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□ エリーシア戦記70 □

第70章 確乎不抜

第70章 確乎不抜


【神聖紀1235年2月】
 暗がりの中にいる。
 肉体が官能に炎上して、自分のものではないように感覚が曖昧に鈍っている。まるで水の中に浮いているようだった。
――背中が空いている……。
 そう思うと、忽ち、背筋を撫でられる。
 腕を上げれば脇を舐められ、脚を緩めれば内腿に舌が這う。
「ああん」
 喉を伸ばして甘く喘げば、首筋を吸われる。
 もっと刺激がほしいと思えば、尻肉を荒々しく鷲掴みにされて、優しくされたいと思えば、乳ぶさを猫の手のように丸く触れられる。
「もっともっと」
 甘えたくて舌を差しだせば、忽ち、舌が絡んできて、極上のスープを流し込んでくれる。
 乳首が固く尖って疼きだせば、舌腹で弾かれる。お尻を高く持ち上げれば、アナルを穿ってくれる。秘唇が蠢けば蜜を掻き出してくれる。
 この闇は、願えば、どんなことも瞬時に敵えてくれる。

 太陽の眩い光の下に、マルガレータのスレンダーな肢体が悶えている。
――綺麗だ……。
 細い足首、棒のように真直ぐな脚、両手の親指と人差し指で作った輪の中に収まりそうな腰、小ぶりだが形のよい乳ぶさ、木苺を思わせる乳首、浮き出た鎖骨、長い首に拳ほどの小顔、一切無駄のない肢体が、陽の光を反射して輝いている。
 彼女には目隠しをさせた。その方が、愛撫に敏感な反応を示す。
「きゃあ!」
 いきなり抱き起して宙に放り上げる。華奢な身体が軽々と舞う。そして、薄い尻が落ちてきたところをずぶりと犯す。
「ヒヒィ、ヒーッ!」
 衝撃が頭の天辺から突き抜けたようで、ひときわ甲高い悲鳴をあげた。
 そのまま抱き抱えて下から抉り続けてやる。
「ああ、イイ。飛んじゃう!」
 彼女は腕を首にしっかり巻き付け、脚をきつく腰に絡ませて、涎を垂らしながら、泣くように喘ぎまくる。
「こ、壊れるぅ、オマンコが壊れちゃうぅ!」
 存分に不安定な浮遊感を楽しませてから、今度は一転、ベッドに腰を押さえ付けて、神業の速度で腰を叩き付け続ける。
「きて、きてぇー、いっしょにきてぇー!」
 切なく媚びた鳴き声とともに、肉体が不自然にガクガクと揺れる。もう際限なく膨張した官能の昂ぶりが、限界に達しようとしている。
「よし、褒美をくれてやろう」
 その切実な哀願を受け入れて、軽い一度射精してやる。
「イイイイイイっ! クううううううっ!」
 躾どおりに、随喜の呻きで、自身の絶頂を宣言する。そして、若鮎のように何度も痙攣を繰り返しながら、淫靡な情感が溶け込んだ息を荒く吐き出す。
「ああ、中に出して下さったのですね」
 灼熱のほとばしりを胎に感じて、至福の表情で浮かべる。満足して頂けたという安心感が、至高の喜びである。
「きれいに致します」
 そう言うと、まだ肩で息をしているのに、上体を起こし、四つん這いとなる。そして、武勲を上げたばかりの巨槍を進んで舐め始めた。
「グレタも今度のことは辛かろう」
 頭を撫でながら、優しくささやく。
「……はい」
「さぞ、俺を恨んでいるだろうね」
「いいえ、そんなことはありません」
 彼女は、呆けた顔でケロリと言う。
 しかし、つい先ほどまで、不満を爆発させていた。ベアトリックス、ルイーゼ、マルティナのアルティガルド出身者に説得させようとしたが、聞く耳を持たずに、手当たり次第に物を投げる始末である。
 だから、一度、快感で怒気を溶かしてやった。絶頂に達した後のマルガレータは、嘘のように素直になる。
「でもね、アルティガルドにいる刀根の話だと、とんでもない事になっているらしい」
「……」
「君側の奸を排除せねば、グレタの兄上も、解放されない」
 オーギュストは、ジークフリードを奸臣と言う。そして、アルティガルド王ヴィルヘルム1世を軟禁して、政治を独占し、悪政を敷いていると説く。
「わたくしは、陛下を信じております」
 マルガレータはペニスを咥えたまま喋る。
「ああ、必ず。安定したアルティガルドをグレタにプレゼントしてやろう」
「はい」
 熱に魘された貌で、マルガレータは頷く。
「いい子だ」
 オーギュストは、小刻みに揺れる頭にキスをした。


