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□ エリーシア戦記66 □

66-1

第66章 嚆矢濫觴


――アルティガルド史
 アルティガルド王国は、エリース湖北部の雄である。その歴史は230年ほど遡る。
 神聖紀1001年、聖サリス帝国4代皇帝フィリップ1世が病に倒れた。幼少の頃から病弱だったフィリップ1世には実子がなく、5代皇帝の座を巡る宮廷の争いは、大規模な内乱へと発展していく。
 当事者の一方は、アルテブルク公フェルディナントである。彼は3代皇帝シャルル1世の妹カロリーヌの子で、シャルル1世の甥になる。
 もう一方が、聖サイア王国王太子アレクサンドルである。彼は皇帝フィリップ1世の姉ジョセフィーヌの子で、シャルル1世の孫となる。
 二人の戦いは激しく続いたが、神聖紀1003年にアレクサンドルが、帝都セリアを制圧すると、ついに5代皇帝に即位した。
 だが、北の本拠地に一旦退いたフェルディナントは、これを認めず、自らも皇帝を名乗った。そして、神聖紀1005年には国名を聖アルティガルド帝国とし、最盛期にはゲルマニア、ガノム海岸までの広大な地域を支配した。
 こうしてエリーシア世界は南北に分裂する。以後約40年間を南北朝時代と呼ぶ事になる。
 神聖紀1041年、『カヤの戦い』で、サリスがアルティガルドを撃破する。この敗戦を機に、ロードレス神国、ウェーデリア公国などが、アルティガルドから独立、さらに、北方でも叛乱が続いた。こうして、アルティガルドは急激に衰退へと向かっていく。
 神聖紀1045年、この状況下で、アルティガルドの3代皇帝レオポルド1世が、サリスの7代皇帝フィリップ2世に臣下の礼を行い、廃位すると以後王に封じられた。
 こうして、南北朝時代は終わり、1062年にはエリース湖とドネール湾を結ぶ大運河(グランカナル)が完成し、サリスは絶頂期を迎える。しかし、1151年にカリハバールに侵攻したサリス軍が、『アンゴラの戦い』で敗北すると、エリーシア中原は激しく揺れていく。超インフレ、農村の崩壊、都市治安の悪化など、サリスは弱体化へと向かい始めた。
 この頃、アルティガルド王国では、5代王レオポルド3世で直系が途絶え、3代レオポルド1世の弟カールを祖とするホーエンルーウェ系の王が、3代続いていた。しかし、『アンゴラの敗戦』という激震に巻き込まれて、社会秩序は乱れて、王の権威は失墜した。
 この激動の世界を、ルイ(第9代皇帝カール3世の弟)と、カタリナ(5代王レオポルド3世の娘)の夫婦と、その子供達が協力し合って安定へと導いていく。
 第一子のルイーザは男勝りで、気弱な第10代皇帝カール4世と結婚すると、皇帝に代わってサリスの政務一切を担った。そして、セリアを最悪の混乱期から救い出す。また、地方の叛乱には、弟の第二子アンリーを派遣して鎮圧していった。
 アンリーは豪傑であったが、姉のルイーザだけには頭が上がらず、常に従順だった。後にサイア王国に入って、第9代サイア王アンリー6世となったが、姉との関係はその後も継続され、サリス・サイアの絆をより強固なものにしていく。
 しかし、ルイーザの改革は、有力者に爵位を与えて傘下に組み込み、婚姻関係を結ぶ事で関わりを深くしていくなど、旧来の封建体制の秩序回復に留まり、新時代への躍進には至らなかった。これが後のサリスの低迷へと繋がっていく。
 新時代を切り開いたのが、第三子のフェルディナントだった。彼は、父親ルイにして、天才と言わしめた男である。初めシュタウフェン地方を根城にして、アルティガルド国内を武力で制圧していく。それは徹底したもので、一族皆殺しなど当然{あたりまえ}だった。
 その強引で残忍なやり方は幾度となく反発を招き、度々裏切りによる大敗北を喫したが、その度に再起を果たしている。その粘りと悪運の強さは、恐怖の対象ですらあり、次第に、鬼神と呼ばれるようになった。
 こうして、有力な大貴族を次々に滅ぼして、絶大な権力を握ると、第9代アルティガルド王フェルディナント2世となる。後に院政を敷き、子の第10代王オトフリート2世、孫の第11代王フェルディナント3世の時代に、その強力な権力と指導力で、古い農地と街道を再整備して商農工を盛んにすると、富国強兵を推し進めた。
 最晩年には、中央集権と絶対王政を確立し、国力は充実させた。そして、低迷の続くサリスとの立場を逆転させていく。
 最後に、第四子は兄弟達とは違う人生を選ぶ。家族のような争いの中の人生を嫌い、北辺の開拓に生涯を捧げた。そして、北辺の名門カイマルク公国を興す。カーン公爵家は北辺の人々の精神的支柱となり、人々の尊敬を集めたが、当主の人材には恵まれず、ついには歴史の中に埋もれていく。


