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□ エリーシア戦記66 □

66-4

「……ぅ、……んぅ」
 アルティガルドの王女マルガレータは、オーギュストの身体の下にいた。むっつりとした顔を横に向けて、唇を固く結んで、かつ、目に力を入れている。彼女なりに必死に、感情を押し殺しているのだろう。
 オーギュストは、ゆっくりと胸を弄る。浮き出た鎖骨、小ぶりだが形のよい乳房、木苺を思わせる乳首を、羽のような柔らかな手付きでそっと動かす。
「ぁ……」
 マルガレータは我慢できずに、雲の上を歩くような、ふわりとした口調で喘ぐ。すでに乳首は、まるで凶器のように固く尖っている。
 オーギュストは、頭を下げて、その乳首を咥える。昼間、ホシブドウのデザートを食べた時から、今夜は、マルガレータを抱くことに決めていた。
 気分上々に唇で啄ばみ、舌先で突き、舌腹に弾き、そして、前歯で甘噛みする。思う存分、好物の味を堪能し尽くした。やはりホシブドウよりも美味いと、内心思う。
「ぁぁ……ぁん」
 感情とは裏腹に、マルガレータは、たっぷりと鼻にかかった声をもらす。目をうっとりと閉じ、唇をだらしなく半開きさせている。
 オーギュストは、まだまだ名残惜しそうに、乳首から口を離した。その未練を表すように唾液が細い糸となって間を繋ぐ。
 そして、マルガレータの棒のように細い脚を肩に担ぎ、その薄い腰を持ち上げる。余分な肉はなく、本当に内蔵が収まっているのか疑いたくなるほどだ。
「うぅ、ううん、ぁああ……」
 秘裂が、オーギュストの眼下に晒されている。恥ずかしさとこれから訪れる快楽への期待感に、ぐらりと脳が揺れる。だが、素直に声を出す気になれず、低く呻くような声をもらす。しかし、身体はもっと正直で、どろりと、蜜が割れ目から滴り落とした。
「……」
 無言のまま、オーギュストは巨槍を股間に宛がう。毎度の事ながら、その貧弱な下半身との対比に、違和感がある。もしかしたら裂けるのでないのか、内臓を傷付けるのではないのか、と酷く非道な事をしているような錯覚を抱いてしまう。
「行くぞ」
 一言囁いてから、ずぶりと分身を埋没させる。
 これも毎度だが、不思議に、マルガレータの蜜壷は、あっさりと飲み込んでいく。まさに生命の神秘だろう、とオーギュストは一人感心している。
「はあぁぁぁ……、いい……すごくいいぃ…わぁ……」
 抑えていた分、感情が烈しく弾けた。マルガレータは、派手に大きな声を上げる。そして、それに気付いて、慌てて口を両手で押さえる。
――そろそろ、かな?
 何かを怒っている。初めから分かっていたが、聞いて素直に答えるタイプではない。しかし、ここまで心を溶かせば、少しは話が出来るだろう。
「あう、あぅん、あううう……」
 脚を担いだまま、喘ぐマルガレータに圧し掛かる。自分の脚で押し潰され、窮屈な姿勢となり、さらに、深く突き刺さって、マルガレータは一瞬眉間を寄せて苦悶の表情し、次に蕩けるように開いて甘く悶えた。
 二人は、汗ばんだ裸体をピッタリと密着させ、かつ、熱く視線を絡めて交わっている。
「怒ってる?」
「別に……」
 まだ足りないらしい。
 オーギュストは、二つに折りたたまれたマルガレータを、肩と腰に手を回して、強く抱き締めた。
「ううん、あぁ……」
 マルガレータは、身動き一つ出来ない。まるで鎖で縛られたようである。もはやその秘部を守るものもない。無防備になった尻を、激しく衝き捲られる。それを遮る術もない。
「ほら、言いなさい」
「いや」
「ほらほら」
 言いながら、大きく、大波のように腰を動かす。腰が前に出るたびに、マルガレータは美しい脚で宙を漕ぎ、顎を突き上げた。
「明日、行くくせに」
 衝き上がってくる快楽に、何時までも、逆らっていられない。目尻に小さな滴を浮かべて、唇を尖らせながら拗ねた口調で言う。
 オーギュストは一度「明日?」と内心で復唱して、ようやく理解できた。明朝、剣術の定例対抗戦がある。
「グレタも来ればいい」
「嫌よ、絶対に嫌――」
 はっきりとし過ぎる声で、思いっきり否定する。
「あの泥棒猫の家に、どうして私が行かなければならないの?」
 対抗戦の場所は、鎮守直廊三人衆の一人マルティナの兄クラウス・フォン・アウツシュタイン男爵の屋敷で行われる。