 ※アルティガルド王国ロイド州
 『ウィリアム・ロイドの反逆』(67章参照)によって、ロイド伯爵家は改易となった。そして、オーギュストの裁定により、その領地は、3分の2をアルティガルド王国に、残りをウェーデリア公国に分割された。
 この新領土の司令官職に、アルティガルド王国宰相ジークフリードの指名によって、『ゴットフリート・ブルムベア』が就任している。
 しかし、統治はいきなり躓く。
 村の名主たちが、税の支配を渋る。
「税は前領主に払ったので、もう払わない」
 商人たちが、ロイド家の借金の返済を求めてくる。
「前領主の借金を返済してください」
 役人たちが、仕事をしない。
「法律の変更は間に合いません。お茶を飲まなければいけないし、新聞も読まなければいけないし、昨日のスポーツの結果も気になるし……」
 などなどことあるごとに、新たな領主に、領民は難癖を付けてくる。実務経験の乏しいゴットフリートは、これらを裁けない。
 元々ジークフリードの悪童仲間である。楽な方に流されやすい。すぐに彼は、職務を放り出して、邸宅の中に篭り、酒と女に耽ってしまう。
 忽ち悪評は、領内に拡散し、不満を抱く若者たちを暴徒と変えた。そして彼らの一部は、邸宅を放火した。
「許さん!」
 命辛々、女たちと裸で逃げ出し、自慢の邸宅が燃えるさまを眺めながら、彼は烈しく激怒する。
 売られた喧嘩は買う。それが彼らの人生の指針である。元来、努力は苦手だが、人一倍負けず嫌いであった。
 しかし、犯人たちは、ウェーデリア公国領へ逃げて、一人も捕まえることができない。
「忌々しいウェーデリア人め!」
 ゴットフリートの苛立ちは、頂点に達しようとしていた。
 こうして、新領土に不穏な空気が漂い始めていた時、ジークフリードから密書が届く。
「間違いなく、ジークからだ」
 よく見慣れた筆跡である。読み進めるうちに、不満に歪んでいた顔が、みるみる精悍な表情へと変わっていく。
 そこには、
『不穏分子を一掃しろ』
 と命令している。
『ウェーデリアも、サリスも、我々の意を知り怯んでいる』
 さらに、ジークフリードは言っている。
『遠慮せず、強行せよ』
 という内容だった。
 ゴッドフリードは勇み立つ。
「宰相閣下お許しが出た」
 即座に、同行していた軍に出撃を命じる。
「根絶やしにするぞ!」
 こうして、ゴッドフリードは、分割されたロイド領の境界を超えて進軍した。


 ※サリス帝国セリア
 グランクロス宮殿には、幾つもの棟があり、それらが幾つもの中庭を囲み、幾つもの回廊で繋いでいる。その中庭の一つが、梅の園となっており、たくさんの木々に一斉に梅の蕾が芽吹いている。
 左の梅の木に、蕾が爽やかな緑の灯りのようで、その幾つかが白い花を綻ばせている。また、右の木は、蕾が鮮やかな赤色に染まり、まるで炎のように枝々を飾っている。それら枝の間を、メジロやヤマガラが美しく囀りながら飛び交っている。
 梅の間を抜ける小径の奥、小さな池の上に、古代神殿を模した白い東屋がある。
「梅の蕾は良い。初恋のように可憐だ。そうは思わぬか?」
 オーギュストは、欄干越しに梅を楽しみながら、花を浮かべた酒を飲む。そして、外で跪くウェーデリア大使に問いかけた。
「まことですな」
 大使は頷いたが、その視線は梅ではなく、天空に浮かぶ黄金の塔に注がれていた。
「まさに夢幻の国に迷い込んだような気分です」
 その豪華絢爛たる姿に目を瞠っている。
「……」
 オーギュストはやや興を削がれ、小さく息を吐いてから、ぞんざいに足を組んだ。
「大使、上帝陛下は、梅の話をしているのですよ」
 透かさずオードリーが窘める。丈の短いノースリーブに、ローライズのホットパンツ姿で、甲斐甲斐しく酒を注いでいる。彼女は、ウェーデリア公エドワード2世の娘であり、彼女の仲介でこの謁見は実現した。
「申し訳ございません」
 不興を買ったと思い、大使は額を石畳につけて謝罪する。
「そう大使を苛めるな」
 オーギュストは、オードリーのノースリーブの中に手を入れる。
「恐れ入ります」
 大使は畏まって、額を石畳に擦り付ける。
「伏してお願い申し上げ奉ります」
 これ以上の緊張に耐える自信がなく、やや早口に、本題を切り出した。
「旧ロイド領において、アルティガルドの兵が不埒な行為に及んでおります」
「聞いている」
 短く答えて、オードリーの乳ぶさをもむ。
「我が主は、『陛下の仲立ちによって成立した和睦であり、無闇な振る舞いは致しません』と申しております」
「殊勝な心がけである」
 その父をほめながら、オードリーの火照った頬を舐める。
「アルティガルドとの国境問題は、穏便に済ませるつもりでいたが、余の差配に不満がるというなら、仕方がない」
 思わず、乳首を摘まむ指に力が入った。
「天下の泰平を乱す罪は許し難い!」
 その一声で、東屋の周辺が、言いようのない緊迫感に包まれていく。
「ゴーチエ・ド・カザルス将軍」
「はっ」
 一人武人を指名する。
 すぐに、彼は進み出てきて、大使の傍らに跪いた。元聖騎士であり、その立ち居振る舞いは洗練されている。その用兵は、派手こそないが、与えられた任務を的確に処理し、周囲の信頼は厚い。まさに攻守にバランスのとれた良将である。
「直ちにロイドの赴き、彼の地を治めよ」
「御意!」
 カザルスが飾り気のない言葉で戦意を表す。
「心強いお言葉有難き幸せ、主も安心いたしましょう」
 大使が感涙して、感謝の意を伝える。
 それを無視して、言葉を続ける。
「徒に、戦線を拡大しろ」
「御意」
 堂々たる声で答えた。
「これはもう要らないな」
 そして、オーギュストは、アルティガルド王国の紋章のある2枚の書状を破り捨てた。


