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□ ほんの短い夏《序章中編》 □

――8――

――8――
 鷹佐は機嫌良く鼻歌を歌いながら、麻由美の陰毛をぬるま湯でぬらす。
「このくらいだな」
 剛毛が筆のようになっている。剃刀を手に取り、 臍の下に刃を当て、ゆっくりと手前へと引く。
「っ……」
 肌の上を刃が滑る感覚は、麻由美にとって、生まれて初めての経験だった。刃の恐怖と不思議な心地よさに戸惑い、
い……わ」
 足を開かせて、秘唇の周りを丹念に剃り、尻の穴の皺を伸ばして剃った。
「ぁぁ……っ!」
 じょりじょりという聞きなれない音に、清楚な美貌が羞恥に震える。そして、鼓動が早くなり、身体の奥がじわりと更に熱くなった。
「ほお、美しい」
 やがて、豊かな毛は剃り落ちて、秘唇にひんやりとした空気がふれた。鷹佐は、白い布で、恥丘から尻の穴の周りまでをきれいに拭き取った。肉襞は、少しも弛んでなく、色も白い。あまり使い込んでいない証であろう。
「あぁぁ……」
 褒められて、喘ぎ声が震え、髪の毛の先までも痺れていく。
「あ、ありがとう……」
 場違いなような気もしたが、感謝の言葉を述べた。ここまで許してしまって、これから二人はどうなっていくのか、心が慄いた。もう二人の間を遮る障壁など存在しないように思えた。
「あなたのことだから、耳長族の女も抱いたのでしょ?」
 けだるい声で、麻由美がささやく。鷹佐の膝の上に、馴れ馴れしく顔を乗せている。
「ええ」
 鷹佐は盃をあけて、頷いた。一仕事終えて、ゆったりと寛いだ表情をしている。
「どうやって口説いたの?」
 面白そうに囁き、銚子を傾けて鷹佐の盃に酒を注ぎ、それを自分ですすった。
「蛸壺の中で、カラクリ仕掛けの花火を解体していたのだが、しくじって、点火させてしまった」
「まあ」
 子供のように無邪気にほほ笑む。
「あと数秒というところで、偶然止まったのだが、極度の緊張で、二人とも精神の均衡が崩れてしまったね」
「うん」
「思わず言ってしまった。これが終わったら同衾しょうとね」
「ふふ、それで?」
 麻由美は興味津々に聞く。
 ふと鷹佐の脳裏に、火照った小麦色の肌に張り付いた銀髪、咽返るような体臭、汗のしょっぱさ、そして、今にも折れそうな華奢な骨組みの感触が蘇っていた。

『ええ、いいわよ』
 ケレブリアンの声は熱病にかかったように興奮していた。鷹佐同様、理性の針が振り切れていたのだろう。
 そして、後日の、
『我々は、決して嘘を付かない』
 生真面目な顔で決意表明するケレブリアンのかわいらさ……。

 いつの間にか、鷹佐は笑っていた。
「それで、彼女は約束を守ったの?」
「ああ、エルフ族は約束を決して破らないそうだ」
 赤い月の下に美しい裸体が横たわる。映像が頭に浮かぶと、腹の底に黒い衝動が疼いてきた。
「へーえ、世界を救った英雄で、美女も手に入れたわけね。幸せなこと」
「そうでもないさ」

 ケレブリアンを抱いた後、エルフ族の男たちの反応が変わった。元々侮る素振りはあったが、それが明らかな憎しみに変わっていた。
『貴様の行為は万死に値する』
 そして、あの日、鷹佐は罠にかけられ、夢界に落とされてしまった。

 突然、鷹佐は銚子を手に取り、直接口へ流し込む。とにかく腹の底の疼きを酒で洗い流したかった。
「ちょっと、……もう、うう」
 それに、麻由美は不服そうに頬を膨らませる。その苦情を遮るように、鷹佐は、麻由美に口付をする。口と口の接点から、透明の酒が滲み落ちる。
「男というのは、仕事が上手くゆき、美しい妻を得た者を強烈に嫉妬するものさ」
「まぁ大変、もう、またぁ、仕方ないわね」
 麻由美が勃起した肉棒に気付いて、愛おしく扱き始めた。
 鷹佐が優しく麻由美の髪を撫でる。麻由美は、ふっと二人の出会いからこの瞬間に至るまでの記憶を振り返ってきた。
 始まりは、礼儀に則った簡素な挨拶に過ぎなかった。例えるなら、水のように無色透明で、日常にあふれたものだった。それがどうして、こうも赤く、燃えるような色に染まってしまったのだろうか。
――これが運命の悪戯だろうか……。
 世界の常識が覆させたような気分だった。
 そそり立つ逸物は、天を衝き、隆々たる姿を誇っている。どこか汚いものと言う印象があり、出来るだけ触ろうとしなかった。
 思わず、ごくり、と喉を鳴らす。これを受け入れていた、と思うようになった自分自身が摩訶不思議だった。
「見ているだけでなく。ほら、咥えて」
「急かせないの」
 笑うが、内心、それほどの余裕はない。やや不安げな面持ちで、肉棒に口を近づけていく。
 口唇奉仕の経験は少ない。せがまれて、仕方なく咥えたことはあったが、すぐに吐き出してしまった。
 唇が先端に当たる。脳髄が麻痺する。心臓が早鐘のように鳴った。
「あ~ぁ、す、すてき……すてきよ」
 一気に根元まで男根を呑み込むと、すぐに上気した美貌を前後に揺らし始めた。
「ふぐぐっ……フウウンッ」
 喉の奥を衝いてしまい、苦しくなる。だが、それが次の瞬間には、無上の悦びになっている。
「逞しいわ……とっても」
 陶然とした面持ちで、甘く蕩けた声をもらす。
 反応を探るように、舌を出して、根元から舐め上げていく。子供の頃、大好きだった飴を舐めるみたいに、大きく舌を使っている。
「ねえ、気持ちイイ?」
 奉仕をしているのに、股間がズキンと疼き始めたのが分かる。このような悦びが、自分の人生の上にあるとは思いもしなかった。この歓喜の先には天国がある。もう死んでもかまわないとさえ思う。