【神聖紀1234年4月、アルテブルグ】
 本格的に、『ジークフリードの大獄』が始まって一年以上が経過している。姉の七光り、捏造された武勲、これらを糾弾されることを恐れる余り、粛清は苛烈さを窮めた。
 結果、ジークフリードの嘘を知る者は全て消え、異論を唱える者は去り、宮廷は、小者ばかりが跋扈する状態となっていた。
 こうして、ジークフリードは、国政の一切を掌握することに成功していたが、知識階級への懐柔も怠りなかった。
 大学などの教育機関への予算を大幅に上げたり、任官の機会を増やしたりした。さらに、過去に政治批判などで処分された人々を、名誉を回復し、元の職に戻したりした。その一方、彼らの言動や行動を細かく監視し、時には厳しく弾圧した。
「名宰相現る!」
 学者達は、次々に、ジークフリードの功績を賛美する論文を発表し、論壇は、ジークフリードの活躍を称えるものばかりとなり、民衆はその夢に酔い痴れていた。
 しかし、流布された言論が、どんなに栄光に満ちていようと、現実の政治の混乱は、人々の生活を確実に蝕んでいく。
 悪質な改鋳により通貨トリムは信用を失い、金融市場は破綻、貨幣価値は暴落し、物価は高騰し続けている。そこへ、ヴィルヘルム1世を夢の世界に繋ぎおくために、新たなる宮殿の建設が始まり、その費用を賄うために、増税が決まる。さらに、銀の流出を防ぐために、貿易の制限を行い、経済の発展を止めてしまう。
 しかし、厳しい言論統制の中で、識者たちの論調に疑問を持つ者が、若者を中心に現れ始めていた。


