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第十五章 三尺秋水

第十五章 三尺秋水


【神聖紀1224年1月初旬、南エスピノザ・サッザ城】
 ティルローズは新年を南エスピノザのサッザ城で迎えた。元はナバール男爵の居城である。北岸と南岸を結ぶ陸路の要衝で、北西に行けば、北岸のヴァロン平野からアルティガルド王国へ。また、南東へ進むと、南岸のルブラン公爵家(130億Cz)、オルレラン公爵家(280億Cz)、そして、カロリンヌ侯爵家(98億Cz)などの有力門閥貴族の領地へと至る。
 この城には、昨年セレーネ半島連合軍の総本陣が置かれた。そして、全ての目が戦場であるヴァロン平野に注がれている中、スレードやミカエラ等は、旧ナバール家臣や地主などを説き伏せて回り、ほぼ鎮守府の傘下に組み入れている。
 この事を、権力の私物化だ、と反発する中小の貴族はいた。だが、結局その声が大きな広がりを見せる事はなかった。大貴族達は、セレーネ半島同盟という大儀、アルティガルドへの壁という思惑の為に、ほぼ黙認している。また、オルレランやルブランなどの大貴族に対抗する為に、自前の軍隊を持たない小規模な領主達が、支持を表明していたからである。こうして、北岸を中心にして、名簿上の数字を合計すると、3万ほどの兵が集まった事になる。
 今、フリオ・デ・スピノザ伯爵を司令官とする、第二陣約1万が出陣準備を進めていた。

 まるで廊下のような長方形のホールは、温もりを感じさせるライトオーク色の床、質素で明るい白壁をしている。弦楽四重奏やダンスなどのためのものであるが、この日は、謁見のために使われていた。
 壁を背に一列に並んだ人々は、モーニングに、立衿シャツ、そして、アスコットタイと正礼装の姿である。その前を、ミカエラと刀根留理子を従えて、ティルローズが歩く。戦時中と言う事もあってか、大将軍の紋章を金糸で刺繍した軍服をまとっていた。
「サリスの復興を新年の誓いと致します。ティルローズ様」
「期待している」
 ティルローズは一人一人に声をかけて進んで行く。そして、若く精悍な武人の順番となった。
「ヴァロンのヴィルヌーヴ男爵です」
 側近の刀根留理子が男を紹介すると、ティルローズは大きく頷いた。
「アルティガルド戦ではご苦労。次も期待したいのだが、如何?」
 ヴィルヌーヴは恭しく一礼する。
「はっ、恐懼[キョウク]のきわみでございます。獅子奮迅の働きもって、忠誠の証と致します」
 昂然として、声が張る。華麗なるサリスの皇女と、美貌と知性の従姉、そして、エキゾティックな黒髪の異邦人。特徴の異なる三人の美女を前に、自然とヴィルヌーヴの顔に自負がみなぎるのも、若い男の性であろう。
「武運を祈る」
 ティルローズは微笑をたたえたが、内心肩を竦めていた。そして、心の苦笑を見破られないうちにと、早々に次へと移ろうとする。
「カリハバールは強敵です――」
 呼び止める形となった。非礼ではある。だが、感情の昂ぶりは抑え難く、この不可侵な美のオーラに包まれた皇女に、どうしても勝利を誓いたかった。
「しかし、ディーン軍師将軍は軍略に長け、従う兵は精強です。必ずやティルローズ様に勝利を捧げる事ができましょう」
 それに、ティルローズの足が止まった。
「そう言えば、ミカとは親類とか?」
「左様です」
 ミカエラが短く答える。
「フリオ殿もそうだったが、一族揃って、ディーン将軍への信頼が高いようだが?」
「ディーン将軍には、感謝しています。助けなくして、今の一門はありませんでしたから」
 ティルローズとミカエラは視線合わせず、無表情に会話する。刀根に促がされて、もう次の者の挨拶を受けていたが、その顔も声も、ほとんど脳を刺激していない様子だった。
「ディーン将軍も、今では貴方方を一番頼りにしているようだな」
「そうであればよいのですが」
「昨夜も一晩中打ち合わせだったとか?」
 ティルローズは、眉一つ動かさず振り返って、さり気無い声で訊く。
「はい、事務的な打ち合わせです。補給体制を長期的に維持安定させるに、綿密な計画が肝心ですから。しかし、深夜には解散致しました」
 ミカエラは上品に微笑んで答える。
「そうであったか、それはご苦労。……深夜ねぇ」
 口の両端が優雅な角度に上がって、ティルローズは再び正面へ向き直った。
「ええ。その後ティルローズ様と打ち合わせがあった、と思っていたのですが……?」
「ふふ、そんなに遅く、打ち合わせなどしない、わたくしは。……将軍もさすがに疲れたのだろう」
 薄く、ティルローズが鼻で笑う。
「……そう言えば、北でも南でも、激しい戦いがあったとか」
「へえ」
 ティルローズが口を半分開いて、意外だと笑った。それに、ミカエラは首を傾げる。
「ミカは優等生だと聞いていたから、事務的な会話以外しないと思っていた。存外に砕けた女性なのだな」
「雑談ぐらいはしますよ。普通に」
「雑談は普通か」
 ティルローズは小さく呟く。そして、二人は、「ふふふ」と綺麗な声を出して、笑い合った。