 マルガレータの乳母がマルティナの生母だったために、二人は、主従でありながら、姉妹のように仲が良かった。それが、何時の間にか、マルティナがオーギュストの女になっていたために、マルガレータは、阿修羅の如く立腹している。
「だから、マルガレータのためだって言ってるだろ」
「……」
「みんながもっと仲良くするためだって」
「……」
「それともグレタは、自分の気持ちを信じて、俺の言葉を信じないわけ?」
「う……うーーん」
 グレタは子供のような泣き顔になる。
「ほらこんな固くなっている。分かるだろ。俺の想いが分かるだろ」
 適当なことを言いながら、強く衝く。
「あうぅんん、あぐぅん」
 深く衝かれるたびに、マルガレータは顎を上げ、唸るような声をもらす。
「うん、分かった。だから――」
 そんな中で、マルガレータは子猫のように甘えた声で、素直に頷いた。
「は、はやくぅ、チュウして」
 マルガレータは、ほんのちょっとも待てない。焦れ切ると首を擡げて、まるで貪るようにオーギュストの口へ吸い付いた。
「うぐぅ、ぐぐぅん」
 自ら舌を伸ばして、オーギュストの舌に絡めると、素早く動かして愛撫する。そして、互い唾液が口の周りに滲むと、それをずるずると音を立てて吸う。
「お、おいしいぃ……いい、気持ちいい……」
 マルガレータのしなやか手が、オーギュストの顔を包む。瞳をうっとりと潤ませ、酔うように口元を呆けさせる。
「よし、いい子だ」
 オーギュストは言うや、思う存分、柔肉を抉る。交われば交わるほど、素直になるマルガレータを心底可愛いと思う。その熱い想いが、全身の筋肉を烈しく躍動させる。
「おぅんん、あがぅうん」
 女体の奥深くまで犯されると、その巨槍で、脳天まで貫かれるのでは錯覚してしまう。しかし、もはや言葉を紡ぐことさえ出来ず、獣のように吼えながら、侵入を少しでも抑えたくて、必死にオーギュストの太腿を押さえた。
「ダメぇ、だめぇ、壊れちゃうぅ……」
 際限なく繰り返される激しいピストン運動が、快楽の圧力を高め、血の滾りをマグマのように上昇されていく。
「イクぅーーーん!」
 その薄い胸の中で、ついに快感が爆ぜた。堪らず、辛うじて揺れる二つの膨らみを突き出し、細く長い喉を仰け反らせる。そうして、白目をむいて、呼吸を苦しそうに乱す。
「まだだ!」
 しかし、オーギュストは、攻めを止めようとしない。
「……ぅん」
 脚を蛙のように開かせて、腰に手を置くと、凄まじい勢いで腰を打ち付ける。もはやマルガレータは、糸の切れた操り人形も同然である。喘ぐことも、悲鳴を上げることできない。
「……っ、……ッ」
 今衝かれたのか、今引き抜かれているのか、判然としない。それらがほぼ同時に行われているような気がしている。
――これを彼女は見ている。
 マルガレータを抱きながら、オーギュストはカメラの向こうのメルローズを思う。メルローズに別の女性とのセックスを見せる事にしたのは、複数での行為に免疫を作るためである。だが、今抱く華奢な身体とは対照的な豊満な肉体を思い、また熱い思いが湧き上がって来る。
――あの脚を抱き上げて……。
 脳裏に、メルローズの片脚を持ち上げて抱き、腰をその付け根に叩きつける光景を思い浮かべている。あの完璧な肉体は、うねるように波打つだろう。細身の身体を蹂躙しながら、そのたわわに実った果実を夢見る。
「……ぁ、……っ」
 もうマルガレータの意識はない。あれほど減らず口を叩き続けていた唇も、呼吸音しか発しない。
 彼女の精神は、襲い掛かる悦楽の波に攫われて、現と夢の間を漂う一枚の木の葉と化している。
「うぅ」
 ついにオーギュストの動きが止まる。一段と膣奥深くを突き上げると、石までも爛れた火口のように、蕩けきった膣穴へ、熱い分身一斉に解き放った。
「おい、起きろ」
 オーギュストは、気絶したマルガレータの頬を叩いたが、溢れ出た涙が散るだけで、意識は戻らない。
「だらしがない」
 吐き捨てるように言うと体を離した。そして、水差しから水を注いだ。
 これはエリース湖の水源から、遥々運ばれてきた水である。一口味わって、オーギュストは神妙な顔付きで、窓辺に立つ。
「エリース湖が、ざわついているようだ……」
 どう言う訳か、血が騒ぐ。赤い瞳が自然と北を向く。北の大地で何かが起きようとしている……。そんな予感が胸を過ぎった。