※アルテブルグ郊外。
 一つの山が丸裸になっていた。丘が削られ、谷が埋められ、森が切り開かれて、資材運搬用の道が山頂まで通されている。切り立った山頂には、白亜に輝く幻想的な宮殿が築かれていた。その凛とした佇まいは、鶴の姿を連想されるほど美しい。
 新宮殿建設現場は、昼夜を徹して突貫工事が続けられていた。きつい作業を終えて、地下から埃だらけ男たちが這い上がってくる。そして、黒い顔に疲れを滲ませたまま、無言で宿泊所へと歩いて行く。
 宿泊所は、アルティガルド人の気質を表すように、無数の長屋が整然と並んでいる。長屋の中は、ただ二段ベッドがずらりと詰まっているだけなので、暗くて熱く、労働者たちは寝るとき以外は、外に屯していた。
「はいはい、真直ぐ並べ。スープは逃げやしないよ」
 炊事小屋の前に恰幅のいい中年女性が立ち、盛大に鍋を叩いて、男たちを誘導していた。男たちは、黙々と従って、鍋の前に定規で線を引いたように列を成していく。
「今日も豆のスープか……」
 その時、皿に注がれたスープを見て、金髪のウルフヘアーの若者が、露骨にため息を落とした。
 まだ幼さを残しているが、端整で精悍な顔立ちをし、小柄だが躍動的な肉体をしていた。身振り手振りで不満を伝えているが、その一つ一つの動きが、きびきびとしていて、まるでダンスをしているように見えた。
「何、文句あるの!」
 白いエプロンに、三角巾をしたワ国人の少女が、険しく睨み付ける。
「キョーコちゃん、頼むよ。肉をたっぷり」
 今にも泣き出しそうな顔で、手を合わせて懇願する。それに少女は、困った表情をした。平らな胸に張られた名札には、『キョーコ・キザシ』と書いてある。
 羽のように浮きそうな華奢な身体で、繊細な顔立ちの小顔にショートボブをしている。子供のような容姿だが、ヘソを出すなど露出が多い服を平然と着ていて、一部の層にたいへんな人気があった。
「マニュアルの分量から、1グラムでも狂うと、主任から怒られるの!」
「こっちは育ち盛りなんだぞ!」
「つべこべ言うんじゃない。あたしの父ちゃんは、もっと粗末な物しか食えなくても、立派に働いてきたんだ。あたしが、ばちを与えてやるよ!」
 キョーコは、頬を膨らませると、乱暴に、おたまを振り上げた。そして、躊躇なく全力で振り下ろす。
「ちょ、ちょっとたんま」
 意表を衝かれて、慌てて、仰け反って避ける。まさか本気で攻撃されると思わなかったのだろう、顔中に驚きが溢れていた。
「本気かよ」
「逃げんな!」
 安全を確保すると、その顔がふいに緩んだ。
「怒った顔も素敵だね」
 けんもほろろに追い払われても、軟派にウィンクしてみせる。
「うるさい!」
「んじゃ、また。おっとっと」
「二度と来るな!」
 まるで踊るようにくるりと回って、左右に軽やかにステップを踏んで、労働者達の間を巧みに縫うように駆けた。
「まったく、チャラい男だ」
 キョーコは、腰に手を当てて、口を尖らせた。
 人混みの中を抜けると、広場の前の道を華やかな一団が進んで行くのが見えた。今夜、劇場で公演中の楽団だと、その装いから分かる。男は黒っぽい服に咥えタバコで、女は厚い化粧に露出の大きなドレスで、どこか不健康な雰囲気がする人々だった。
「……」
 ヴォルフの目が、露出した胸の谷間で留まる。その影に、小柄な少女の姿が見えた。
「お! フィネだ……」
 ロングヘアに大きなリボン、ロング丈のワンピースという格好が、清楚なイメージを与えている。フィネ・ソルータ、楽団の看板歌姫である。
「おい、ヴォルフ、こっちだ」
 その時、隣の広場に、使い古しのテーブルが点在する。その一つから、名を呼ぶ声がした。
「おお」
 まるで野兎のように、二三のテーブルを俊敏に飛び越えて、空いた席に滑り込む。
 この若者は、『ヴォルフ・ルポ』。西方のブルムハルト村から、新宮殿建設のために徴収されてきた。
「早く食べて、劇場行こうぜ」
「ああ」
 隣の幼馴染が、肩に手を回して顔のすぐ隣で告げる。それに、ヴォルフは少し照れながら笑顔で頷く。
「げっ、何だ、この味」
 その時、後のテーブルから、吐くような苦い声が聞こえてくる。ヴォルフが、何気なく肩越しに視線を向けると、深刻な会話が聞こえてきた。
「肉が腐ってるぞ!」
「またかよ……」
「最近よくあるよな……」
 その時、ヴォルフは思わず口を滑らせた。
「あのさ、ジークフリード様は、本当は、無能じゃないのかな?」
 その声は、即座に四方に拡散した。そして、少し離れたテーブルの年長者が、大声で笑い出した。
「ジークフリード様は、偉い先生方がこぞって褒めていらっしゃるお方だぞ」
「小僧、お前は、超エリートにでもなったつもりか?」
 忽ち、嘲りの笑いが広場中に伝播した。
「だってよォ。最近こんなんばっかじゃないかァ!」
 ヴォルフは、顔を真赤にした。そして、勢いよく立ち上がろうとするが、咄嗟に幼馴染が腕を掴んで止めた。その手も荒く払い除ける。
――胸……?
 しかし、中腰になった瞬間、目の前を黒い影が覆ってしまった。大きな二つの膨らみが目の前にある。
 黒いスーツの下、白い立ち襟のギャザーシャツが、引き千切れんばかりに膨れている。
「うぅ」
 思わず、ヴォルフは、息を呑んでたじろいだ。まるで落ちるように、椅子に腰掛ける。
「お前たち、喧嘩は職務規定違反ですよ。静かに食べなさい」
 その女性は、振り返ると凛とした声を張った。
 腰まである明るめの長い茶髪を、仕事の邪魔にならないように後で丸く束ねている。そして、以外に柔和な顔立ちを隠すように、耳の前の毛を長く垂れし、また、知的だが鋭利過ぎる眼差しを緩和すように縁の太いメガネをかけていた。
 その直後に、スキンヘッドの現場監督が、地の底に響くような怒声を発した。
「ベルタ主任の言葉が聞こえんのか!」
 この現場の管理職の一人で、宮殿普請を請け負ったビルフィンガー建設の主任ヴェロニカ・ロジーナ・ベルタである。
「いい加減にせんと、一ヶ月間、便所掃除担当だ。クソがカレーに思えるまで、便器を舌で舐めさせるぞ!」
 その声は、沸騰しかけていた男たちの頭に冷水を浴びせた。忽ち男たちは黙り、渋い顔でスープを啜りまくる。
「おい」
 ひと落着すると、主任と呼ばれた女性が、ヴォルフを振り返る。
「元気なのはいいが、少しは自重しろよ、少年。次に騒ぎを起こせば、懲罰だ」
 丸めた図面を剣のようにして、ヴォルフの首にあてた。
「……あ、はい」
 ヴォルフは緊張で、肢体を硬くした。その耳元で、女性は優しく囁く。
「今夜、公会堂に来い」