【城下、カルボナーラ号】
 その頃、オーギュストはカルボナーラ号の上にいた。エスピノザ地方を南北に貫くドロス川を遡って、カルボナーラ号はサッザ城下の船着場に到着した所である。
「素晴らしい船だ。俺もこういう物が欲しくなった」
 マストを見上げて、精悍な顔立ちの貴公子が言う。
「オルレランには新造戦艦があるではありませんか。あれに比べれば、木の葉のような物です」
 オーギュストは丁寧な言葉遣いをしていた。
「ああ、あれはいい。まさに動く城だ」
 陽気に、男は答えた。そして、隣に座っている女性の肩に腕を回す。女性は清楚な令嬢と言う雰囲気で、白い日傘に動き難そうな白いドレスを着ている。今、人前で肩を抱かれて、頬を朱に染め、俯いていた。
「トンマーゾ大尉なら、何れ艦長にも提督にもなれるでしょう」
「だとよいのだが……」
 含みのある呟きをして、トンマーゾは飲み物を口へと運んだ。明るい茶の髪を短髪にして、青い眼は少年のように澄む。見える者に好印象を抱かせる青年である。
 甲板で丸いテーブルを挟んで、二人とオーギュストは向かい合っていた。そのすぐ横では、フリオとナーディアが川に浮かぶ赤いブイを弓で狙って遊んでいる。
「トンマーゾ大尉ほど水軍に精通された方(貴族)はおられません。我等エリース湖に生きる船乗りにとって、トンマーゾ殿は希望です」
「ディーン将軍は口が上手い」
 婚約者の前で自尊心をくすぐられて、トンマーゾは照れたように微笑んだ。
 トンマーゾはオルレラン公爵家の七男である。名家の御曹司でありながら、子供の頃から活発な事で知られ、ヨットで鍛えた、小柄だか均整のとれた体をしている。と言うよりも、家督継承の見込みのない部屋住みで、何をしても、誰も気に留めなかったのだろう。
 オルレラン公爵家は、すでに嫡男と次男が亡くなっている。また、五男も幼少の頃に死に、六男はずっと病弱である。また、成人しているのは、この七男トンマーゾまでで、一番下は十二男でまだ3歳である。
 後継者争いは存在する。まず、2番目の正妻の子である四男アメデーオ。三男ティモテオは兄ではあるが、母親は側室でさらに身分も低く、強い後ろ盾もない。また、故嫡男の子イッポリートも眉目秀麗で評判が高かった。さらに、公爵が6歳の十男ヴィットーリオを大変可愛がっている事も、妖しげな噂を醸し出していた。
 しかし、トンマーゾが家督争いの渦中で、名を挙げられた事は一度もなかった。生まれた時から蚊帳の外なのである。周囲が適当な養子先を探す中、彼は水軍士官学校へと進学する。そこを普通の成績で卒業して、少尉から一年で中尉へ、そして、実戦経験のないまま大尉となり、すぐに予備役に編入された。
 これは当時、貴族の子弟としては、よくあるケースだった。当然のことながら、将軍の椅子は小隊長のそれよりも遥かに少ない。士官学校を出たといっても、皆が将軍に成れる訳もなく、ほとんどが途中でふるい落とされていく。平時においては、少佐止まりが相場とされていた。故に、生活に心配がない貴族の子弟で、爵位を得る当てのない者は、大尉や少佐という肩書きを得て、社交界にデビューするのである。
 この日、トンマーゾは鎮守府の新年行事に招待されたが、特にオルレランを代表している訳ではない。オーギュストの目は、自然と今彼の横に座っている婚約者シモーヌに向けられている。金色の髪を外巻きにして、くりっとした大きな瞳は、男心をくすぐる。彼女の父親ドーメル提督は、元ブリュースト駐留艦隊(セレーネ半島の先端にあった軍港)の司令官だった。サリス帝国が崩壊すると、艦隊の約半数を率いて、オルレランに身を寄せる。そして、オルレラン艦隊を新設した。水路からの補給を目論むオーギュストにとって、重要な人物の一人であった。
 二人は、言わば、政略結婚であった。だが、優しく接し合う態度から、二人に不満はない、とオーギュストは観察していた。
 と、不意に、シモーヌが楽しそうに笑った。ややふっくらとして顔立ちは、笑うと目が穏やかに垂れて、また、厚めの唇からは八重歯がのぞいて、とてもかわいらしい。
「どうした?」
「だって、あれ」
 トンマーゾは、その視線の先を見る。そこでは、全ての矢を射尽くしても無傷のブイを、呆然と見詰めるフリオと、それをからかうナーディアがいた。
「何が鍛えていますよ。いーつも口ばっかりなんだから」
「……だって、足元が揺れるんだもん」
「未熟者、言い訳しない」
 ナーディアに額を弾かれて、フリオは涙目になっていく。
「幼馴染っていいものですね」
 シモーヌが優しく囁く。それをちらりと見て、トンマーゾは一つ咳払いをした。
「このままじゃ、男が情けなさ過ぎる。よし、手本を見せてやろうではないか」
 立ち上がると、トンマーゾは、フリオから弓を受け取り、矢を番えた。
「伯爵、宜しいか。不測の事態にのぞんで、動揺していては、鍛えている内には入りませんぞ」
「平常心ですか……」
 ちらりとフリオはナーディアを見る。顔には、こいつの所為だ、と書いてある。
「そうです。だから、何か賭けましょう」
 そわそわしながら、トンマーゾは舌なめずりした。目もそれまでと少し変わって、ギラギラとしている。
 シモーヌが「また始まった」と嫌そうに呟く。オーギュストが「ギャンブル好きなのですか?」と訊ねると、溜め息混じりに頷いた。
「では、互いの指輪を賭けよう」
 トンマーゾはフリオの指輪を差し、それから自分の指輪を掲げて見せた。フリオはしばらく渋っていたが、ナーディアの「男だろ」の一言で、しぶしぶ頷く。
「そうこなくては!」
 満足げに笑って、トンマーゾはフリオの肩を叩いた。それから、熱くなった目をブイに向けると、力強く矢を引きしぼる。次の瞬間、矢は見事に的を射抜いた。シモーヌが手を叩き、トンマーゾは意気揚々と腕を振り上げた。
「フリオどうした。みっともないぞ」
 オーギュストが後ろから叱咤する。
「では将軍。次はあなたが勝負しては? どうです、あの一番遠いブイを狙うというのは?」
「いいですよ」
 オーギュストは軽く受けた。それに、トンマーゾはちょっと意外そうな表情を返す。ブイは、弓の有効射程距離を僅かに越えた所にあるのだ。
「じゃ、何を賭けますか?」
「私はこの船を賭けよう。大尉は今夜のシモーヌ殿でどうです」
「へえ?」
「今夜のダンスのお相手をお許し願いたい」
 瞬時に表情を強張らせているシモーヌに対して、悪戯っぽく、オーギュストは口元を緩める。
「ああ、いいですよ」
 トンマーゾは相好を崩した。
 まずはトンマーゾが射たが、川の上を吹く風に流されて、近くに寄ることもない。次に、オーギュストが放った。矢はふわりと放物線を描いて、ブイに吸い込まれるように落ちる。しかし、威力が弱い所為か、矢は突き刺さらなかった。
「残念、これは引き分けですね」
 オーギュストは笑った。


