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□ エリーシア戦記65 □

65-3

 ※グランクロス宮殿
 早朝6時、侍女や小姓が階下から上ってきて、廊下を慌ただしく行き来し始めると、宮殿の一日が始まる。
 7時、後宮の七殿五舎の女性たちは、身形を整えて、西宮に赴く。そして、神殿で闘神に拝礼し、教会で歴代サリス皇帝の霊に礼拝する。
 原則全員出席なのだが、オーギュストは日常的にこれをサボり、また、オーギュストの夜伽を務めた女性は出席を免除されている。
 この日、カール6世の手を取っていたのは、メルローズだった。
 それから、8時には朝食を取り、9時以降はそれぞれが執務を行った。具体的には、朝の挨拶を臣下から受ける。
 これが、宮殿の朝である。

 小鳥の囀る中、窓から眩い光が差し込む。
「……うう」
 ティルローズは、全裸で天井から三本のロープで吊るされていた。両手を背中で縛り、さらに乳ぶさの上下を回ってから天井へ、M字型に足を固定して両太腿から天井へとロープが伸びている。
 黄金の髪は蓬のように乱れ、首には首輪が、乳首には洗濯バサミが与えられている。苦痛の呻きに合わせて、まるでブランコのように裸体が揺れている。
 そして、アナルからは、一筋の透明の液体が僅かに弧を描くように垂れて、秘唇からは、白濁液がどろりと滴っている。
 その苦痛に酔う貌は、ゾッとするほど色っぽく美しい。
「……も、もう」
「どうだ、満足できた?」
 オーギュストは、焼きたてのハムエッグを丸めて手で掴み、上から垂らして、頬張りながら、問う。
「……うん」
 ティルローズは、涎と鼻水を垂らしなら、辛うじて残っている力で小さく頷く。

 午前中、北宮の道場で一時間ほど体を動かした後、オーギュストはアトリエに入った。
 メルローズは、裸体で、白いシーツを敷いたソファーの上で、愛らしく猫のマネをしている。
「……」
 イーゼルに乗せたキャンバスから離れて、オーギュストは、言葉もなく、メルローズの傍に寄る。
「……」
 メルローズは声ができない。オーギュストの視線が恐ろしい。
 耐えられずに顔を伏せる。その瞬間、素早くオーギュストの手が伸びて、顎の先を摘まれて、顔の角度を訂正される。
「……」
 瞳の中をオーギュストに覗かれた。はっと息を飲む。その眼差しは、いつもとまるで違い、些細な妥協さえも許さない険しさに漲っている。
 オーギュストが、右手でふわりと背の肌に触れる。
 触れているのか触れていないのか、死角なので、はっきりと分からない。まるで天使の羽で撫でられているような、そんな幻想的な錯覚を抱く。しかし、その感覚が微妙であればあるほど、逆に意識がそこへ集中していく。
「……ふはぁ」
 不意に、オーギュストが、強く手を押し付ける。まるで、その肌の張りを確かめるように。
「……はぁ」
 思わず、声が震える。
 ゆっくりと指は、肌の上を這う。まるで、その肌理を調べるように。
――私の身体は合格だろうか……。
 濃霧の黒い森に迷い込んだような不安が、胸の奥で渦巻く。
 オーギュストのそれは、すべて芸術家のものである。幾多の美を創り出してきた手、数多の美を見抜いてきた目、その全てを、今、自分ひとりに注いでいる。
――ああ……胸が……。
 この早鐘のような動悸は何事であろうか。不安だろうか、否、きっと期待であろう。この手は、必ず自分の中から、新たな美を見出してくれるだろう。そんな期待が、胸の内に広がっていく。
 腕を掴まれて、少し角度を変えて、脚を伸ばすように誘導された。そして、オーギュストが甘い囁きをする。
「美しいよ」
 激しい音を立て打つ心臓から、熱い血が頭に上っていく。頭が沸騰したようで、呼吸さえも忘れるような激しい興奮を覚える。
 オーギュストは、メルローズを残して、キャンバスに戻る。
「……ああン」
 漂ってきた絵の具の匂いに酔い痴れて、くらくらと目眩に襲われて、恍惚のため息を吐く。そして、秘裂を出た愛液は、太腿を滝のように流れて、膝まで濡らしている。