 深夜、下心を丸出しにした顔で、ヴォルフが公会堂に入る。すると、そこは熱気に包まれていた。集まっている者は、皆、若い。
「知識人たちは、ああいうが、俺にはさっぱり分からない」
「ああ、俺もそうだ」
「絶対に間違っているぞ」
 きつい労働の後と言うのに、熱心に日頃の疑問を呟きあっている。
 壇上に長身の男が登った。赤い長髪を背中で束ねて、長い顔に、横に細長いメガネをしていた。
「あの人は……」
 ヴォルフは彼を知っている。
 ロマン・ベルント・プラッツ。
 有能な設計士で、少し悪い左足を引きずって、この建築現場をいつも駆け回っていた。穏やかで、責任感が強く、面倒見がよかった。彼がいなければ一日たりとも現場は動かない、と評されるほど皆から慕われていた。
「諸君、無知は罪である!」
 よく通る声が、群衆に放たれる。そのたった一言で、場のざわつきが一斉に消えて、人々は真摯に耳を傾けた。
「政府や識者たちが、覆い隠そうとする真実を暴かねばならない!」
 続けられる演説は、構成とメッセージ性に秀でいた。そして、約15分の演説が終わった時、聴衆の心を掴んでいた。
「やっぱり俺たちは騙されていたんだ!」
「そうだ。俺たちは搾取されていた!」
「おお、俺たちも真実を知ろう」
 ついに、若者たちは、共通認識に至った。
「……すげぇ」
 ヴォルフは興奮していた。内容はよく分からなかったが、新しい時代を強く風を感じていた。
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Date:2010/12/27
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* あとがき

人気低迷のため、主人公降格が決定しました。ギュス氏は「今後は一悪役として頑張る」とコメント。
嘘ですw
残りも今年中に更新します。では。
2010/12/27 【ハリー】 URL #- 

*

主人公交代とか一瞬ビビりました。ギュスにはこれからも頑張ってもらいたいです
メルかわいいよメル
2010/12/28 【kei】 URL #- 

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