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□ 幻想の嵐≪続エリーシア戦記≫ □

プロローグ

プロローグ


 風が出てきた。普段静かなエリース湖が波立っている。
 船底を叩く波の音に起こされて、少年は甲板に出た。夜はしらしらと明けようとしている。少年の他にも、10人前後の大人が甲板にはいた。もう春だというのに湖の上を通ってくる風は冷たく、皆、腕などを擦っている。
 少年は、進行方向へ視線を向けるが、かすみがかかって全く何も見えない。
「おい」
 見知らぬ中年の男性が、震えながらガウンを差し出す。
「僕はなれているから」
 屈託のない笑顔で応えた。
「何処の出身だ?」
「アスガルドです」
「アスガルドと言えば北の果てだろ、そいつは長旅だったな」
 中年の男性は、納得すると、急いでそのガウンを纏う。
「ボーズは幾つだ?」
「10だよ」
「セリアは初めてかい?」
「うん」
 その時、前の方に立っていた、一人の若い男性が、いきなり叫んだ。
「セリアだ!!」
 その若い男が指差す方向を、甲板上の皆が見詰める。
「闘神オーディン像だ」
 かすみの中から、巨大な影が現れる。6本足の馬に跨るオーディン像は、セリア港の入口に立ち、セリアのシンボルである。
「うわぁーっ、すっげえデケェ!」
 少年は思わず叫んだ。その声が船内にも聞こえたのだろう。あっという間に甲板は人で溢れかえった。
 帆船はエリーシア世界を支配する神聖サリス帝国の帝都セリアに入港する。

 少年はアスガルドを貨物船で旅立つと、北海を横切ってカーナに入り、そこから陸路、ゾーネブルグへ向かった。トラペサ大河を川船で下り、下流のハンナで海洋船に乗り換えて、ドネール湾を南下した。ペラギアから大運河を使ってシデに至り、エリース湖用の帆船に乗り換えた。そして、この日、ようやくセリアに到着した。

「おっかしいな~ぁ、ブルース先輩来てないのかな~ぁ」
 少年は桟橋の上で頭を掻いた。迎えに来るはずの人物が港に見当たらない。人波に押されて、港の広場に出る。その隅に膝を抱えて座り込んで、まるで倍速のように歩く人々を呆然と眺めていた。
「大変なところに来ちゃったなぁ~」
 思わず溜め息が出る。
 石畳の上を歩く蟻を眺めていると、いきなり前に影が立つ。見上げると、異国のワ服姿をした三つ編みの少女が、リンゴをかじって立っている。
「迷子?」
「違うよ、人待っているんだ」
「ふーん」
 少女はじろじろと観察する。そして、少年の唯一の荷物に目をつける。
「それ剣だよね、剣術家志望なの?」
「うん」
「じゃ、エッダの森に行くんだ」
「そうだよ」
「よし、分かった。連れて行ってあげる。ついておいで」
 少女は少年の手を取って、さっさと歩き出す。戸惑う少年を、強引に、乗合馬車に押し込み、30分ほど走る。そして、長い階段の前で今度は馬車から蹴り出した。
「ここ何処だよ?」
「ほらほらこっち」
 少女は階段を上り始める。100段ほど登った先に門があった。
「北陵…冥刀…流……佐々木道場!?」
 少年は、顔を顰めて、看板を読み上げる。
「そうあたしんっち」
「ほら、ここに推薦状があるでしょう。僕、南陵氷狼流ウォルフガング道場に入門が決まっているから」
 慌てて、少年は書状を取り出す。これだけが、この見知らぬ地での命綱である。
「ああ、あそこね。昨日潰れたよ」
 少女は横を見て、軽い口調でささやく。
「嘘だ。目が嘘だと言っている」
 少年はその目を指差す。
「細かい事気にしない!」
「あっ、そんなぁ……」
 少女は少年が持っていた推薦状を素早く奪い、躊躇なく破り、さらに、丘の下へ投げ捨てた。
――誰がここまで非道なことすると思うだろうか……。
 少年は唖然とその行為を眺める。よもや己にこれほどの悪行が降り注ぐとは、容易には受け入れられない。
 反射的に、雪のように舞い散る紙片を目で追う。切なさと絶望が、宙に拡散する紙片と同じように、小さな胸の中で渦巻いていていた。
 そして、その時、まさに運命の一瞬であろう。
 眼下に広がる大都会が、視界いっぱいに飛び込んできた。
「すげぇ……」
 ただただ、その光景に圧倒される。もはやそれ以外の感情は消えてしまっていた。
「でしょう。ここが、一番眺めがいいのよね。あたし大好き」
 少女は少年の横に立つと、春の零れ日の中で、最高の笑顔を向ける。
「さぁここで一緒に天下取るのよ」
 そして、手を差し出す。
 少年は、無意識に、その手を掴んでいた。
「よし、決まった。お父さん、入門第一号が来たわよ」
 少女は現金な声で叫ぶと、さっさと門へと駆け出していった。そして、今度は突然立ち止まると、くるりと髪をなびかせて振り返った。
「ねえ、名前なんて言うの?」
「え?」
「名前よ?」
「ああ、ジン、ジン・ハルバルズだよ」
「そう、シンって言うんだ。知ってる? シンってワ国語で、新しいって意味なんだよ。あたし達に相応しいね」
「いや……シンじゃなく、ジンなんだけど……行っちゃった……」
 少年が訂正を加えようとするよりも速く、少女は再び駆け出していた。
「はぁ……そう言えば、母さん言ってたなぁ、都会の女には気をつけなさいって……」
「ねえ、シン」
 少年が溜め息つくと、門からひょっこり少女が顔を出す。
「あたしは沙月、佐々木沙月だよ。よろしくね」
 沙月は、春の陽射しのように、爽やかに笑っている。それは、まさに、一枚の絵画のようだった。心臓がギュッと締め付けられ、何かよく分からない感情が、胸に込み上げてくる。
「……まぁ……シンでもいいか」
 シンは、火照った頬を掻きながら、門をくぐった。
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Date:2013/02/01
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Thema:18禁・官能小説
Janre:アダルト

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