 ※セリア市街。
 昼、ローズマリーの学院に、授業の終了を告げる鐘が鳴る。
 ローズマリーは、直前にあった質問に答えるために、少し時間を延長していた。
「えーと、遥か昔、創造神は天井を這い回る化け物に悩まされていました。そんな時、猫が現われて、小さな声でニャーと鳴きました。するとどうでしょう。化け物は、それっきり消えてしまいました。感動した創造神は、猫を万物の霊長と定め、その世話役として人間をお創りになりました。だから、猫は偉いのです。分かりましたか?」
「は~い」
 生徒たちは、一斉に手を上げて返事した。
「人の幸せは、猫をどのくらい幸せにしたかで決まります――」
 よどみなく、キッパリと言い切る。
「この中には、将来領主になる子もいるでしょう。その時に、一人の猫を救うために、全領民を犠牲にしなければならない時もあるでしょう。そんな時は、女神様の御心を信じて、勇敢に行動して下さい」
「は~い」
「じゃ、日直」
 ローズマリーの声を合図に、一人の男の生徒が立ち上がり、生徒全員で唱和を始めた。
「一つ、腹ペコのまま授業にでない」
「二つ、晴れの日には、布団を干す」
「三つ、道を歩く時は、馬車に気をつける」
「四つ、他人の力を頼りにしない」
「五つ、土の上を裸足で走る」
 そして、ローズマリーが後ろを向いて、黒板の文字を消し始めると、生徒たちは、素早く教科書を仕舞い、跳ねるように廊下へと飛び出していく。
「えーと、あ、そうだ」
 急に思い出して、ローズマリーはチョークを持ったまま、慌ただしい口調で言う。
「『五つの誓い』を早く覚えるように。試験に出ますよぉ。特に貴族の子弟は、暗唱できないと、爵位をもらえませんからねぇ」
 聞いているのか聞いていないのか、生徒たちは、「給食だ」と叫びながら、元気よく廊下を走っていく。
 その生徒たちと入れ替わりに、ヤンが教室に入ってきた。
「突然の訪問の無礼を御許し下さい」
 深々と頭を下げる。
 ローズマリーは訝しげに、首を傾げる。

「どうぞ」
「失礼致します」
 ローズマリーに導かれて、ヤンは、院長室に入る。
「お食事はまだでしょ?」
「はい」
「では、食べながらお話しましょう」
「…お気遣い、痛み入ります」
 ローズマリーの屈託ない言葉に、ヤンは身震いするほど恐縮した。遠慮は返って無礼と考えて、申し出を受ける。
「それで、アン君とラン君を助けてほしい、と言うことでしたね」
 頭が真っ白になっているヤンに、甘い香りの紅茶を飲みながら、ローズマリーは用件を再度確認した。
「あ、はい――」
 我に返り、ヤンは慌てて返事する。
「二人とも有能な人材です。このまま失うのは余りにも惜しい、と小官は愚考します」
「そうねぇ……。でも、私より、力になれる人がいると思うのですが……」
 ローズマリーは、紅茶をすすり、心底、困った表情をする。その時、料理人が給食を持ってきた。コック帽をかぶっているが、エプロンは絵の具で汚れていて、料理人用ではない。
「残念ながら、小官には伝手がありません。小官の職権を利用して、こうして直接お会い出る方も、ローズマリー様しか在りません」
「……そうですか」
 考え込むように、ローズマリーは顔を伏せた。その前に、料理人が料理を置く。まるで二人の会話に配慮がない。
「今日は、クリームブリュレ」
 そして、気さくに言うと、巧みにフランベする。忽ち、甘い香りに広がる。ヤンは、音を立てて唾を飲み込んだ。
「ギュス、どうします?」
 ローズマリーは隣に坐ろうとする料理人に問いかけた。オーギュストは、もう食べ始めている。
「で、そのアンとランって誰だっけ?」


 オーギュストは、地下通路を走っていた。石垣が隙間なく整然と組み上げられて、巧みに円筒形になっている。
「あの~ぉ?」
 後ろを走るヤンが、遠慮がちに問う。
「何?」
 呼吸を乱さずに、オーギュストが応じる。
「これは所謂抜け道という奴でしょうか?」
 好奇心が爆発して、目が星のようにキラキラとしている。
「俺が地上を走ったら、目立つだろうが」
「はい」
「だからドワーフに掘らせた」
「ああ、なるほど」
「そしたら、『たまたま』ユリアちゃん……ゴホン……学院の下を通ってしまった。それだけだ」
 『たまたま』という単語に、妙に強調する。
「ああ……私は何も言っていません」
「……」
 嫌な沈黙が流れた。二人の足音だけが、湿った空気に反響し続ける。


