしがみつき、その腰の動きに呼吸を合わせて、腰を震わす。
「こんなに腰を動かして、淫乱だな」
「だって……だって…こんなの夢みたいなんだもん……」
幼い声で、甘えるように言う。
「んあぁあぁあっ……!」
一つ一つ突き上げに、これまで以上の奇声を上げる。
「あ…あたし達…今ひとつなのね……」
踵で背中を叩くように絡み、断末魔の声を上げる。
「あぁんっ! すっ…すっごい……だめえっ…もっ…もぉ……」
身体が、がくがくと小刻みに揺れる。
「イクッ…イッちゃうぅっ!!」
アイラは絶頂の余韻の中で、荒い息を吐きながら、ブルブルと軽く痙攣する。
「はぁ、はぁ、はぁ、あぁぅ……」
『ねえ、あたしかわいいでしょ?』
キスのあとで、沙月が聞く。
『うん』
『え?』
即答すると、少し戸惑った顔をした。
桜の木の下、背もたれのないベンチに跨って向かい合う。
『君は世界一、かわいいよ』
『うん』
沙月がはにかむ。
『だから、世界一幸せになる権利があるんだ』
『そうね』
冗談だと思って笑っている。その笑顔が愛おしくてたまらない。
『世界一幸せにならないくちゃいけない。そのために僕は全力を尽くす。例え僕という個が消滅しても、君の笑顔さえあればそれでいい』
強く抱き締める。沙月は全身の力を抜いて、受け入れてくれる。
『君のためだけに生きて、君のためだけに死ぬ。それが僕の望みだ』
『それで?』
沙月の声が、直接体に伝わる。
『でも、今の僕には、君を幸せにする力がないんだ』
自然と涙が浮かんでくる。この時、真剣にそう想っていた。これ以上、切実な問題はなかった。
『じゃ、頑張んなくちゃ』
『俺、頑張るよ。君にふさわしい男になるよ』
『うん』
再びキスをする。
――ああ、どこで道を踏み外したのだろう……。
目を覚ますと、ベッドに一人だった。上体を起こすと、奥の洗面室で、アイラが髪を染めている。そういえば、昨日黒髪すると言って、ヘアカラーリング剤を買っていた。
その時、強烈な殺気を感じた。無意識に、ベッドの脇に立て掛けていた刀に手が伸びる。
「やっと起きたの?」
アイラが、洗面台に身体をかがめたまま聞く。
「ああ。おりゃ!」
答えながら、ベッドマットを窓へ向かって蹴る。その直後、二人組の男が、窓のガラスを破って飛び込んできた。
「きゃあ!!」
「ぐがっ!」
アイラの悲鳴がこだまする中で、その男たちは、思わぬマットとの衝突で小さく呻く。
透かさず、マットを二度斬る。
マットに二つの切れ目が走り、二つの血飛沫がマットを赤く染める。
「動くな!」
見知らぬ男の声が背後からした。振り返ると、黒ずくめの男が、背中からアイラの首を腕で締めながら、喉に剣を当てている。
「刀を捨てて、床に伏せろ」
黒ずくめの男が命じる。
しかし、無視して刀を持ちかえながら、無表情に近づく。
「動くな、と言ったぞ!」
黒ずくめの男が叫ぶ。
さらに無視して、近付く。そして、相手の緊張が漲ったところで、ふいに刀を彼方へ投げ捨てた。相手の目が、その軌道を無意識に追う。
「うがっ!」
その瞬間、小柄で、男の剣を持つ腕の神経を斬り、さらに、目から突き入れ、脳を貫いた。
アイラは刀へ向かって、駆けている。そして、転びながら取り、素早く投げ返してきた。
「はい」
「ああ。待っていろ。すぐに終わる」
刀を受け取ると、ドアに向かって構える。
開いたドアの裏から、二人組が入ってきた。左右に広がって、一人は低く、もう一人は高く剣を構える。
「きぃええええ!!」
低い方に打ち下ろす。
愚かにも剣を立てて防ごうとする。
そのまま斬撃を走らせて、その剣を切断して、男を袈裟切りにした。