 ※アルティガルド王国アルテブルグ
 フィネ・ソルータは、モンベルの森で道に迷い、崖から落ちて重傷を負った(68章3参照)。その後、ルートガーに拾われ、アルテブルグで治療を受けていた。
 そのルートガーは、ソルトハーゲン司令官に任命されて、アルテブルグを離れている。
 そして、この日、ジークフリードの邸宅に招かれている。
 ロングヘアに大きなリボン、ロング丈のワンピースといういつもの衣装で、得意の歌を披露した。
「さすが、歌姫である。褒めてつかわす」
「ありがとうございます」
 散漫な拍手に対して、丁寧に感謝の言葉を述べる。
 そして、ジークフリードは然も自然に、挨拶でもするような口調で告げる。
「我が夜伽をせよ」
「はい、私は囚われの身でございます」
 所詮、籠の中の鳥である。煮て食おうと焼いて食おうと、ジークフリードの勝手だった。
 もちろん、邸宅に招かれた時から、フィネ自身も覚悟はできていた。逆らえば、死ぬだけである。
「近う寄れ」
 ジークフリードは膝を叩いた。
「はい」
 素直に従い、その膝の上に腰を下ろした。
 歌った後である。胸元にうっすらと汗をかいていた。体臭を嗅がれることに、恥ずかしさを感じて、身を固くして手足を竦めた。
「可愛がってやるぞ」
 その顎を掴んで、強引に口付をした。
「よろしいでしょうか……?」
 その時、執事が、扉の向こうから、恐るおそる問い掛けてくる。
「よい訳がなかろう!」
 ジークフリーが、胸元の汗をすすりながら答える。
「宰相閣下に緊急の用件あり、とヘルミーネ・ザマー将軍がお越しになられました」
 腹心の名に、ジークフリードは、忌々しく顔を歪めた。
「ザマーが……、執務室に通せ」
「畏まりました」
 執事が逃げるように去っていく。
 しばらく腕の中のフィネを眺めていたが、一度舌打ちをして、その体を床に投げ捨てた。
「すぐに戻って来る。汗を拭くなよ」
「……はい」
 フィネが小さく頷いた。
「何事であるか?」
 ガウンの紐を締め直しながら、執務室に入る。その声は、まるで毒の霧のように、不機嫌を窮めていた。
「サリス軍が動き出しました」
 眉を険しく寄せる。この時期にサリスが動く理由に思い至らない。サリスとアルティガルドの国境には、長い歴史と膨大な資金をかけて作り上げられた鉄壁の要塞がある。力づくで抜けるものではない。
「何処に?」
「ロイドです」
「ロイド?」
 意外な地名であった。つい最近協定が結ばれたばかりである。それも、サリス側が大幅な譲歩をして、事を穏便に済ませた経緯もある。
「現在、東西のロイドは、ゴッドフリート将軍によって征服されています。これにサリス側は条約違反だと主張し、かつ、すでに約一万二千の軍勢を上陸させました」
「バカな!」
 即座に吐き捨てた。そして、机の引出しから、ゴットフリートの書状を取り出す。
「ここには、何の問題もない、と書かれているぞ」
 怒鳴りながら、机の上に書状を叩き付ける。
 咄嗟に、ゴッドフリートがロイドで独立を図ったのではないか、と思案した。だが、あの小物にそんな度胸はない、とすぐに首を振る。路地裏で悪態をつくしか能がない男だ、と結論付ける。
 その時、何か引っかかるものを感じて、もう一度書状を読み返す。それから、一文字一文字を丹念に確かめ始めた。
「これは……」
 そして、蒼白となる。
「ゴッドフリートの筆跡ではない……」
 呪いの言葉のように、低く呻く。
「謀られた……」
 勿論、ゴッドフリートではない。
 すぐにオーギュストの策謀だと気付く。そして、口惜しさに歯軋りした。
「何と卑怯な真似を!」
 怒りが全身を震えさせる。
「閣下、ここは謝罪して、率直に事情を説明されては如何ですか?」
 ザマーが、誠意のある声で進言する。
「ふざけるな!」
 そんなことをすれば、自分の権威に傷をつけてしまう。成り上がり者のジークフリードは、それを何よりも恐れている。
「ザマー」
「はっ」
 機敏に踵を鳴らす。
「ソルトハーゲン要塞、ホークブルグ要塞、フリーズ大河の各城塞に、警戒を厳重せよ、と通達」
「はい」
「お前は、精鋭5万を率いて、ロイドへ向かえ」
「畏まりました」
 ザマーは、軽快に踵を返して、退室する。
「まだだ」
 彼は思う。
 現状、両国に決定的な戦力差はない。
 サリスに国境の要衝を突破できるだけの戦力はない。ましてアルティガルド全土を覆い尽くすには、兵士の数が足りない。ならば、速やかにロイドを解決して、抗議の使者をサリスに送れば、問題は解決する――筈である。読み抜けはない、と考え続ける。
「勝負はこれからだ!」
 そして、渾身の力で机を殴る。