【城内、大広間】
 ティルローズは午前の行事を済ませると、コルセットとロングドレスに着替えた。ドレスは腰から裾に賭けて、白から青に美しくグラデーションしている。
「刀根はどうした?」
 ティルローズは、怪訝そうに眉を寄せる。午後から行われる新年の祝賀会のために、大広間に附随する控え室に来たが、待っている筈の刀根留理子が、見当たらないのである。
「警備の下見に2階へ行かれました」
 侍女が恐縮して答えた。詰問するような厳しい口調に、侍女たちは怯えてしまっている。
「勝手に持ち場を離れて! お前たちはここで待っていなさい」
 ティルローズは怒気を含んだ大きな声を出す。そして、控え室奥の階段を上って、2階へと向かった。
 2階は大広間を見下ろすように、ぐるりと回廊が廻っている。回廊は人一人が歩けるぐらいで狭い。外側には大きなステンドグラスの窓が並び、内側には等間隔に円柱が立って、それらを鉄の柵が繋いでいる。
 刀根は階段室と回廊の境で、誰かと話しているようだった。何者かと訝しがり、思わず、覗き込むように首を伸ばす。そして、その相手を見て、ティルローズの瞳が冷たく冴えた。
 刀根の向には、オーギュストが手摺に寄りかかっていた。
 オーギュストは、すぐにティルローズに気付いて、軽く手を上げた。一方、刀根は少し慌てて一礼をする。
「ディーン将軍、こんな所で何をしているのです。刀根、あなたは持ち場に戻りなさい」
 感情を押し殺したように、低く言い放つ。しかし、青い瞳は、腹立たしさを隠し切れていない。
「は、はい……」
 刀根はまるで逃げるように階段を降りて行く。
「私の郎党に何のよう?」
 鋭く睨み付ける。
「大広間に来たら、彼女が居たんで」
「居たら、どうなの?」
 あくまでも澄ましたオーギュストの態度に、苛[いら]つきがつのっていく。
「ちょっと興味があってね」
「あなたが誰と何をしようと、私(わたくし)は興味はないけど、私の腹心を傷付ける事は止めてもらえる?」
「あの女は危険だよ」
「彼女は賞金稼ぎ。そんな事は分かっていたわ。優秀だと判断したから、雇っているのよ」
「さすが、俺のティルだね。俺が命を賭ける価値がある」
「巫山戯{ふざけ}ないで、昨夜{ゆうべ}は何処に雲隠れしていたの? 言いなさい」
 強気に言い放つティルローズに、オーギュストはくすっと笑った。そして、そんなティルローズの腕を掴むと、影の中に引っ張る。そこは円柱と赤いカーテンに囲まれて、階下の大広間からは死角になっていた。
「止めなさい!」
 抱き締めようとするオーギュストに、ティルローズは必死に抗った。
「こんなの嫌よ」
 銀の髪飾りが、タイルの床に落ちる。強引に唇が重なる。しかし、ティルローズは頑として唇を閉め、拒み続ける。
 一方のオーギュストは、嫉妬心を垣間見せるティルローズに、新鮮な昂奮を感じていた。激しい欲情に突き動かされるまま、もはや歯止めが効かない。
 白いドレスの上から、胸を鷲掴みにして、尻を撫で回す。
「ううっ……」
 ティルローズが口を僅かに開いて、小さく喘ぐ。その隙を付くように、オーギュストは舌をねじ込んで、絡ませていく。
「くぅう……んぅ」
 徐々に力が抜ける。そして、仕方がないというように一度鼻を鳴らしてから、ティルローズは舌を絡み付かせていった。
 くちゃ、くちゅ、と熱いディープキスが長く続く。いつの間にか、ティルローズの顔は赤く昂ぶって、知らぬ内に腕はオーギュストの首に巻きついていた。
「刀根には釘を差しただけだ。君のために――」
 唇が離れた時、オーギュストは耳元で囁く。
「裏切ったら、必ず俺が殺すとね。それに昨夜は、オルレランの御曹司を北スピノザ港まで迎えに行った。朝からずっと接待クルージングだったから、疲れたよ」
「うそばっかり……」
 やや拗ねたように、ティルローズが言う。
「俺がやる事は全てティルのためだ。あの夏の日から、俺は君のためだけに生きている」
「それが嘘っぽい!」
 ティルローズは微苦笑する。その尖らせた口を、オーギュストは啄ばむように、キスを重ねる。次第に、ティルローズの瞳にも情の色が差し、蕩けるように目を細めていく。そして、赤い唇を艶やかに開くと、熱い舌をのぞかせる。
 その時、オーギュストは、胸の上にあった手を下げて、青い裾をたくし上げる。そして、さっと中へ滑り込ませていく。
「ちょっと…アっ、いや!」
 言葉では嫌がりながらも、拒むような動きを見せない。オーギュストのされるままとなっている。
 オーギュストの指、にシルクのショーツの感触があった。秘唇の部分はすでに濡れている。
「はぁ……ん」
 ティルローズが甘い吐息を吐く。その淫靡な香りと、真っ昼間の公の場という現実とのギャップが、オーギュストの欲情に輪をかけていた。
 制御の壊れたオーギュストは、大胆にもショーツの中に指を潜り込ませる。
 ティルローズの大きく開いた胸が、激しく波打つ。
 オーギュストの指が熱く蒸れた秘唇に触れた時、秘唇からは堰を切ったように熱い蜜が溢れ出す。そして、白くすらりとした脚をすぅーと雫が滑り落ちていった。
 ティルローズはカーテンの端から階下を見下ろす。その風景は恐ろしいほど平凡であり、楽しげに踊る知人達が逆に異様に見えた。
――あの人達は、私達のこの姿を想像しているのだろうか……
 赤く焼きつく思考の中でふとそんな感想を持った。自分でも今どうして秘部を弄くられて、甘い嗚咽を漏らしているのか、この現状が理解できない。
「ここは熱くて火傷しそうだ」
 オーギュストが嘲るように言う。
「そんなっ……ことっ……な、い」
「あるの間違いだろう」
 オーギュストが左腕を彼女の右膝の裏に回して持ち上げる。そして、ペニスで貫いた。
「あっ、あっ、イイッ!」
 思わずこぼれる言葉に、言った本人が驚いた。
――こんな所じゃ……いつか気付かれる……!
 ぐっと唇を噛み締めて、屈しかけた心を引き締める。
 そんなティルローズの努力をあざ笑うように、オーギュストは激しく腰を打ち付ける。
「あ、ううんッ……ひぃっ……」
 心の表面での警鐘とは裏腹に、奥底で渦巻く官能の高まりを抑える事が出来ない。
――そんなぁ…感じてるの…あたしこんな所で……そんな事あるはずがないわ……
 甘く溶け出した脳裏で、ティルローズは想う。そこにオーギュストが一つの方向性を示す。
「すぐにここを発つ」
「セリアへ向かうのなら、私も一緒に行くわ!」
「まだ早い。安全を確保してからだ」
 心が逸るティルローズの髪を、オーギュストは優しく撫でる。
「……そう。だったら、別の相手を探すわ。私を欲しいという男は、何もあなただけじゃないのよ」
 吼えるように言う。
「だったら! 俺はその男を産んだ大地を、育んだ全てを滅ぼし尽くす」
「本気?」
 赤い瞳の奥を、ティルローズが探り込む。
「俺は君のために、人として越えてはならぬ境界線を、もう何度も踏み外している」
「え?」
「だから、ティルと俺を切り離す事は、誰にもできない。喩え当人でもだ」
 揺らぐ青い瞳を、オーギュストは鋭く睨みつけている。
「でも、私はあなたに必要ないわ……」
「俺の孤独を癒せるのはティルだけだよ」
 疲れた声とともに、オーギュストはきつくティルローズは抱く。
「だったら――」
 息苦しいほどの締め付けを身体に感じても、ティルローズはあどけなく笑っている。そして、首筋に貪りつくオーギュストの首に、愛[いと]おしそうに腕を回した。
「……私の全てをあげる」
 最強の男がのぞかせる翳りに、何かが吹っ切れたのだろう、ティルローズは自らも腰を振り始める。
「あぁーん、もっと、もっと、もっと突いてっ!」
 媚びたような甘い声を発し、快楽を貪り求めた。
「壊して、わたくしを壊して、何もかも壊して!!」
 ティルローズは後方にのけぞり、持ち上げられた足がピーンと伸び、痙攣した。
「はあああああっ!!」
 そして、ぐったりとオーギュストの肩に顔を伏せ、両目を閉じた。そして、ハアハアと荒い息を繰り返す。汗に濡れ放心した表情はゾクゾクするほど美しかった。