※外濠内
 グランクロス宮殿の外堀内に、壁のように館が並ぶ。
 右端には、フェルディア勢の長屋群があり、その隣には、ルートヴィヒ・フォン・ディアン男爵の屋敷、刀根小次郎の屋敷、クラウス・フォン・アウツシュタイン男爵の屋敷、そして、エドガー・ディーンの屋敷があった。
 オーギュストの兄エドガーの屋敷があることから、彼らが、一門衆としての扱いを受けている事が伺える。

 マルティナの兄クラウス・フォン・アウツシュタインは、アルティガルド軍士官として数々の戦いに参加し、武勲を重ねてきた。
 第一次カリハバール戦役では、グレヴィ出城を守り切った。ロードレス戦役では、シュナイダー軍先陣を務めた。ゾーネ湖南岸の戦いでは、『バクト砦』司令官を務めた。そして、パルディア戦役では、敵軍の補強線を断つ活躍を見せた。
 しかし、敗戦の責任を問われ、レオンハルトの配下に左遷された。レオンハルトの失脚後、妹マルティナとともに、マルガレータの護衛としてサリスに赴いた。そして、オーギュストから、男爵位と将軍位を与えられた。
 また、南陵紫龍流の達人である。庶子であり、家を継ぐ立場にはなかった彼は、幼年学校から修練を重ね、剣の才は群を抜くと評されるようになった。

 翌朝、オーギュストは、クラウス・フォン・アウツシュタインの屋敷を、非公式に訪ねた。
 クラウスの屋敷には、天井の高い立派な道場がある。シューズボックス型で、市松模様の闘技場を、2階建ての列柱が囲んでいる。
 ここでは、定期的に、ウェーデリア公国との対抗戦が行われていた。
 この日は、ウェーデリア公国側には、ウィリアム・ロイド伯爵が来ていた。オーギュストよりも一世代上であり、誰もが憧れた存在である。才気煥発、眉目秀麗、ウェーデリア第一の騎士として広く知られている。
 オーギュストは、裏口から道場に入った。オードリーとノースレイン子爵夫人デイジーを伴っている。オードリーは、ノースレイン子爵の妹だから、二人は義理の姉妹と言うことになる。
 オードリーは、丈の短いノースリーブに、チェック柄のミニスカートを着ている。そして、デイジーは、ビキニに、ローライズのホットパンツである。二人とも、競うように露出を高くしている。
 2階の列柱の影を歩いていると、マルティナが、若い門弟に、稽古をつけているのが目に入った。
 鋭い踏み込みで、左右の連打を門弟に繰り返す。防ぎ切れずに、門弟は木剣を飛ばされてしまう。マルティナは、徐に眉間に剣先を突きつける。
「何度言ったら分かる――」
 眼光を険しくする。
「肩の力を抜かないから、二撃目に対応できないのだ」
「……はい」
 門弟は、荒い息の中で、ようやく頷く。
 マルティナは、木剣を肩に担ぐと、脇に控える門弟達を見渡した。
「見ての通りだ。力任せに剣を振り回しても、隙が大きくなるだけだ。無駄な動きを省き、コンパクトにスピーディーに剣を捌け!」
「はい」
 一斉に、門弟達が返答する。
 その時、目の端に、2階の特別室の遮蔽カーテンが揺らぐのが見えた。
「よし、今日はこれまで」
「ありがとうございました」
 一礼する門弟達を残して、マルティナは足早に2階へと向かった。