そして、床近くまで下がった剣先を、素早く振り上げる。上段から打ち下ろす剣とすれ違う。その際、微かに接触させて、激しく弾き飛ばした。
剣が、天井に突き刺さり、男は万歳をする格好をしている。
刀を顔の脇に立てる。
「きぃえええええ!」
再び、渾身の一撃を放った。
黒ずくめの男を真っ二つにすると、廊下に出る。
女が一人いた。
連絡係だろう。メイドの制服を着ている。そして、怯えて壁に張り付いていた。その股の下に、刀を突き刺す。
「お前も、二つに裂かれたいか?」
女は泣きながら首を振る。腰が砕けてかけて、股間に固い鋼が当たった。途端に、爪先立って、芋虫のように背中で壁を上ろうとしている。
「誰に頼まれた?」
刀に小水がかかる。
「命じた者は何処にいる?」
震える女の視線が、破れた窓を指している。
振り返ると、湖に豪華な船が浮かんでいた。
室内は、見事な装飾品で飾られていた。どれも歴史的価値があり、金を積めば手に入るようなものではない。一目で、そこらの富豪ではない、と分かった。
「失礼いたします」
お茶を持ってきた侍女が、下がっていく。よく教育されているらしく、余計な事は一言もしゃべらなかった。
「……相当な上流階級らしい」
感想を短くもらす。
間もなく、廊下から足音が聞こえる。その足運びだけで、相当な手練れだと感じた。
重い扉が開いた。老紳士が入ってきて、執拗用の大きな机に座った。
「暴れたそうだな」
老紳士の第一声である。その瞬間に、室内に言い様のない威圧が満ちていく。神経がピリピリと張り詰め、筋肉に自然と力が篭る。
「……ユリウス1世殿下」
声を絞り出すように呼んだ。
ユリウス・レヴィ=ディーンは、この時70歳を越えていた。頭髪はすでに白く、頂点部まで薄くなっている。しかし、ゆったりとした服から垣間見える筋肉は、些かも衰えていない。眼光は鋭く澄み切り、彼が未だ現役の剣士である事を物語っている。
彼は神威帝を父に、アフロディースを母に持つ。まさに剣士のサラブレットだった。幼少の頃から、剣と学問に長け、両親に頗る愛された。
後に、南陵流宗家となり南陵各流派を纏め上げ、剣術界の泰斗として君臨するようになる。
逸話は多い。
現在でこそ文武両道に優れた男と評されているが、10代の頃は荒れていた。
セリアで喧嘩が起きれば、その中心には必ずいた、と噂されるほどであった。
弁舌にも優れ、戒めようとする者を逆に丸め込んでしまったことも多々ある。
そこで神威帝は愛弟子ラン・ローラ・ベルに預け、養育された。
そして、猛稽古の果てに、生死の境を彷徨うこと、十数度。
ようやく瞳が鎮まるようになり、両親を安堵させた。この頃から友情に厚くなり、律儀な一面を持つようになる。
しかし、血気盛んな面は、20代となってからも相変わらずだった。将軍や大貴族を殴り倒す事、度々である。
一度など、勝利の祝宴の席で、泥酔した当時の統帥総長を、同輩の将軍をからかったという理由で、馬乗りになり殴りつけた。
さすがに、一同は青ざめた。
ついに神威帝自らが引き離すという事態になり、事件後、母親は短剣を喉に当てて、一緒に死のう、と涙ながらに諌めた。それで、ようやく謝罪した。その後、役職を全て剥ぎ取られて謹慎を命じられる。
年を経て落ち着きを得たが、相変わらず曲がった事が嫌いで、頑固一徹であった。しかし、友や下の者に対して優しく、面倒見がよい。民衆はこの剛毅さを愛した。
不祥事の度に辺境に飛ばされ、その度に、数々の武勲を重ねる。後に、『エッダの森』を興して、若者の教育に力を尽くした。
が、晩年は報われていない。
後継者であったユリウス2世が、ビルンタール軍に大敗して戦死すると、続々と子や孫が死去していく。