 昼を過ぎると、前庭の芝生で談笑や食事をしていた人々が、テラスを通って大広間に集まり始めていた。前庭は一面芝生で、周囲を囲む城壁の前には、最近植栽された榎や椋が並んでいる。以前ここには大木があって、無粋な城壁を隠していた。しかし、今は焼け焦げた城壁が露で、昨年の落城を思わせた。
 ミカエラはテラスに立ち、来賓や知人と形式的な挨拶を消化していた。と、そつなく受け答えしながら瞳の端で、大広間の隅を歩くオーギュストを捉える。そして、使用人用の通路へと消えるまで、静かに追い続けた。
 オーギュストは建物の裏に出る。狭い通路は日も当たらず、暗く寒い。
「おやおや、将軍ともあろう者が、まるで泥棒猫みたいね」
 腰を屈めなければくぐれない程低い裏門の扉に手をかけた時、ミカエラがオーギュスを呼び止めた。
「これは伯爵令嬢ともあろうお方が、このような場所でお待ちとは」
 オーギュスは立ち止まり、折った腰を元に戻す。そして、ゆっくりと声の方へ顔を向ける。その時ちらりと、気まずそうな表情が過ぎった。
「何をこそこそしているのかしら?」
 窓から、ミカエラはやや猜疑心を潜ませた瞳で見据えている。黒いカーテンを背にして、白い窓枠に収まっている。まるで一枚の絵画のようであった。
「別に、こういう場は苦手だから……」
「慣れなさい」
 ミカエラはあっさりと言い切る。対して、オーギュストはぎこちなく笑った。
「ずっと接待クルージングだったんだ。休ませて欲しいね」
「接待って……フリオに任せたやつ?」
「俺のところに相談に来たから、手伝ってやった」
「そう……」
 一瞬、視線が宙に浮いて、唇を強く引き締める。だが、すぐに大きなため息を落として、オーギュストに頭を下げた。
「感謝します。弟も安心だったでしょう」
「そんな。俺はフリオを実の弟のように思っているから」
 オーギュストは窓の下に歩き寄ると、馴れ馴れしくミカエラの手に触れた。
「ありがとう」
 ようやく、ミカエラは明るい笑顔を見せる。それにオーギュストは、唇を尖らせて、キスをせがむ。
「また調子にのって」
 ミカエラは小さく囁いて、窓から身を乗り出すとそっと口づけをした。
「はい終わり」
「えーーー」
 ミカエラが折りたたんだ身体を戻して、窓枠に収まり直す。とオーギュストは不平の声をもらした。
「口紅が落ちるから、ね」
 まるで飴を欲しがる子を宥めるように言う。
「じゃ、接待の続き、責任もってやってくれよ。ミカの事を才色兼備だって、とても尊敬しているそうだから」
「どんな感じだった?」
「大人しいかな、根はどうだか知らないけど。あと、ペットが一匹いて、それを適当にあやしてやると喜ぶみたい」
「また、そういう言い方する」
 ミカエラは苦笑する。そこで、二人は一拍静まる。そして、オーギュストは真面目な顔をした。
「俺は祝宴には出ず、今から出港する」
「フリオの第二陣と一緒じゃ……」
 急なオーギュストの言葉に、全身が緊張した。
「今度は激戦になる。俺たちと一緒にいない方が安全だ。フリオには、従兄のヴィルヌーヴも付いていし、問題ないだろう」
「……でも」
「あいつは優秀だ。心配ないって」
「そうね……」
 ミカエラは瞳を震わせて、弱く呟く。
「あなたも気をつけて……」
「俺は大丈夫。すぐにコリコスを手に入れて、ミカを迎えにくるよ。それまでこの城を守ってくれ」
「ええ」
 二人は優しく微笑み合った。そして、オーギュストは指を一本、立てる。「もぉ」とミカエラは不満そうに唸ったが、髪をかき上げて、身を倒していった。


【エリース湖上、カルボナーラ号】
 女神と評される美貌に、赤や青の淡い光が照らす。アフロディースはまぶしそうに長い睫毛を揺らした。かすかに開いた薄い唇からは、真珠のような歯がのぞいて、その隙間から吐息がもれている。
 数回瞬きをした後、アフロディースは綺麗な二重瞼が少し上げる。白いシーツが赤く染まり、次の破裂音で、青に変わる。頭はぼんやりとして、倦怠感が全身に蔓延って、動き出そうという気を萎えさせてしまっている。と、最近聞き覚えた声が聞こえて来る。
「ええ、楽しんで頂けたのなら、こちらもご招待したかいがあったと言うものです――」
 魔術通信をしている男の声は、砂が水を吸うように、心の深層部まで染み込んでいく。
「この度の提督のご配慮には、感謝の言葉もありません。“何か”の折には、必ずや報いるつもりです。何時でもお声をおかけください」
 オーギュストは通信機に向かって、業務用の声で笑っていた。付き合いの短さと比べて、なんと密接さの深い事だろうか、と霞みのかかった頭で想う。
……気の迷い。そんな言葉では言い尽くせない。大きな過ちだった。
 あの夜、朝まで休みなく、オーギュストの相手をした。オーギュストの底知れぬ性欲は野獣のようで、何度果てようとも、容赦無く、攻め抜かれた。数算[かぞ]えようもない絶頂を迎え、ついにアフロディースの心の中で燦然と輝いていた聖なる剣は、ぽっきりと折られてしまった。もはやオーギュストの腰の上で踊る人形と成り下がり、次第に、思いもしなかった倒錯的な性の痺れに狂って行った。
 そして、淫臭が漂う部屋で朝を迎える。
 逃げようと想った。あの扉を破って、逃げなくてはいけない、そう理性が警鐘を鳴らした。
『君を俺は独占する。この鏡に誓え、俺と共にあると。そうすれば、もっとお前に妖美な世界を体験させてやる』
 だが、オーギュストの言葉が脳裏に甦って、心を縛り、身体の自由を奪った。そうこうしていると、オーギュストが起きる。
『くっ、嫌。もうこれ以上、あなたの嬲り者にはならない。離して……』
 明らかに遅過ぎた決断を下して、ベッドから脱け出そうとする。だが、腕をオーギュストに掴まれ、ベッドに押さえ込まれてしまう。
 戦闘能力において、オーギュストの方が一枚上だということは、認めている。ただそれだけだったならば、恐れずに何度でも挑んでいけただろう。だが、官能の炎を肉体に植え付けられ、処女地を蹂躙され、穢れを知らぬ膣奥に精を放たれ、嫌と言うほどエクスタシーを覚え込まされた。悦楽の味を知った肉体と女の精神は、もはや二度と立ち直れない程に、挫かれている。
 オーギュストは暴れるアフロディースの手を背中で縛った。その時、身震いするような快感に襲われる。そして、情婦という言葉が、頭を渦巻いていった。