 ※シュタウフェン州
「ほらほら、もたもたするな」
 スキンヘッドに、揉み上げとヒゲが合体させた中年男が、荒々しい声で兵士に叱咤する。
 『メーベルワーゲン大会』のメンバーの一人で、元盗賊のルドルフは、第9代アルティガルド王フェルディナント2世の王墓を暴いていた。
「頭、これで当分は暴れられますぜ」
 両手に黄金の装飾品を持った部下が、興奮した声で喚きまくる。
「ああ、掘り放題だ」
 ルドルフが豪快に笑ったが、その声は熱意も関心もない。
「どんどん掘れ」
 部下の強欲を煽って、本陣の天幕から追い払う。
「貴方は行かないの?」
「宝ならここにある」
 床几にアリーセが坐っていた。
 長く細り指で、灰色がかった金髪の前髪を払った。瓜実形の顔に、きれいな弧を描いた眉、まなじりの上がった切れ長の目、紅をさした唇。清楚で気品のある美しさだった。
「ようやく手に入れたぞ」
 ルドルフは、好色な笑みを浮かべて笑う。
 アリーセは酒を注いだ。
――虫唾が走る!
 ルドルフの獣のような赤く濁った眼が、ぞっとするほど気持ち悪い。
「なかなか強情で苦労したが、あんたも、ようやく分かったようだな。あんたの願いを叶えられる俺だけだ」
 ルドルフは、舐めるようにアリーセを眺める。
「ええ」
 無表情に、アリーセは頷く。
 ルドルフの手がアリーセに伸びる。
「俺を手古摺らせた分、たっぷりお仕置きをしてやるぞ」
 その卑猥な言葉が終わる前に、いきなり遠雷のような音が轟いた。
「ぐがッ」
 そして、ルドルフは口から血を吹き出して、その巨体を地に倒していく。
「騙したな……」
 苦痛に呻きながら、何とか言葉を吐いた。
「光栄に思いなさい。貴方は死ぬことで、私の願望を叶えることができるのよ」
 アリーセは冷たい瞳で笑う。その足元で黒猫が躍る。
「坊やも、ありがとう」
 そして、高台を見遣った。
 そこには、ヴォルフ・ルポが立っていた。手に持つ黒い筒からは、細い煙が昇っている。


【3月セリア】
 休日、ランは、姉のリタを訪ねていた。
 連日、出征の準備に追われて、心身ともに疲労の限界に来ていた。ようやくとれた休日を、姉と共に過ごせて幸いであった。
「珍しいものが手に入ったから」
 と言って、珍しい南国の果物を差し出した。
 エルフからの献上品で、エリーシア中原では、一般には滅多に手に入らないものだった。親衛隊にいると、こういった物が時々手に入る。
「ありがとう」
 リタは嬉しそうに受け取った。