さらに、16代サリス皇帝カール7世の後継者を巡って、オルテガ=ディーン家と争うことになった。当初、彼自身は、レアル2世と争うつもりは毛頭なかった。
『エッダの森』の学生達が、宰相レアル2世の政治を声高に非難したし、さらに、カール7世が、娘ティルローズを女帝にしたいと、支援を求めてきたために、対立する立場になっていった。
「シン・ハルバルズよ、久しいな」
ユリウスが穏やかな声で言う。
「どうして、私を殺したいのですか?」
警戒心を解かずに、ユリウス1世の目をじっと見据えて質す。
「殺すつもりはない。ちょっとした願いを聞き入れてもらいたくて、案内を送っただけだ」
「ほお、ずいぶん手荒なお招きで……」
徐にお茶を飲む。
「以前、お会いした時のこと覚えていらっしゃいますか?」
舌先に苦みを遥かに超える、心の奥に仕舞い込んでいた想い出を、久しぶりに持ち出す。
「少しは」
ユリウス1世は、臆面もなく答える。
「あの時、私は、土下座をして、殿下の助成を乞い願いました」
抑えようと思っても、どうしても声が昂ぶる。
「覚えておる」
「しかし、殿下は、唐突に心理テストを始められた」
「そうだったか?」
「森の中の一軒家を覗くとバケツがある。その中の水の量は、と聞かれた。私は『パッと水を投げ捨てた時のように底に少しだけ残っている』と答えた」
「なるほど」
にやにやと口元を緩める。
「そうやって笑いながら、『水は愛情の量』と殿下は教えて下さった。純朴な田舎者の仮面を剥がして、不遜な野心家の顔を暴かれたわけです」
「ほお、で?」
「ええ、当たっていましたよ。感謝しています、心から。自分が、他人の愛に応じる資格のない人間だと悟りましたから」
「己を哀れんだ自分語りはその辺でよかろう」
「何!?」
満を持して、牙をむく。自然に会話しながら北陵流の間合い詰めた。生還は叶わないだろうが、手刀で、油断した老人の頭ぐらい砕けるだろう。
「シンよ、これは悪い話ではないぞ」
全く敵意を意に介さず、悠然とユリウス1世は言う。
「余は、ソロモン・ディアスを誅伐することにした」
その言葉は、心を激しく揺さ振った。何度も夢に見て、待ち望んだものだった。しかし――分からない。
「事情が変わったのだ。レアル2世が間もなく死ぬ」
怪訝な表情に、ユリウス1世は苦笑すると、自ら少し事情を説明した。
「これは皇帝陛下の御意志でもある」
「……」
「どうだ、余の駒になってみぬか?」
――この老人は、事が済めば俺を殺す気だろう……。
それは疑いの余地がない。利用されるだけ利用されて、あとはゴミのようにぽいと捨てられるのだ。
それを重々承知してなお、心にあるのは、水のように静かな心境だった。
――それでいいではないか!
元より、絶望と倦怠に沈んだ魂が、一つ消えたところで何の問題があろう。
要は、この肉体が滅びゆく前に、あの穢れた肉の塊に、刀の切っ先を突き刺さればよいいのだ。その後、この身が八つ裂きにされようと晒しものにされようと気に留めるほどのことではない。
「――で」
「うぬ?」
「俺は何をすればいい?」
「ははは」
ユリウス1世は、然も愉快そうに笑う。
精々笑えばいいさ――世界はお前にくれてやる。好きにすればいい。好きなだけ弱い人間を操ればいい。だが、一太刀だけは、自由に使わせてもらう。
ユリウス1世に合わせるように、よく似た笑顔を作って見せた。その瞳の奥が、燃えるように熱い。
「おい、気付いているか?」
ユリウス一世が何かを問う。その声は奇妙なほど真剣だった。
「お前の瞳の奥に赤い光が宿っているぞ」
9月14日、セリアの短い夏が終わり、秋の風が薫り始めて、鰯雲が青い空を飾っている。
馬車は、セリア市内を南西へと進む。途中窓から巨大なオーディン像が見えた。