「起きた?」
「ええ」
 アフロディースは枕に深く顔を埋めたまま、短く答えた。
「何か食べる?」
 もう一度訊ねたオーギュストの声は、柔らかで、親しみを感じさせた。
「いいわ」
 うつ伏せから横向きになって、アフロディースは白いキャンバスの上で、膝を抱くようなポーズをとる。気怠[けだる]そうな表情は艶かしく、白磁のような肌からは、色香が香[にお]い立っている。
 オーギュストは魔術通信を終えると、ライディングビューローを閉めた。丸窓から、その顔を黄色い閃光が包み込んだ。
「花火なの?」
「そうだ」
「もう夜なのね……」
「ああ、一日眠っていたよ」
「……そう」
「あの間に、俺はスピノザ港とサッザ城を往復した」
 アフロディースは微笑した。白いシーツが胸から下を隠していた。だが、細い肩がかすかに動くと、魅惑的な乳ぶさが零れ出て揺れた。鍛え上げられて引き締まった裸体にはありえない、奇蹟のような豊かな膨らみである。そこに、清純な桜色の乳首がツンと尖っている。
「そう……何だか騒がしいような気がしていたわ」
「呑気なものだ。俺は客がここまで侵入しないか、ひやひやしていた」
「ふふ」
 美貌にかかった銀色の髪をかき上げて、アフロディースはゆっくりと顔を上げた。神秘的な輝きを持つ瞳は、まだ半分瞼で覆われている。それが一段と悩ましい。
「熱いココアでも作ろう」
「ギュス、あなたはいつ眠っているの?」
 食堂へと向かっていくオーギュストの背に、言葉を投げかける。
「戦場で寝るさ」
「寝首を掻かれるわよ」
「起こってもいない危機に、気をとられてもしょうがない」
「呑気ね」
 心がほのかに温まり、自然と微笑みが浮かんでくる。
 食堂の方で、カタカタと音がする。アフロディースは長く息を吐きながら、また頭を枕に埋めた。その表情から笑みは消えて、華やかな美貌は冷たく沈んでいる。

 目を覚ますと、必ず嫌悪感がはみ出るように浮かんで、心を圧迫した。こんな事を続けていてはいけない、ともう一人の自分が呟く。
 幼い頃から、一際秀でていた。誰もが百年に一人の才女と騒いだ。中央の神学校へと進学してからは、一心不乱に学問に打ち込み、同時に剣術の修行に励んだ。そして、記録的な成績を残して、歴代最年少で月影神官戦士団団長に就任した。常に他者から憧れ、模範とされてきた人生と言い切れるだろう。無理をしたとか、重荷に感じたとか言う事はなく、常に自然体だったと自負している。常に向上心と正義感に従って歩んできた。それが……こんな行為を繰り返している。快楽に溺れる自分が信じられなかった……。
 アフロディースは親指を咥える。肉体に刻まれた、あの感覚を思い出しながら、親指をしゃぶった。
「ああ……」
 次第に、口を大きく開く。唇が大きさを記憶していた。舌が親指の回りの空間を舐め回した。舌が形をイメージしている。
 初めて咥えるように指示された時は、頑なに拒んだ。だが、あの独特に匂いが鼻をついた時、心に異様な黒い靄が浮かび上がってきた。直後、後頭部を見えざる手に押されるのを感じる。そして、抗する術なく、舌先を伸ばしていた。一度、軽くキスしてしまうと、後はもう止まらない。ただ夢中に貪り、舐めて、味わい尽くした。口の奥まで含むと、口の中で、硬度を増して行くのを感じ取れた。それに、股間の奥が疼いて、蜜で濡れていく。オーギュストは、本当に初めてか、と喜んでいた。
 一番燃えるのは、“マングリ返し”だった。身動きが取り難い体勢で、秘部を晒[さら]し、舐められる瞬間を目撃する。否応なく、羞恥心が煽られていく。どんなに脚を振ろうと、腰を捻ろうが、逆さにされて、上から押さえ込まれていては、逃げられる訳がない。そして、アヌスまでが自分の愛液で濡れていく。
 このまま情炎に肉体を焦がし続ければ、自分はどうなってしまうのか……。何かが心の奥で覚醒{めざめ}ようとしている。否、燻[くすぶ]り続けていた何かが、甦ろうとしている。自分が悪い方へ変わり始めたのではないか、そんな恐怖に身震いした。
 初めての夜以来、何度絶頂に達しただろうか。何度自制心を失っただろうか。何度気を失っただろうか。起きている間、意識のある間中、SEXに耽っているような気がする。今も股間に物が突き刺さっているような錯覚がするほどだ。
 SEXに馴染む自分が怖かった。逃げ出そうとも想った。逃げる事は簡単だったろう。だが、想うだけで、実行する事はなかった。いや、結局、本気でそう想った事はなかったのかもしれない。
 次第に自分からせがむようになり、肉体の奥深くを叩かれれば、感涙の雫を零すようになった。その一粒ごとに、自分の心が丸くなったような気がする。
「恐いわ……私が壊れていく……」
 四日目の朝、目を覚ましたアフロディースは泣いていた。
「そんな事はない。エリース教の修道院の奴等を見ろ。男に抱かれないから、顔中脂ぎっている。あれは見るに耐えられない。だが、ディースは違う。益々美しく、そして、強くなった」
「そうね」
 アフロディースは笑った。きっとそうなのだろう。これは運命なのだろう。数日前なら陳腐に聞こえた言葉も、今は違う。オーギュストと出会って、確実に強くなっているのだから。これで良かったのだ……

ぼんやりと宙を眺めて、この数日の事を思い返していた。そこへ、オーギュストが戻ってくる。アフロディースは上体を起こした。
「さっきの話で、一つ思い出したよ」
「何?」
「4,5年ぐらい前かな。親戚の家でシロアリが出て、意識過剰になったうち親父が、家の壁に生えていた瓢箪の根を掘り返して、ついには壁まで壊してしまったんだ」
「なにそれ」
「つまり、見えざる敵に怯えても仕方がない、と言いたい訳だ」
「私が怯えていると言いたい訳?」
 それまで朦朧[モウロウ]としていた瞳に光が戻った。真面目な顔で訊き返されて、オーギュストは言葉に詰った。ようだったが、ココアを一口飲み込むと、余裕の口調で語り掛けた。
「怯えるのは、俺たちじゃないだろ?」
「……ええ?」
「俺と君が組めば、GODを滅ぼすのも時間の問題だ。そうなれば、君のところの総大主教も一つの決断を下すだろう」
「……ええ、そうね」
 カリハバールを倒し、GODの罪を明らかにすれば、自ずと発言力は増す。その上で、外部の各神殿をまとめて、ロードレス神国の“毒の粉”を糾弾すれば、国内の情勢も変化するに違いない。アフロディースはオーギュストと会話の中で、そう思うようになっていた。
「まずは各神殿に書状を書く事だ」
 アフロディースは瞳を閉じて、長く息を吐く。そうやって、自らの責任の重さを想っていた。
 突然、オーギュストは胸を乱暴に掴む。触れれば溶けて無くなるのでは、と思えるほどに柔らかい。
「あん……ん」
 アフロディースは自分がすでに欲情している事を自覚していた。
「あ……ンっっ!」
 オーギュストが乳首を吸い上げる。その衝撃に、歓喜の涙が溢れた。
「縛って、また縛って、そして、ぶって!」
 アフロディースは快楽の波に、全ての感覚が飲み込まれて、ただ本能だけの真白な世界に沈んでいった。