 リタとランは、よく似ている。猫を思わせる大きく、そして、ややつり上がった目。すっきり通った鼻。鋭く尖った顎。ただリタは、長く病気を患ったせいで、身体は小さく、とても痩せている。肌も、ランの健康的な小麦色と違い、真っ白だった。
 姉妹は、カリハバール戦役の時、南サリスの農村で両親を殺されてから、離れ離れに育った。
 ランは近くの農家に預けられた。
 リタは叔母のローラに引き取れて北サイアのトラブゾンへ移った。身体の弱いリタをどこも引き取ろうとはしなかった。そして、ローラは、その頃商家で下働きをして貧しく、姉妹二人を引き取れなかった。
 遠く旅立つ姉をかわいそうだと思った。
 しかし、ランが引っ越した村も、カリハバール軍に村を焼き払われてしまう。一人生き残ったところを、今度は人買いに攫われて、遊興の街トレノに送られた。そして、暴行を受けている所を、絶対神教の司教に保護された。(16章参照)
 自分を不幸だとは思わない。逞しく生き抜いてきて、上手くオーギュストの弟子になれた。(18章参照)
 そして、北サイアのホーランドの病院で再会した時(20章参照)、ローラは大富豪ベネディクス・ハンザと結婚していた。リタは、変わらず長く入院生活を送っていた。
 身体の弱い姉を不幸だと思った。だから、オーギュストに頼んで、治療してもらった。
 自分がリタの役に立ったことを嬉しく思った。この時から、自分の人生が有意義で誇らしいものだと感じ始めた。
 その後、リタは回復し、ローラは、ベネディクス・ハンザが死亡した後(36章参照)、ロックハート将軍と再婚した(39章参照)。
 現在、ランは親衛隊副隊長として、充実した日々を送っている。一方、リタは長い闘病生活の後で、十分な体力も経歴もなく、叔母ローラの庇護の下にある。
 それをとても切なく思う。

 だから、立場上、様々な業者から日々珍しい品物を貰うので、それらをできるだけリタにプレゼントしている。
「栄養が高いって」
「ええ、私、これ好物なの」
 リタの弾んだ声に、ランは少し戸惑った表情をした。
「よく食べるの?」
「ええ、最近贈り物が多くて」
「へーえ」
 胸の奥から、なぜか、得体のしれない不快なものが込み上げてきて息苦しい。
「どうして?」
 平静を装って問うと、リタは照れて俯いた。
「うん、最近、ローラ叔母さんが、私を後宮に上げようと一生懸命に活動しているの」
「え!?」
「あ、でも、私なんて、全然駄目なんだけど、でも、気の早い人とかが結構いるみたいで……」
 リタは、満更でもない顔で説明する。それを聞きながら、ランは胸の中を棘で掻き毟られたようなざわめきを感じて、これ以上、姉を見ているのが辛い。

 翌日、ランは、朝から忙しく働いた。しかし、何時までも、胸のもやもやは消えない。その正体が分からないのが、より一層不愉快だった。
「聞いているか?」
 親衛隊長のナン・ディアンが、黒板を指揮棒でたたいてランを注意する。この出征を前に、彼は無事復帰を果たしている。
「あ、はい」
「しっかりしろよ」
「はい」
 ランは咳払いをして、姿勢を正した。
「この度の親征において――」
 ナンは、黒板の文字を指す。
 サリス本国から北上するのが、リューフ総帥が率いる、ルグランジェ軍とセシル軍の約3万。
 ロイド方面に、カザルス軍1万2千。
 カイマルクからソルトハーゲン方面には、ロックハート軍1万3千。
 サイアからホークブルグ方面には、アレックス軍とアウツシュタイン軍の約2万5千。
 セレーネ半島に、ベルティーニ軍1万5千。
 この他に、オーギュスト直属の上帝軍(ベアール、ハポン、ウラキ)約1万が、遊軍としてセリアに控えている。
「我が親衛隊は、上帝軍幕僚本部付となる」
 上帝軍幕僚本部は、AⅣ(アルティガルド王が直々に与える栄誉賞のことで、毎年王立大学の卒業生から四人選ばれる)の『ベアトリックス』を本部長に、元アルティガルド軍エリート参謀の『ルイーゼ』を戦術部長に、フェルディア出身の『ダーライア』を魔術部長に、これに警備部長『ライラ』とオーギュストの寝室を守る鎮守直廊三人衆の『キーラ』、『サンドラ』、『マルティナ』)を幹部としている。
 この七人に、顧問として新たに加わったのが、元親衛隊の『アン・ツェーイ』である。
「絶対に、他の部隊に後れを取るなよ!」
 ナンは、勇ましく言う。
「元同僚に嫌味を言われるぞ」
 そして、余計な一言を付け加えた。