 オーギュストは、遮蔽機能のあるカーテンで覆われた2階特別席にいた。
「マルティナは元気だな」
 頬杖した顔で、オーギュストは小さく欠伸した。
「失礼します」
 マルティナは入ると、オードリーとデイジーを一瞥した。そして、オーギュストの前で、軽装の防具を解いて、身体にピッタリと密着したインナー姿になる。
「ご苦労だった」
 労いの言葉をかけると、一杯の水を与える。
「恐れ入ります」
 マルティナは跪いて、一礼してグラスを受け取った。水を含むと、乾いた身体に染み渡り、新たな汗を吹き出させた。
「陛下……」
 マルティナは、インナーのスパッツを脱いで、腰を曲げ、膝に手をおき、尻を突き出している。
「まだご満足頂けていないご様子。よろしければ、わたくしをお使い下さい」
 そして、股の間から顔を覗かせて言った。
 その時、ふんとデイジーが鼻を鳴らした。
「少し襞が長すぎるようね。色も濃いし」
 そして、マルティナの横に並ぶと、同じような格好で、秘部を見せた。さすがにエルフの血が流れるデイジーのそこは、毛は少なく、襞の色素は薄くて、膣肉は、鮮やかな桜色をしている。
「おお」
 オーギュストが感嘆の声をもらす。
 今度はマルティナが鼻を鳴らした。そして、胸を締め付けていたブラを外すと、豊かな二つの膨らみをオーギュストへ捧げる。
「失礼致します」
 さっと脚の間に跪くと、ベルトを慣れた手付きで外し、巨槍を取り出すと、つきたての餅のように柔らかい純白のふくらみで挟んだ。そして、エルフの末裔の華奢な女を横目で見て、口の端に微かな微笑を浮かべる。
「ほお」
 オーギュストは豊麗な肉の弾力に、満足そうに唸る。
 胸の谷間からは、身体の火照りと汗の香りが感じ取れた。剣術の、戦いの気配である。それだけで、体中の筋肉がビクビクと疼く。これを紛らすには、更なる刺激が必要だった。
 オーギュストは、オードリーに目配せする。
 オードリーは察しよく、身体を倒して、二つの潰れた乳ぶさから、はみ出た槍先へ舌を運んだ。
「……」
 一人取り残されたデイジーは、嫉妬の思いを滲ませて、小さく舌打ちした。

 闘技場では、調度、クラウスとウィリアムが試合をしている。他の者は、列柱の裏にしりぞいて、座り込んだり片膝立てたりして、試合を見ていた。
 鋭い気合が響きあって、木剣が絡み合う。それも一瞬で、二人は素早く足を引いて間を空けた。再び激しい気合とともに、ウィリアムが打ち込んでいき、それをクラウスは木剣を上げて迎え撃った。二人は、目まぐるしく体を入れ換えて、至近距離で苛烈に打ち合う。
 そして、ぴしゃりと乾いた音が道場に轟いて、二人は動きを止めた。するすると離れて、互いに一礼する。
 そして、ウィリアムは、特別室を見上げた。
――デイジー様ほどの方が何故……。
 その頬はこけ、目は窪んでいる。悩みの色が濃く顔に表れていた。