「帰ってきた……」
ようやく実感がわく。
馬車を下りると、エッダの森の中を進む。小さな池の辺で釣りをする、草臥れた中年の男がいた。
「カイト師範……?」
カーク・カイトは、北陵海闘流の道場主である。
父親のマーク・カイトが北陵流を分かり易くした海闘流を創設し、それを、門弟2000人を数えるほどの大道場に育て上げた。
剣の腕以上に、経営の手腕もなかなかのものである。いつも忙しく扇子を振り、彼方此方駆け回り、北陵流の普及に苦心して来た。
それが生気の欠片もなく、真っ昼間から釣りをしていた。
「釣れますか?」
後ろから声をかける。
「釣れはせんよ。針がついておらんからな……」
カイトは力なく笑った。
「……」
無言でその場を立ち去った。
階段を上って北陵冥刀流の道場に入った。道場は閑散としていた。門の屋根と石畳に草が生えて、かつて若者達の声が絶え間なく響いていた空間は、蜘蛛の巣が張り、床には埃が積もっている。
勝手口に回る。土間に転がっていた木刀を踏み、思わず拾い上げた。昔日の思いが込み上げ、つい素振りをする。と、視線を感じて振り返る。
「お帰りなさい」
そこには佐々木十三の妻、『美月』が毅然と座っていた。
二人は座敷に向かい、シンは位牌に手を合わせた。そして、美月の方を向く。
「ご無沙汰致しました」
「……元気でしたか」
「はい……」
両手をついて、頭を下げる。美月は少し白髪が目立ち始めたが、昔のまま背筋を伸ばして、凛としていた。
「明日、南陵流宗家の剣士として試合に出ます」
「……そうですか。あなたも新しい人生を歩むのですね……」
美月は優雅な手つきで、茶を口に運ぶ。
「ソロモン・ディアスを滅ぼします」
美月の手の動きが止まった。
「……復讐ですか?」
「そうです。ユリウス殿下と手を組みました」
「……あなたも傷付きますよ」
「覚悟の上です。ユリウス殿下から誘われた時、あの日以来、凍り付いていた私の血が、熱くたぎり出したのです。もうこれは誰にも止められません」
「勝っても負けても地獄ですよ」
「それは分かっています。しかし、自分には明日は必要ありません。今日を生きることが出来れば、今日を生きる実感さえあれば、それで十分なのです」
「……あなたがそこまで言うのなら、わたくしはもう何も言えません」
美月は席を立つと、一本の刀を持ってきた。
「名刀『不知火』です。持っていきなさい」
「ありがとうございます」
「いいですか。あなたは一人ではありません。あなたが地獄に落ちるのなら、わたくしも一緒に落ちましょう」
「……」
美月は表情を変えず、威厳に満ちた瞳を向けている。彼女もまた戦っていたのだ。道場存続のため別の流派から師範が来る事になっていたが、彼女はそれを断り、ここで一人朽ち果てようとしていた。最後の意地であろう。
道場を後にする。
足がすごく重い。旧知の人々と思い出の風景が心を和ませ、それが返って、気分を苛立たせた。突然立ち止まると、その場で不知火を抜いて、刃に白い月の姿を映す。
「随分乱暴をなさるのね。ここはエッダの森。叡智の聖地よ、慎んでもらえるかしら」
背後で聞き覚えのある声がした。振り返ると、白いブラウスに、ベージュのブレザーに、臙脂色のプリーツスカートとネクタイをした一団がいた。その中で、一人の女性が一歩前に出ている。
――アイリス・ド・サリヴァン……。
心の中で、彼女の名を呼んだ。
アイリスは水色の髪、水色の瞳をしている。すっきりとした顎の線と、凛とした瞳の光は、彼女の意志の強さを感じさせていた。そして、口紅を塗っている訳でもないのに、情熱的な紅い唇は、濡れたように艶やかだ。