 真夜中に、二人は帰宅した。
「ご隠居様がお越しです」
 出迎えた下女が狼狽したように告げる。
「まあ、お祖父さんが」
 麻由美は驚きの色を顔中に表わした。
「はい、離れにお通ししておきました」
「ご苦労様」
慌てて奥へ向かった。そして、狐につままれたような表情で戻って来るとそっと鷹佐の傍に寄ってきて、神妙な顔付きで意外なことを告げる。
「突然ですか……」
「はい?」
「わたくしも戸惑っているのですが……」
「何でしょう?」
「祖父が会いたいというのです」

 離れへ続く廊下を渡っていると、夜空に、心細いほどの薄い三日月が、山の影から上って、儚げな光を落としている。
 元々、この屋敷は、大藤宗玉の夏の別邸だった。約4年前、突如出家して、後を麻由美が譲り受けていた。しかし、離れだけは、当時のままに変わっていない。
 離れには、実用的な物が整然と置かれているだけで、飾りらしきものは全くなかった。老人の歩んだ栄光の人生を、この部屋から感じることはできない。
 すでに、盤と駒を用意して、無表情の老人が坐っている。実物に名前ほどの存在感はなかった。
 鷹佐は一礼して、対面に坐ろうとする。そして、腰を少し浮かせた中途半端な姿勢で急に動きを止めた。
「っ――」
 付け書院に、折り畳み式の鏡があった。
――あの鏡は魔境じゃないのか!?
大きく目を瞠った。
 それから、きちんと坐り直すと、じっと大藤宗玉を見つめた。
「あなたでしたか……」
 静かに呟いた。脳裏に、夢中で遊び続ける子供の姿があった。

……
………
『彼一手我一手だよ、お兄ちゃん』
 将棋盤の向こうで、子供が勝ち誇っている。
『自分だけが駒を動かせるわけじゃないよ。敵に打撃を与えたければ、自分も危険を覚悟しなくちゃ。無謀は禁物だけど、道理に従って、決断する勇気を持たないと一生勝てないよ』
 子供は、扇子で仰ぎながら、もう周りを見渡している。
『おいらの相手になる人はいるかな?』
………
……

 魔鏡に、年老いた大藤宗玉が映っている。
 魂の一部(欲望)を吸い取り夢界へと誘う魔境がある、と耳長族で聞いたことがあった。世界に四散して、現存する数も所在も分かっていない。そのうちの一つがここにあった。
「榊造酒之丞殿を、あそこに呼ぶつもりで、あの古文書を渡したのですか?」
「……」
 老人は口を固く噤んだままである。
「夢を見ることに疲れたのですか?」
 玉将を手に取り、打ち下ろす。
「夢を終わらせるのは、世界広しいえども彼しかない、と考えたのですか?」
 無言のまま、老人も駒を並べ始めた。
「我……らは、まんまと釣られた訳ですか?」
 苦笑い浮かべて、鷹佐は矢継ぎ早に問う。問うても答えを期待しておらず、淡々とした手付きで駒を並べていく。そして、最後の歩から指を離し、「一局所望致す」と言った。

「失礼いたします。」
 暫くして、僅かに襖が開いた。跪座している人影が垣間見える。人影は、手を入れ替えて、さらに襖を押し開く。そして、立ち上がり部屋に入ると、また跪座して襖を閉めた。
「粗茶でございます」
麻由美が、お茶を運んできた。
 二人の脇にお茶を置き、そっと盤面を覗きみる。
――まあ、この戦法……。
 思わず、麻由美は口元へ手を運んだ。
 戦局は、大藤宗玉が最も得意とする流れになっていた。この戦法は、大藤宗玉がすべての変化を読み切り、詰みまでの完全な対策を練り上げていた。名人大藤宗玉の代名詞であり、この数十年常勝不敗を誇っている。故に、敢えて、この流れに踏み込む者は、久しく絶えていた。
 麻由美は、若い鷹佐へ侮る視線を送ってから、腰を浮かしかけた。
 その時、鷹佐が駒音高く、歩を盤中央に打ち下ろす。駒取りでも、受けにもなっていない。空中に放り投げたような手だった。だが、それが十数手後の大藤宗玉の作戦を尽く牽制している。
 大藤宗玉は、何度も小刻みに頷いてから、手を駒台においた。
「え?」
 麻由美は只々愕然とした。この若者はいったい何者であろう……。
「これはあなた自身の手だ」
 鷹佐は、自分が打った歩を指差して、熱のこもった声で告げる。そして、ふわりと立ち上がり、するすると付け書院に進む。そして、右拳を突出し、一撃で鏡を割る。
「きゃぁ」
 麻由美が短い悲鳴を上げた。
「これで、私の長い夢が完全に終わった」
 老人は乾いた声で呟く。
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Date:2012/05/02
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