 会議の後、ランは、ナンと数人の部下とともに、北宮に任務のために赴いた。北宮の警備は親衛隊の役目である。
 3メートルはある青銅製の頑丈な門を抜けると、白い砂利の敷き詰められた広場に出る。広場の中央には戦車が一台置かれて大型の連弩を乗せている。また、頭上には黄金の浮遊塔が聳えている。
 右を見ると護衛の営舎があり、左を見ると、
玄関棟がある。玄関棟は、白い大理石のホールの左側に控えの間、右側に近習の事務室がある。事務室の奥には、台所棟と侍女たちの小部屋が並ぶ長屋がある。ここまでは、一般人(近習、小姓、侍女、親衛隊など)が比較的自由に出入りできる。
 小川の流れる、横に細長い中庭が敷地を二分している。
 ここを渡り廊下で超えると応接棟に至る。左に謁見の間があり、右に倉庫群が並ぶ。再び、砂と岩の中庭を超えると、オーギュストの生活する御殿で、そこから、右に折れて、築山のある中庭を超えると後宮がある。
 ランたちは、侍従の事務室に、書類を提出してから営舎に向かおうとして、渡り廊下の向うにアンを見つけた。
 まるでお人形のようだった容姿は、少し大人っぽくなっているようだった。また、軍服のロングコートの下には、丈の短いタンクトップとホットパンツで、臍と太腿を大胆に露出している。
 アンは仁王立ちしている。
「控えよ!」
「はっ」
 誰よりも素早くナンが頭を下げる。
「私が、上帝軍幕僚本部顧問のアン・ツェーイである!」
「ご尊顔を拝し奉り恐悦至極でございます」
「お前たち、上帝軍の下々を監督するのが任務である。見知った顔もあるが、手加減はせんぞ!」
「はい、ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します」
 ナンが恭しく答えると、それに倣って隊員たちも一斉に敬礼した。
「下がれ!」
「失礼致しました」
 ナンは海老のように後ずさりしていく。
 その後、無事玄関棟を出た時、
「女は出世するねェ」
 思わず、愚痴を零した。
「これでお前たちも、備品を誤魔化すことはできんぞ。何せ彼女はその道の第一人者だからなぁ(63章参照)」
 冴えない顔で笑う。
「ランも、ライバルと差がついて、悔しいだろう?」
「……別に」
 この時、ランはアンのことではなく、リタのことを考えていた。もしオーギュストの後宮に入れば、今までどおりに気さくに会うことはできなくなるだろう……。
 そこに、参謀本部の『ヤン・ドレイクハーブ』と出くわした。出征となれば、ヤンは連絡将校として上帝軍と加わることになっている。他にも、情報部から刀根小次郎も連絡将校として参加する。
「戦場は何処でしょうね?」
 ランが問う。
「まだ分からない」
 ヤンは首を振る。
「ロイドは囮だろうし、カイマルクは搦め手だろうし、リューフ総帥とは行動を共にしないだろうから、サイアかセレーネ半島か、もしかしたら、モンベルの森を横切るかもしれない」
 遊ぶように、ヤンは推理する。今度の親征は、上帝軍が中心に作戦を練っているので、参謀本部も、オーギュストの詳細な動きまで知らない。
 この後、ランは、ヤンに夕食に誘われた。
 軍施設の殺風景な食堂である。広さだけは十分にある空間に、横に長いテーブルがずらりと並ぶ。その間に丸椅子が無造作に置かれている。
 料理は自分で運んでこなければならない。二人は窓辺に向かい合って座る。時間が少し早かったので、他に客はいなかった。
「ディアン男爵の申し込みは断るのだろ?」
「ああ、当然だ」
 好き好んで男爵の側室などなる気はない。今よりもはるかに評価も待遇も悪くなる、と思っている。
「ならば……」
 一度、ヤンが言葉に詰まる。
「もし、生きて帰ってこられたら、僕と付き合わないか?」
「……」
 突然の告白に、今度はランの呼吸が止まった。
 子供のころからずっと一緒にいて、気心が知れている。才能が有り、誠実な男である。一般論として、相手として申し分はないだろう。
 だが、この時、ランは、好きとか嫌いとか、幸せになれるかどうかよりも、「受けたら、リタとの差は決定的になるだろうなぁ」と疲れ切った頭でぼんやりと考えていた。