父親のジョルジョ・ド・サリヴァンは太学の元教授である。今はエッダの森で私塾を開いて、シンも政治学の講義を受けた事がある。
彼女も非常に優秀で、太学の学生会長を務めている。会長らしく統率力に優れ、思慮の深さと凛とした態度を崩さない事から、歩くリーダーシップと呼ばれて、取り巻きも多い。
頭脳明晰な優等生であるが、一方で、背が高く豊満な肉体をしている。そのアンバランスが彼女をより魅力的に彩っていた。「あなたは――シン…シン・ハルバルズ!」
アイリスは驚いた表情をした。彼女の後ろでも、ひそひそと騒ぎ出す。
「生きていたのですか?」
「……」
「父も心配していましたよ」
踵を返して、無言で立ち去ろうとする。
「ラグナが聞いたら喜ぶわ」
「……ラグナは元気ですか?」
かつての親友の名に、思わず足が止まり、聞き返していた。
「ええ、大法院の州法院を転々として、見習いをやっているわ。人は武で争わなくとも、法で共存共栄できると頑張っていの」
アイリスは楽しそうに言う。
「それでは、もう剣術は……」
「忙しくそれどころじゃないらしいわ」
「そうですか」
内心安堵した。
「会えて本当に嬉しいわ、ねえ……今どうなさっているの?」
アイリスは、心底、心配そうに訊ねる。
「アイリス様、お時間が。シャロン様がお待ちです」
取り巻きの一人が、彼女に耳打ちする。
「そうだったわ。今から用事がありますので、明日にでも、もう一度ゆっくりと……」
丁寧な口調で挨拶するアイリスが、突然ぞっとした表情で立ち竦んでしまった。
「瞳の中に赤い光が……?」
「何です?」
「いえ、何でも……」
「それでは」
一礼して、そそくさと立ち去る。
顔にそっと手を当てる。シャロンという名に、感情は嵐のように乱れてしまった。きっと殺気を剥き出しにした表情をしてしまったのだろう。シャロンは、オルテガ=ディーン家の姫である。
9月15日、皇帝剣術指南役を決める天覧試合の日がきた。
各流派の代表が、宮殿の数ある中庭の一つに集められた。そして、トーナメント形式で戦いが始まる。
「それまで」
第一試合、鋭い剣筋で、若者が簡単に勝利を決めた。
この若者はケイセン子爵の子で、名を『アンドレス』という。サンクトアークで南陵緋燕流を習い、その才能を高く評価されている。
アンドレスは、ソロモンの後押しを受けて、メジャー五大会制覇(セリア、ミッズガルズ、サイア、アルテブルグ、サンクトアーク)を成し遂げて、『剣聖』との評判を得ていた。「さすが剣聖よ」
称賛の声が試合会場に溢れた。
若くして得た名声は、自信過剰へと導く、自分の通った道を省みて、思わず苦笑する。
その後も、アンドレスは、秒殺で勝ち進んでいく。
一方である。
初戦から、相手に攻め込まれて防戦一方であった。要所で相手のミスに助けられて、辛くも勝ち残る体たらくである。
ついに決勝の時が来た。
「よもやユリウス殿下が用意したのが、あのシン・ハルバルズだったとは……」
会場がどよめく。
控室の通路で、アンドレスが挨拶しに来た。
「あなたが相手でよかった」
アンドレスが笑いながら言う。
「どれほど勝っても、エッダの四剣士と比べられていた。これで誰が世界一かはっきりする」
目がギラギラと輝いている。その野心を隠そうともしていない。
「しかし、あの動きにはがっかりだ。スピードもパワーもない。一撃で沈めてやる」
興奮気味に勝利宣言する。
やがて、
「南陵極聖十字流シン」
シンを呼び出す声がして、シンは道場の中央に進む。反対方向に、アンドレスも姿を現した。
両者は皇帝の居る方へ、膝をつくいて礼をする。だが、二人から皇帝の姿は見えない。魔法『光のカーテン』が遮蔽しているからだ。
――あそこにソロモンと……そして、レアルがいる……焦るな!