 試合の後、クラウスの門弟を相手に、オーギュストは軽く稽古した。
「どうした、もう誰も動けんのか!」
 オーギュストは、叱咤しながら木剣を縦に小さく素振りする。木剣に滲んだ血が散って、道場の赤く床を染める。その床には、力尽きて倒れた門弟達が転がって呻いていた。
 稽古の後、庭に用意された宴の席で、寄り添うマルティナに酌をさせる。
「良い稽古でした」
 肩のあざを見せて、クラウスが笑う。
「たまには、人相手に剣を振るわぬと勘が鈍る」
「ごもっともです」
 声に張りがある。試合の後とあって、クラウスは、気分が高揚しているようだった。
「アルティガルドの様子はどうか?」
「特に変わった報せはありません」
「そうか」
 オーギュストは頷くと、酒を一気に飲み干した。そして、立ち上がると「風呂」と告げる。その瞬間、女たちの顔が、はっと晴れる。
 浴場に入ると、まだ用意が整っておらず、金色の浴槽に、メイドたちがお湯を運んでいる途中だった。マルティナは、苛立ちを抑え切れず、メイドたちをしかる。メイドたちは、恐縮して顔を伏せて出て行こうとする。
 ふいに、オーギュストが、そのうちの一人の腕を掴んだ。
「お戯れを」
 メイドは照れた顔を隠すように俯く。しかし、オーギュストは決して手を離そうとしない。
「お前の顔に見覚えがない。何時からここに居る?」
 その瞬間、メイドの顔が鬼の形相となった。目がカッと開くと、口から針を吹く。オーギュストは、顔の直前ギリギリで、それらを指の間で挟んで防ぐ。
 しかし、その隙に、オーギュストの腕を振り払って、メイドは、庭へと跳び出た。
「出合え! 追え、逃がすな!」
 すぐに、マルティナが大声を出して、家臣に命じる。
 生垣を飛び越えようとする女の背に、深く矢が突き刺さった。そのまま生垣の中へ落下する。
「ご無事ですか?」
「申し訳ございません」
 矢を射たのは、デイジーである。
「しかし、よく見抜かれました」
 安堵の表情をしたマルティナが、眼を丸くして問う。
「若い女の顔が同じに見えるようになったら、男は終わりだ」
 オーギュストは答えると、「さて」ともう一度浴場で足を向けた。その時、再び戦いの雄叫びが聞こえてくる。
「動いたぞ」
「まだ生きているぞ」
「怯むな」
 その喧騒が、オーギュストの心を躍らせた。
「面白い!」
 そして、踵を返して、戦いの場へと向かう。
 ブンブンと鎖が回る音が響く。
 女は塀の上にいた。どこに隠し持っていたのか、今は鎖鎌を手にしている。メイド服を脱いだ女は、男のような体格をしていた。露出した肩は筋肉で盛り上がり、太腿は同よりも太く、腹筋は割れている。
『東西、東西』
 突然、朗々とした声を発した。
「これ以上自由にさせるな!」
 左右に迫ったクラウスの家臣が、一斉に仕掛ける。
 鎖鎌の分胴が、凄まじいうなりを上げて、宙を横に薙いだ。形容できない音響が轟き、男たちの体の一部が、まさに煙のように消し飛ぶ。
『天下のお立合い』
 また言う。まるで舞台の上の女優のようである。
 その時、オーギュストは塀の下に立ち、鋭い眼光で女を見上げていた。
『戦いの神と……』
 平然と言葉を続けると、女は返って来た分胴を握り、今度は鎌を投げて、頭上で回転させ始めた。
『破壊の神……』
 そして、塀から飛び降り、オーギュストへ襲い掛かる。
 オーギュストの前髪が斬り落ちて、舞い散る。
 女はオーギュストとすれ違い、その背後に着地したが、そのまま動かなくなった。鎌も砂をかき上げて止まった。女の顔に大量の血が垂れる。先ほど吐いた自分の針が、眉間に突き刺さっていた。
『再び始まる神々の戦いや如何に……』
 女は最後の言葉を血ともにもらすと、どうと響きを上げて、屈強な体を地に打ち倒した。
「……」
 クラウスの家臣は皆金縛りにあって、誰も倒れた女に近づくことが出来ない。
「私が確かめます」
 意を決して、クラウスが、つかつかと歩み寄ろうとする。
「止せ! まだ何かある」
 咄嗟に、オーギュストが止めた。鎖鎌に魔の発動を微かに感じている。その声に鋭く反応して、クラウスは足を引いた。
 その瞬間、鎖鎌から光が溢れた。それは烈しい風となり、忽ち竜巻となって天へ伸びる柱となった。
 竜巻が治まった跡には、塵一つ残っていない。
「不思議なこともあるものだな……」
 オーギュストは、今や一点の曇りもない空を見上げて呟く。
 千年枯れた水路に、千年留まり続けていた塵があった。己が水路の一部と思い、塵であることさえ忘れていた。しかし、ふいに流れ来た水を受けて、塵は軽々と動き出す。そんな物語を思いながら、オーギュストは笑った。

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Date:2010/12/31
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Comment

* あとがき

これで終わりです。良いお年を。
2010/12/31 【ハリー】 URL #- 

* No title

久しぶりに見に来たら、HP閉鎖したのかと思って焦りましたww
ググってここにやっと辿り付きましたよ
できれば可能な分だけ過去掲載分を再掲載できないでしょうか?
2011/01/03 【】 URL #- 

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