 宮殿の地下に、神代の瞬間物質転送装置がある。魔力の問題から、こちらから物を送ることはできないが、受け取ることはできる。
 円筒形の青白い石造り空間を、十二体の賢者の像が支えている。その像の手には、魔導書があり、口が動いて呪文を詠唱している。
 十二枚の魔法陣が折り重なり、眩い光を放つ。そして、白く輝くローブをまとった三つの人影が出現した。中央に、150cmの小柄な女性でいて、その両脇を長身の男性が護衛している。
 男性がフードを外す。
「エルフ王アルトゥーリン陛下であられる」
 朗々とした声で告げる。
「約定により、『黄金の剣』を受け取りに参上した」
 アルトゥーリンは、プラチナの髪を編んで後ろで丸く巻いている。ピーンと張った後ろ髪と違い、前髪は緩く跳ねて、純白のビロードを思わせる美しさ肌と深碧の瞳に僅かにかかっていた。

 エルフ王と称しているが、正確にはウッドエルフと呼ばれる種族である。
 ワルスゴルム大森林にはたくさんのエルフ族が住んでいるが、神代から生き、大森林の最深部に住むのが、『ハイエルフ』である。中部に住むのを『ライトエルフ』、縁部に住むのを『ウッドエルフ』と区分する。
 ライトエルフとウッドエルフに明確な区別がある訳ではないが、一つの例として、より古い伝統に縛られている者を、ライトエルフとする事ができるだろう。
 ウッドエルフは、エルフ族の中では下位に位置しているが、人間世界に現れるエルフが、ほとんどこのウッドエルフである事から、単にエルフと呼んでも支障はない。
 元々は神々の戦いにおいて、戦場に狩り出されたエルフ族の子孫とされている。戦うために、多少がっちりした体形をし、数を増やしやすくするために、魔力を弱め、寿命も短くなった。
 容姿に個体差が大きく、髪の色は金から赤、青、黒と千差万別であり、瞳も青、緑、赤、黒と不揃いである。故に種としての統一意識はなく、個々が長く対立してきた。
 エルフの混乱は、森の世界を衰退させる。
 そんな中で、世界樹から一本の剣が作られて、アルトゥーリンは、この剣を引き抜き、ウッドエルフを纏め上げる王となった。そして、ダークエルフやオークなどとの戦いでは、常に先陣に立ち、ハイエルフにも、その独自性を認めさせるなど、華々しい活躍を続けている。
 王の外見は、ハイエルフと大きくは変わらず、プラチナの髪を長く伸ばし、光り輝く白い肌と、深碧の瞳をしている。150cmと小柄で、性格は、よく言えば実直で生真面目だが、悪く言えば融通の利かない頑固者という評判であった。

 三人のエルフは、『この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ』と銘文が刻まれた青銅製の扉の前まで案内された。元々は、パルディア王国の五つ星神殿の魔王の間(62章参照)にあったものである。
「失礼ながら、ここは男子禁制。護衛のお二人はご遠慮ください」
 案内役の秘書官ケイン・ファルコナーが言う。
「失礼であろう」
 これに、護衛のエルフがいきり立つ。
「よい。これが人間の国の作法なのだろう。ならば従おう」
 アルトゥーリンが、冷静に護衛を制する。
「しかし、我らの国においては、このようなこと通じぬと心しておけ!」
 そして、鋭く言い放った。
 こうして、アルトゥーリンは、護衛を残して、一人高さ3メートルはある青銅製の扉を潜り抜ける。
 内部は、ピンク色の大理石で造られたホールで、高い天井から、壮大なシャンデリアが吊るされている。
 背後で、厚い扉が閉まる大きな音がした。目の前には、薄暗く長いトンネルがある。
「ようこそお越しくださいました。メルローズ・ラ・サリスと申します」
「アメリア・アレッシア・ド・スフォルツです」
「陛下の接待役を仰せつかりました」
 メルローズとアメリアは、正式な作法の礼を優美に行う。二人とも、揃いの無地のキャミソールドレスを着ていた。
「役目ご苦労」
 アルトゥーリンは、瞳で感謝の意を伝える。
 そして、徐にローブを脱ぐ。
 薄い胸を、ベールのような薄い衣を巻いて包み、胸の谷間にエメラルドの金具を嵌めて留めている。また、腰を金モールで縛り、胸と同じ衣を前垂れにして、T字帯の上を覆っている。折り込まれた金の糸が、恰も葉の葉脈のように見えていた。

――う、美しい……。
――なんて綺麗な白い肌なの……。
 二人は思わず、エルフ王の透明感のある美貌に、息をのんだ。その美しさに、この殺風景な地下通路でさえも、若葉の薫る森林のような爽やかさに包まれるようだった。
 しばし呼吸さえも忘れて、見惚れてしまう。
「如何した?」
「い、いえ」
 アルトゥーリンの瞳が、こちらの言葉を待っていることに気付いて、慌てて用意していた文言を唱えようとする。しかし、それさえも、微かに上擦っていた。