熱い血が頭に逆流していくのを覚り、慌てて、冷静さを取り戻せ、と自分に言い聞かせる。
二人の選手は揃ったが、しかし、審判が居ない。
「皇帝陛下」
そこに、ティルローズ皇女が颯爽と進み出る。
ティルローズは、透き通るような白い肌を藍色の鎧で包み、腰まで伸ばした黄金のさらさらの髪が、それによく映えている。そして、顔は小さく、瞳は青く澄み切り、手足はすらりと長い。
「この歴史に残る一戦には、神威帝の意志を受け継ぐ者こそ立ち会うべきでは?」
「それもそうだな」
弱弱しい声がした。とてもこの世界統べる男の声とは思えないし、ましてかの神威帝の末裔とも思えない。
「何卒、その栄誉をわたくしに」
「分かった。そなたに命じよう」
「有り難き幸せ」
深く頭を垂れて、感謝の意を表す。どこか芝居がかっていた。
「始め!」
ティルローズが宣すると、両者は間合いを取り、木剣に殺気を込める。
アンドレスは正眼に構えた。そして、誘うように剣先を震わせている。
一方、下段からゆっくりと中段へと移行する。
剣先と剣先が触れ合おうとする瞬間、アンドレスが先に動いた。
木剣を巻き込むように絡ませて、巻き篭手を狙っている。その目論見は、読めている。
――甘い!
腕を引いてそれを事前に避けた。
だが、アンドレスの動きは止まらない。右足を踏み込むと、首筋に突きを連打してくる。
――小賢しいな!
後退しながら、その鋭い突きを左手一本でいなす。しかし、そのしつこい連打に、次第にバランスを崩し、棒立ちになってしまった。
会場が静かである。
観戦者たちは、勝敗の決する瞬間が早々に訪れたと思い、固唾を飲んでいるのだろう。
――俺が負ける瞬間を待っていやがる!
誰も目にも、優劣は明らかだ。あのユリウス1世さえも、悲痛な表情で、そっと目を伏せている。
だが、次の瞬間、
「勝負あり! 勝者、シン!!」
ティルローズの声が会場に轟いた。観戦者たちが、驚きの反動で、一斉に盛大な歓声を上げる。
慌ててユリウス1世が目を開ける。驚きと安堵の色がある。少しは、肝を冷やしたらしい。いい気味だ。
アンドレスの繰り出す突きを完全に見切っていた。そして、何度目かの突きの時、より早く後方へ下がる。
――ついてこい!
間合いを完全に外されたアンドレスは、一瞬焦りを感じ、迂闊に前に出てきた。距離があるため、アンドレスの動作はどうしても大きくなってしまう。
それを見逃さない。
アンドレスの伸び切った腕が引き戻されるスピードより速く、一気に踏み込む。そして、アンドレスが、懸命に受けようとする時、そのすぐに右前に転じて、アンドレスの面を撃つ。
道場隅での攻防は、圧勝と言えよう。
アンドレスは、目の前で止まっている木剣を見ながら、まだ愕然としている。アンドレスにとって、自分より速く正確な剣捌きは、初めての体験だったに違いない。
「二本目、始め!」
アンドレスは慎重だった。正眼に構えていると、ぐるりと時計回りに回って、ついに道場を一周する。
どうしても、間合いを詰める事が出来ないのだろう。それほど自分を凌駕するスピードに混乱しているのた。
――貴様の心理、手に取るようにわかるぞ。
動揺した心を操るように、徐々に隅へと追い込んでいく。
そして、アンドレスは苦し紛れに、上段から打ち込んできた。
その瞬間、神速の突きを撃つ。
アンドレスの胸を直撃する。
突き飛ばされて、場外の地面を転がり、そのまま動かなくなった。気絶したのだろう。
「それまで!!」
完全勝利だった。
試合後、ユリウス1世が用意した礼服に着替えて、彼の執務室で待つ。
「試合勘が鈍っていたようだな」
たっぷりと待たされた後の第一声だった。
ソファーから立ち上がり、一礼をする。その前を通り抜けて、ユリウス1世は、自分の執務用の机に腰掛ける。
「殺して宜しければ、もっと楽に勝ちましたよ」
「ほお」
葉巻を取り出すと、端をカットして、マッチの火で炙る。そして、口の中に煙をゆっくりと溜め込んだ。
「勝ちを意識した相手ほど、倒しやすいものはありませんから。それまで待ちました」
繊細な煙の柔らかな味を口中で楽しむと、灰皿に灰を落とした。