【1月中旬、サッザ城】
 フリオ・デ・スピノザ伯爵の率いる第二陣が、サッザ城を出撃しようとしていた。セレーネ半島北岸を中心とした軍勢で、数は約一万ほどである。参謀には従兄のオスカル・ド・ヴィユヌーヴ男爵が、さらに、戦術顧問としてアルティガルド王国軍から、ベアトリックス・シャルロッテ・フォン・フリッシュ大尉が加わっている。
「それじゃ、いってきます」
 フリオは城館の玄関ホールに、鎧姿で立っている。目の前には、姉と幼馴染がいた。彼女たちに笑顔を向けて、型通りの出陣の挨拶を済ませる。その眼は不安よりも、期待に輝いている。猛々しい武勇伝、華々しい賞賛の声、勝利の美酒……想像は切りがなく沸き起こる。そして、数日前から、体の芯がずっと熱く火照りっ放しで、夜眠る事ができずにいる。
「武運長久などとは言いません。運に頼らず、自力で武勲をもぎ取ってきなさい」
 ミカエラは厳しい表情で、弟に発破を掛ける。だが、その鋭い視線の影に、不安が顔をのぞかせている。知性に光る瞳には、弟の浮かれた気分がしっかりと見えていた。
「はい」
 フリオは苦笑混じりに姉に一礼すると、視線を横の幼馴染に送った。
「これ、ディーン将軍に届けてね」
「何?」
 ナーディアが漆の手箱を差し出す。
「お父様からの手紙らしいわ」
「そう」
 笑顔で受け取る。「それじゃ、お土産宜しく」と、ナーディアに背中を叩かれて、フリオはよろけながらも、城門へと一歩、歩き出した。
 その後、その光景に微笑みながら、ベアトリックスとミカエラが握手する。
「弟を頼みます」
「大丈夫。私が付いているから」
 ベアトリックスは親友に優しく微笑む。
「頼もしいわ……」
 ミカエラは視線を外して、初めての外征意にはしゃぐ弟をぼんやりと見遣った。そして、長い睫毛が不安げに揺らして、美しい瞳を閉じる。
「弟を頼みます」
 また同じ言葉を繰り返した。


【セリア近郊カシュ港】
 セリアからセレーネ半島方向へ、馬車で一時間。長さ約1km、幅400mの半島に古い港町カシュがある。初期人類はエリース湖に突き出たこのような地に、小さな集落を築いた。半島の付け根に城壁を巡らす事で、妖魔等の侵入を効率的に防げたからだ。セレーネ帝国期には、軍港として使われている。カール大帝の侵攻により一時廃墟となるが、現在は美しい砂浜と遺跡を残すリゾート地として、静かな時を過ごしていた。鎮守府軍が布陣するまでは……
「寒いな……」
 ナルセスが寒さに震えながら、部屋に入ってきた。元々高級ホテルの一室だったが、面影は何も残っていない。天井を飾ったシャンデリアは跡形もなく消え、絵画の跡だけが壁に残り、絨毯すらきれいさっぱり剥ぎ取られている。何もかも略奪されて、調度品の一つも残っていない。
「軍議は終わったのか?」
 愛用の青竜偃月刀の手入れをしていた、リューフが手を休めて問う。
「ああ、簡単なものだったよ」
 白い息を吐きながらナルセスは、暖炉の前の丸いテーブルへ向かう。丸テーブルには、すでに数人の幹部が座っていた。元帝国軍士官パーシヴァル・ロックハートとフランチェスコ・ブーン、元聖騎士アラン・ド・パスカル、ロベール・デ・ルグランジェ、ミレーユ・ディートリッシュ、ゴーチエ・ド・カザルス、そして、一番奥にマクシミリアン・フォン・オイゲンがいた。リューフは一人離れて、窓辺にいた。
「盟主はすんなりアルティガルドの王弟レオンハルト大公になったが……」
 ナルセスは歯切れ悪く話し出す。
「先鋒はオルレランに奪われた」
「アルティガルドと密約があったのでは?」
 全員が顔を見合わせて、代表してマックスが尋ねる。
「頑迷だったのだよ。何が何でも先鋒だけは譲らんとね……」
 ナルセスが口を尖らせる。そして、オーギュストの顔が見えない事に気付いて、「ギュスは?」と訊く。それに、マックスが顎で暖炉の脇を指した。そこには寝袋が一つ転がっている。
「男臭い所だと、未練無く眠れるそうだ」
 刃を調べながら、リューフが呟く。
「何じゃ、そりゃ?」
 ナルセスは空いた席に座りながら、眉を顰めた。
「セリアへの一番乗りに失敗し、今度は先陣も逃したか……今後の戦術が難しくなるな」
 ロックハートが腕を組みながら発言する。
「我々の戦力は、約一万。これでは、アルティガルドやオルレランなどの大軍の中で、埋没しかねない」
 今度はブーンも苦い声を出した。二人は軍制の専門家としての自覚から、積極的にナルセスに助言するようになっていた。
「道に迷ったふりをして、前に出ればいい」
 ルグランジェが陽気な顔で、言い放つ。と、急にナルセスが手で制止した。
 ドアがノックされて、このホテルのオーナーの娘達が、熱いスープを持って入って来た。
「ありがとう。おいしそうだ」
 若い娘から手渡されて、ナルセスが感謝の気持ちを伝える。まさに若き英雄の手本のような仕草である。
「おっ、美味い。やっぱクリームスープはセリアだよね」
 聞き覚えのある若い声に、ぎょっとナルセスが目を向ける。と、いつの間にか、オーギュストがマックスとルグランジェの間に座っていて、笑顔でスープを啜っている。
 何かを言い掛けた時、横のロックハートが小声で囁く。
「ベアール殿の様子は?」
「今後も治安警護を任されることになった」
「そうですか……」
「それが?」
「いえ、あの人はそう言う事が不得手だと思えて……悪い方向へ向かわなければ良いが……」
 反カリハバール同盟が成立して、最初にセリアに侵攻したのは、リシャール・ド・ベアールである。彼は馬術に優れた武勇の男で、旧サリス帝国軍の大佐である。しかし、通常40歳ぐらいで、大佐となるのが一般的だったが、彼は60歳を越えて昇進し、閑職の補給基地司令官となっている。武勇一辺倒の無教養で、管理者としての手腕は皆無であったらしいが、同時に、私利私欲は薄く、金にまつわる噂も皆無であった。この辺が一部同種の兵たちに受けたらしく、少数だったが、彼の部下は全員精強であった。特に、彼の三人の息子は武芸に秀でていた。
 ベアールは反カリハバール同盟が成立すると、真っ先にセリアに侵攻した。その数は500騎ほどだったが、大軍の影に怯えたセリアを治める三将軍(グザヴィエ、ラマディエ、ガンベッタ)は、脆くも逃げ出していった。その後は、セリアの警備を進んで行い、治安をよく守っている。
 オーギュストが一つ大きな欠伸をした。そして、小さな涙を手の甲で拭き取りながら、ナルセスとマックスを交互に見た。
「そうだ。お前結婚しろ」
 マックスがスープを吹き出す。
「お前のお姉さんに頼まれた。安っぽい雌猫に噛まれる前に、それなりの家柄の娘を探してくれって」
 姉の言葉だと言われて、マックスは少しの間口篭ってしまった。そして、それを振り払うように、大きな声を出す。
「そう言う事には、順番があるだろ。まず、ナル……はいいのか、リューフやお前が先に……」
「俺はお前より下だ」
「そうだった!! お前が全く敬語使わないから忘れていたよ!」
「いいのか? 俺が敬語使うと、すっげえ恐えぞ?」
 マックスはしばらく黙ってしまう。そして、ぽんと手を叩いて納得した顔する。
「で、誰を紹介してくれる訳?」
「相手はヴィルヌーヴ男爵の妹だ」
 オーギュストが呟くと、今度はナルセスが吹き出した。それをオーギュストは目の端で捉えたが、完全に無視する。
「男爵家令嬢だ。文句はなかろう」
「……ないけど……だが」
 マックスが何やらぶつぶつ呟いていると、オーギュストは一気にスープを飲み干した。
「おまえたちが結婚すると、あちこち全て丸く収まる。つべこべ言わず結婚しろ」
 マックスとオーギュストのやり取りの間、幹部達はそれぞれに雑談を交わしている。そして、娘達が部屋を退出すると、すぐに室内が水を打ったように静かになった。
「ディートリッシュ、こっちに来て、集まった兵はどのくらいになった」
 一変して、オーギュストの声は低く鋭い。
「はっ、日々増えていますが、今は5千ほどいます」
「よし、それを率いて、オルレランに合流しろ」
「オルレラン?」
 聞き直したのは、ナルセスだった。それに「借りは早目に返しておこう」と、オーギュストは笑った。
「ベルティーニは全てを承諾している。相談してやれ」
「はっ」
 ディートリッシュは直ちに立ち上がった。
「リューフ、暇そうだな。手伝ってくれないか?」
「どうするつもりだ?」
 またも訊いたのは、ナルセスである。
「オルレランは遠路遠征してきた。疲れは溜まっているだろうし、土地勘もない。それに、指揮官も実戦経験が少なく、兵の練度も低い。お前ならどうする?」
「夜襲か!」
 思わず、ナルセスは叫んでいた。
「オルレランに恩を売るも良し、カリハバールに隙があるなら、逆に奇襲してやれば良い」
 オーギュストの言葉に、全員が頷いた。
「それじゃ、夜出発する。準備ができたら、起こしてくれ」
 オーギュストが立ち上がり、両手を大きく伸ばした。そして、今度は蓑虫のように、寝袋に潜り込んで行く。