 ※セリア郊外。
 サリス闘神大神殿では、新人信者研修会が行われていた。
「いいか、今の貴様らは最低のクズだ。ゲスだ。ダニだ。ウジムシだ。我らが闘神様に媚び諂う売女だ」
 直立不動の新人達の前で、教官のミラが容赦なく罵り始めた。
「私は、お前ら中途半端な負け犬どもが、大ッ嫌いだ。散歩に行く時、帽子を忘れたぐらい腹が立つ」
 倣岸不遜な顔で睨みつけながら、新人達の列の中を練り歩く。
「スリ、ひったくり、サギ、喧嘩、売春、不敬罪、国家機密漏洩罪、どいつもこいつもチンケにまとまりやがって。盗むなら国を盗め。暴れるなら世界を滅ぼせ。舐めた口きくぐらいなら、その口でケツの穴まで舐め尽くせ」
 そして、耳障りなガラガラ声で、鼓膜を破れんばかりに喚き続ける。
「しかし悦べ、ヘンタイのお前達にも、闘神様は寛大だ。ここに一切の差別はない。ショタ、やおい、百合、すべて平等に存在価値はない。役立たずの腐れマ○コは、笑うことも泣くことも許さん」
「……じゃ――」
 ついにランの堪忍袋の緒が切れた。低い声だが、強い敵意を含んでいる。
「怒ろうかな……」
 その微かな呟きを、ミラは聞き逃さない。
「どこのドブスだ?」
「怒って何が悪い――」
 我慢できず、さらにランは叫んだ。
「私は無実だ――」
 ミラは素早くランの前まで駆け、顔を接するほど近付ける。そして、「この腐れ雌豚め」と激しく怒鳴った。
「無実の私が、何故こんな下品な事を言われなければならんのだ!」
 瞳の奥に熱い物がこみ上げてくる。しかし、泣けば負けだと、ランは必死に奥歯を噛み締めて堪えた。
「昨日から何もくっとらんわりに元気じゃないか?」
 ミラは、血走った眼を見開き、口元に不気味な笑みを浮かべた。
「気に入ったぞ、腐れ雌豚。さすが国家機密をマン汁のようにダダ漏れさせるだけのことはある。今日からお前の名前は、マン汁漏れ雌豚だ」
「なっ!」
 余りの屈辱に、ランは、耳まで真赤になった。
「だが、私は戯言を聞いているほど暇じゃない。じじいの腰振りで欠伸している方がまだマシだ」
 ミラはランから離れて、全員を見渡した。
「公衆便所ども。私の貴重な時間を無駄にした罪は、全員で償え」
 そして、「腕立ての姿勢」と大声を張り上げる。一斉に新人達は床に伏せた。そして、「用意、初め」の号令とともに腕立て伏せを始める
「……」
 ランは、眼前の悪夢のような光景に呆然と立ち尽くす。


 ※グランクロス宮殿。
 午後、オーギュストは、北宮の一室にいた。
 玉座は階段を登った壇の上にある。壇の左右には、黒色の円柱が二本一組で並び、その台座と柱頭は黄金で彩られている。玉座の後には鮮やかな鳳凰が描かれていた。玉座は長椅子で、赤いビロードに金糸と銀糸で装飾されていた。
「……以上。如何致しましょうか?」
 階段の下にファルコナーは跪いて、宰相府や統帥府などから上がってきた案件を読み上げる。
 不審や変更点があれば指摘することになっている。無言の場合は、了承とされて、決裁済みとして処理されていく。
「……」
 オーギュストはぐっすり熟睡していた。
 そして、夕刻、全ての決裁が滞りなく終わる。
「やっぱさ。20歳越えると、昼寝しないといけないよね。頭の回転が鈍る」
「ごもっともです」
「20分ぐらいがベストだな。うん調度いい。20分だな」
「はい」
 オーギュストは、手足を伸して、軽くストレッチする。そして、ファルコナーと雑談しながら、二郭の廊下を歩いていく。
「そう言えば、ランニング中に、ヤンに会ったなぁ」
「参謀本部第一作戦課第一戦術研究班長のヤン・ドレイクハーブン少佐ですか?」
 参謀本部随一の切れ者の名に、ファルコナーの意識が鋭くなる。そして、固唾を呑んで、次の言葉を待つ。
「アンズとスシ王子がどうのこうのと……。あれ? スシ……いや、もっと庶民的な……ラ……そうだ! ラーメンだ。夜食はラーメンにしよう」
「はい」
 オーギュストは軽く笑いながら、三郭の御殿の一つへ向かう。





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Date:2010/11/04
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Comment:3

Comment

* No title

起承転結の転です。まあ地味ですw
2010/11/04 【ハリー】 URL #- 

* No title

インフォシークと一緒に閉鎖したかと思って探し回りましたww
大丈夫みたいで良かったです。
2010/11/13 【 】 URL #MDo56pwE [編集] 

* ありがとうございます。

ようこそ、いらっしゃいました。
なにぶん、インフォシークの閉鎖で、一番戸惑っているのが私で、今後どのように運営すればよいのか迷っています。それで、ほとんど宣伝などしていませんでした。ここも今後どうするかは分かりません。
ご意見やご提案などありました。よろしくお願いします。
では。
2010/11/13 【ハリー】 URL #- 

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