「似合うじゃないか?」
そして、口元を綻ばせる。
「マントがついています」
訝しげに問う。
「当然だ。謁見するのだから」
「礼服でのマントの着用は、貴族にだけ許されています」
灰色のマントを慣れない手つきで広げる。
「そうだ。今夜からお前は男爵だ」
「なっ……」
呆れ果てて、しばし言葉を失ってしまう。
「聞いたこともありません。剣術大会に勝っただけで、爵位を頂けるなんて」
どうにか、驚きの一端を声にした。
「普通なら、な」
「普通じゃないのですか?」
「ああ、普通じゃない」
「何処が?」
「お前は今日からディーンだ」
「はぁ?」
おそらくとんでもなく間抜けな顔をして、聞き返したことだろう。全く寝耳に水である。
「お前の祖母はラン・ローラ・ベルと言って、神威帝の側室の一人だった」
「そんな……聞いていませんよ」
余りに突拍子もない話に、驚くより先に失笑が漏れた。
「信じられんのも無理はない。だが、お前は紛れもなく神威帝の血を引いている。お前の剣術の才がそれを証明している」
雷に打たれたように、度肝を抜かれた。もはや茶番を通り越している。こんなちゃちな捏造が許される筈がない。
「何を考えておられるのですか?」
「命令に説明はない。お前も武人なら与えられた任務に集中しろ」
一撃で幹を切り落とすように、きっぱりと会話を打ち切られた。取り付く島もない。
「はっ」
笑う。笑うしかない。ユリウス1世の覚悟を知った。ソロモンを滅ぼすためならどんな手段でも厭わない。そして、事が終われば、捨て駒の存在自体を消滅させるつもりなのだろう。決して気を許してはいけない。
――だが!
上等である。この男に従えば、作戦は成功する。要は、留めの機会さえ見逃さず、この手で行えればそれでよいのだ。
その後、シンは皇帝への謁見が適う。
謁見はグランクロス宮殿の最大の広さを持つ『黒金剛石の間』で行われる。
『黒金剛石の間』は、黒い床の光沢が非常に美しく人目を引くが、それ以上に印象的なのが、柱が一本もないことだろう。魔力で天井を浮かべて、広大な空間を作り出しているのだ。
また、内部は最上段、上段、中段、下段と分かれている。
最上段には皇帝の玉座がある。上段には右側が将軍、左側に宰相を筆頭に九卿などが並ぶ。中段には十親家などの名門貴族が列を成す。 式部官に、下段に案内された。
緋色のカーペットの上で、跪き、恭しく礼をする。この時、カール7世との間は、100メートル以上は離れていた。その気配を感じ取ることはできない。
一通り武勇を称えられ、剣を賜ることになっていた。
だがその時、ユリウス1世が進み出て、その無茶苦茶な素性を語る。気恥ずかしさで、全身から汗が噴き出している。
しかし、カール7世は大きく頷いた。
「そなたを、朕が正式にディーン一族の一員と認めよう」
「はっ」
謁見の間に地響きのようなどよめきが起きた。当然であろう。これは、信じてしまう皇帝の方がおかしい。
これにより、男爵の爵位と小領地が与えられ、そして、威北将軍に任じられた。
上段に進み、将軍の列に加わる。
周囲の視線が痛い。こんな無茶苦茶なことが許されていいわけがない。いつ、「お言葉ながら」と進言する者が現れるか、ひやひやする。
事の首謀者で、頼みのユリウス1世を探したいのだが、言葉を交わすどころから、まともに他者の顔を見ることができない。
視線が、人を避けて宙を舞う。
そして、偶然、ある一点を捉えた。
子爵家の当主で、40代半ばの恰幅のいい男性である。肌は浅黒く、目がギョッとするほど大きい。あくの強い顔で、会う者は忘れ難い強烈な印象を覚えるだろう。
ソロモン・ディアスである。
中段をじっと見下ろす。もはやそれ以外の感情はない。
ソロモンは気付くと、笑顔を浮かべたまま、膝を曲げて礼をする。
――もうお前に手が届く!
笑う。心の底からどうしようもなく笑いが湧き上げてくる。
大いに笑う。
口が三日月のように耳まで裂けて、髪は逆立ち、瞳が真っ赤に爛々と輝いている。
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