【カッシー】
 その頃、カリハバール軍サイア方面軍司令官アサド・ジュス将軍は、旧サリス領内に入っていた。ジュスはカリハバール皇帝セリム1世の片腕として、幾多の戦いを勝ち抜いてきた猛者である。その信頼は厚く、命運をかけた“ブルサの戦い”では先鋒を任されている。剣よりも槍を得意とする典型的な猪突猛進型の武将で、麾下の長槍騎兵も良く鍛え抜かれている。その獰猛な牙は、幾度も敵陣の網を噛み千切ってきた。真っ直ぐに駆けさせたらカリハバール一だと、称えられているほどである。
 その精鋭を率いて、ジュスはカッシー付近の森に潜んでいた。カッシーは、帝都セリアから聖都サイアへ向かうシャルル大街道が通り、かつ運河の街ランスへの分岐点でもある。元々沼地で、度重なる干拓によって農地に生まれ変わっている。今でも周囲の土地に対して僅かに低く、薄いすり鉢のような形状をしていた。
「敵の先鋒は、ランスへ向かうようです」
「何!?」
 索敵からの報告を受けて、ジュスは髪を逆立てんばかりに怒った。
「おのれ、陛下の命を直撃する気か! そうはさせんぞ」
 まるで呪いの言葉を吐くように、ジュスは顔を歪ませていた。

 一方、カッシーに到着したオルレラン公軍は、川辺で野営を行っていた。
「まずは上々」
 オルレランの幹部達は酒を飲みながら頷き合う。
「このカッシーを抑えたならば、聖都サイアへ向かうにも、カリハバール本陣のランスを狙うにも、我らの承諾が必要になる。がっはっは!」
 一人の将が、一気にジョッキを空にして、大きく笑い上げた。
 オルレランは大軍とともに、大量の物資をこの地に持ち込んでいた。そして、カッシー付近のすべての道を封鎖するために、約8キロにも及ぶ大規模な陣を敷いていた。ここを橋頭堡として、カリハバールを自力のみで掃討するつもりである。
「この圧倒的な物量を見れば、カリハバールどもも、臆したのであろうよ」
「古来より餓えた軍隊が勝った例[ためし]はないと云う。ならば我らの勝利はもはや決まったようなもの」
 事実、以前はこの付近にも度々カリハバールの部隊が出没していたらしいが、今は鳴りをひそめている。
「がっはっは、まことに」
 オルレランの将軍達は酒の合間に、ちらりちらりと地図を見ている。サリス・サイアの何処を自分の領地とするか、関心事はそちらに向かっていた。
 上と同じように、兵達も各々輪を作って、酒や歌、踊りに耽っていた。
「おい、いいのかな?」
「何が?」
「だって戦場だぜ」
「敵が何処にいるのだ?」
「だって……」
「折角上の方々が施して下さったのだ。楽しまなければ処罰されるぞ」
「……そうだな」
 兵卒の中には、この騒ぎに疑問を抱く者もいた。しかし、遠征のストレスは大きく、一度火の付いた遊び心を、容易く抑える事ができない。次第に膨れ上がる宴に、誰もが流されていった。
「本当にありがたい。酒を下されたお方は誰なのだ?」
「さぁ?」
「後で昇進させてやろう」
「ぎゃははは、何様だよ」
 この宴を最初に始めたのがどの部隊なのか、酒を持ち出す許可を与えたのが誰だったのか、興じている本人達も知らない。そして、それが問題である事にも、誰も気付いていなかった。
「俺……トイレ」
 酔った一人の兵士が、川の中へ進んでいく。と、笛や太鼓の音に混じって、水面を叩くような音が聞こえて来る。
「誰かいるのか?」
 誰何した時、闇の中に無数の巨大な影が浮かんだ。その実態を鈍った頭であれこれ考えていると、水音がどんどん膨れ上がって、滝のような音へと進化していく。
「ひっ!」
 ようやく、事態が飲み込めた時、兵士の首に槍が突き刺さっていた。そして、兵士の身体が川の中へ倒れ込むと、代わって、黒毛の騎馬がその場に立つ。
「突撃!!」
 野太い男の声がした。ジュスである。その声と共に、一斉に喊声が上がって、騎兵が岸に上陸して行く。
「雑魚は放っておけ。目指すは、あの光の天幕ぞ!!」
 ジュスは陣の中で、一際大きな天幕を槍で指す。そこには星空の下、無数の旗が居並び、煌々と光を天へと立ち昇らせている。
 ジュスを含む集団は、オルレラン陣の中を自由自在に駆け抜ける。
 一方のオルレラン兵は、全く収拾がつかない。まるで狼に襲われた羊の群れのようにおどおどしている。ただ左右に首を振るばかりの者、抵抗する意志がありながらも、自分の武器や鎧が何処にあるのか分からず、ただ大声を張り上げる者。誰もが右往左往するばかりである。
「火矢だ!!」
 次々と投げ込まれる火矢に、本営は炎に包まれた。そして、中に歓喜の将達を含んだまま、その火は瞬く間に燃え広がって行く。轟々と燃え上がる姿は、まるで“炎の城”と表現するに相応しく、異形で威圧感のある物だった。
 あまりにも一瞬の出来事である。オルレラン兵はひたすら恐懼[キョウク]して、呆気なく闘志を投げ捨ててしまった。一度砕けた士気はもう二度とは戻らない。怯えて涙もなく泣き、そして、ついに、一斉に逃げ出す集団が現れた。口々に、「100万の大軍勢が襲ってきたぞ。逃げろ!」と叫んでいる。あっという間に、恐慌{パニック}は全軍へと広がった。オルレラン兵は、蜘蛛の子を散らすように夜の暗がりへと逃げ出して行った。

 夜が明けようとしていた。その日は雨模様で、ぼんやりと薄暗い。
「見事なものですな」
 うっすらと煙の立ち昇る元オルレラン野営地を、ジュスは向こう岸から眺めていた。
「一体どのくらいあるのでしょう?」
 幕僚達のにやついた声がする。ジュスはそれを黙って聞いていた。
「一部は燃えたようですが、それでも一年分の物資はあるだろう」
 いつも気難しげにしている参謀長ですら、溢れ出す笑いを必死に堪えているようだった。
 完勝だった。少数で多数を蹴散らす、見事な夜襲である。少なくとも戦術史に名を残すだろう、とこの場にいる誰もが思っていた。
「はぁん、もっと骨のある奴等は居らんのか」
 ジュスは鼻を鳴らすと、聖都サイアへと馬を向けた。
「あとはお前達に任せる。好きなだけ持ち帰れ」
「はい」
 部下達の顔がぱっと華やぐ。

「良い音色だ」
「軍曹殿、それは良い物でありますか?」
 カリハバール軍の軍曹が、白い壷を指で叩いて、値踏みしている。それを若い二等兵が興味津々に覗き込んでいる。
「そうだな……これはワ国伝来の白磁だろう……きっと……いや、たぶん……そうじゃないかという気が、少しするような気がしないでもないかも……」
「そうでありますか。さすが軍曹殿でありますな。小官もそのような物を探すであります」
 二等兵は敬礼すると、木箱をこじ開け始める。
「やっぱり、戦利品を略奪するのは、軍隊の醍醐味でありますな」
 そして、大量の藁をかき分けて、筒状の物を取り出した。
「これは……?」
「おい、扱いに気をつけろよ」
 軍曹が少し慌てて、声を発する。
「何でありますか?」
「魔矢だ。筒から棒が出ているだろ。それを引き抜くと、魔術が発動するらしい」
「カリハバール物とは、形式が違うであります」
 まじまじと二等兵はそれを眺めている。
「しかし、矢と言うよりも、ただの竹のようでありますな……」
 その時、急に雨が降り出した。軍曹と二等兵は慌てて天幕{テント}の下へ避難する。と、その前を騎馬が全速力で駆け抜けていく。
「何処の部隊だ。危ないであります」
 二等兵が怒鳴った瞬間、騎兵は先程の筒とよく似た筒を取り出し、そこから矢を引き抜く。矢先にはやや赤の強い輝く球体が付いていた。それを弓に番えると、木箱に放つ。木箱に突き刺さると、炎が渦ように巻き起こった。
「炎の魔矢だ! 敵襲だ!!」
 軍曹が絶叫する。と、彼らが居た天幕{テント}にも火が燃え移って、慌てて逃げ出していく。そこで、オルレランが残した輜重から、次々と火柱が立ち昇っている事に気付いた。

 ジュスは幕僚に呼ばれて、森の小径[こみち]を慌てて戻ってきた。そして、その眼前に広がる無残な光景に、ただ唖然とする。
「何事か……?」
 無数に立ち昇る黒煙、逃げ惑う部下の兵たちの叫び声、川には無数の死体が流れている。まさに阿鼻叫喚とはこの事だろう。
「これは、荷に何か仕込まれていたのかもしれません……」
 幕僚が唸った。
 その幕僚を、血走った眼が睨む。だから何なのだ、と思わず声が出そうになる。否、怒鳴ろうとしたのだ。そのつもりだったが、何度喉を搾っても、喉の奥が麻痺して、吐く事も吸う事も出来ない。
「あれは!」
 と、別の幕僚が指を指した。ジュスはつられてそこへ眼を向ける。
 カリハバール騎兵が川辺で退避の指揮をしている。鎧からすぐにジュスの弟である事が分かった。そこに一騎駆け寄って来る。
 すれ違い様、敵騎が青竜刀で斬り払った。そして、鼓舞するように、青竜刀を振り回して、天に突き上げた。
「はっ!」
 ジュスはようやく息を吐き出すことが出来た。その時、四人の部下が両手両足を押さえ込む。
「何をする。追撃だ!!」
「もう間に合いません」
「我々は策にはまったのです」
「クッ……」
 ジュスの髪がみるみる逆立っていく。顔は真っ赤になり、唇からは血が流れている。
「この屈辱、忘れはせんぞ!!」

 オーギュストは小高い丘の上にいた。そして、望遠鏡を下ろすと、隣のナルセスを見る。
「また、リューフの武勇伝が一つ増えたな」
「ああ、吟遊詩人たちは歌うだろう。義憤にかられた勇者が、一夜駆けて、奇襲返しを行い、味方の仇を討ったと」
「そこにベルティーニの名が登場する事はないのか?」
 オーギュストが北叟笑{ほくそえ}む。
「ああ。だが、そう遠くない日に、お前とベルティーニのデスマスクを、魔除けとして屋根の上に飾るようになるだろうな」
 片眉を上げて、皮肉っぽくナルセスが言う。それにオーギュストは、がっちりとナルセスの肩を掴んで、囁いた。
「その時は、お前も入れて、三点セット、だろ?」
 ナルセスは天を仰ぐと、大きく息を吐く。
 そこへ、マックスが駆け寄った。
「リューフから打電、予定通りに撤収を完了した、そうな」
 オーギュストとナルセスは目を合わせる。
「それじゃ、俺達も引き上げるとするか」
「こんな所に長居は無用」
「当然次の手も考えているのだろ?」
「折角、勢い付いたのだ。それを削ぐ事もなかろう」
 オーギュストが不敵な笑みで、片方の口の端を上げた。
「はいはい、忙しい事で……」
 横でマックスが、連戦かよ、とぶつぶつ唱えている。
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Date:2011/01/23
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