「ここでは下着はつけません」
 メルローズとアメリアは呼吸を合わせて、裾を手繰り上げる。守るべきものない恥丘を晒す。
「なるほど」
 即座に納得する。
「これでよいのだろ」
 自ら、ショーツを脱ぐ。
「結構です」
 メルローズは優雅な笑顔で頷く。
 そして、3人は歩き始めた。
 煉瓦を積み上げて、美しいアーチを描いた部分と、土を削ったままの部分が交互に続いている。
「煉瓦は地下深い岩盤までつながっていて、地上の御殿を支えています。元々ここは地盤が弱いです」
 メルローズが説明する。
「土の部分は、いざと言うときに崩して侵入者を封じるためです」
 そして、アメリアが続ける。
「なるほど」
 尤もらしい説明に、小さく頷く。
 しかし、今、彼女はそれどころではなかった。
 煉瓦の固い床を踏む振動が、脚の付け根に粘っこい軋みとなって伝わってくる。
――言われるまま来てしまった……。
 衝撃は、頭の芯までも揺らす。
――また飲むことになるかもしれない……。
 唇があの大きさを、喉の奥があの硬さを、そして、舌があの味を覚えてしまっている。
 不意に、視界が暗くなった。土の部分にはランプがないのだ。
 はっとして顔を上げる。その反応で、自分が俯いて歩いていたことに気付く。
――どうかしているぞ!
 土を踏んだ瞬間、湿った風が、下着のない身体に直接流れ込んでくる。肌がヒンヤリとして、全身がぞっと総毛立つ。
――私は黄金の剣を返してもらうのだ。それ以上の用件はない!
 頭を振って、雑念を消そうとする。
 また、固い床である。コツンコツンという単調な振動が、股間の奥を揺らす。
――一歩一歩近付いて行く……どうしよう……。
 そこに潜む獣がむっくりと鎌首をもたげて、その熱い吐息を吐く。その熱気が、身体中を満たして、耳の先までもカッと燃えるように火照って仕方がない。喉がすごく渇いて、思わず手を当ててしまう。
――いかん、いかん。はっきりと剣を返せと言うのだ!
 地下通路を抜けると、そこは後宮である。
 幾つかの中庭を横切り、回廊を通り、棟を抜けて、庭園の築山の裏へと向かう。そこに小さな丸太小屋があった。
 小屋の中は、真新しい木の香りに満ちていた。窓も装飾品もなく、奥に暖炉があり、その前にモザイク画の絨毯が一枚敷かれている。そして、その上に、アンティークな長椅子が一つ置かれている。
「石と鉄の部屋じゃ気持ちが悪かろうと、上帝陛下から、御用意するように申し付かりました」
 メルローズが言う。
「痛み入る」
「上帝陛下におかれましては、親征の準備でたいへん忙しく、少し遅れるとのことです」
 続けて、アメリアが言う。
「……」
 アルトゥーリンは、無言で険しく睨んだ。
「奥の扉の向うが、浴室とトイレになっています」
 関せず、メルローズが視線で扉を指す。
「お使いになられますか?」
 そして、アメリアが棚から未開封の箱とグリセリンの瓶を持ってきた。
「要らぬ配慮だ。エルフには必要ない」
「では、失礼して、我々は使わせて頂きます」
「なっ!?」
 驚くアルトゥーリンを残して、二人は奥へ消える。しばらくして、水の流れる音がこだまし始めた。
 その直後、荒々しく外のデッキを歩く足音が聞こえてきて、玄関を振り向く。思わず息をのんで、ドアを見守っていた。
「よく来てくれた!」
 ドアを勢いよく開いて、オーギュストが入ってくる。その貌は喜びに満ちている。
「黄金の剣を貰いに来た」
 挨拶もなく、そっけなく言う。
 その言葉が終わらぬうちに、オーギュストは歩み寄り、躊躇なく、その華奢な身体を抱き寄せる。
「ああん」
 ふっとふんわりとした声が出る。抵抗する暇さえなく、悲鳴を上げるタイミングも逸してしまった。
「俺と一緒に戦ってくれ」
「え?」
 強く抱き締められながら、耳元で、甘くささやかれる。それだけで、気が遠くなりそうだった。
「私が居なくても、問題ないだろ?」
 この宮殿には多くの兵士がいる。
「お前が必要なんだ」
「他にもいっぱいいるだろ?」
 また、先ほどの美女二人もいる。
「お前じゃないとダメなんだ」
「うそつき!」
「俺を信じろ」
 一段と強く抱き締められる。胸が激しく波立ち、膝がわなわなと震える。
「わ、分かったから」
 逆上せる頭で、どうにか言葉を紡ぐ。
「戦うよ」
 上気した顔で、従順に頷いていた。
「ありがとう」
 口付をする。
――気持ちイイ……!
 舌で唇を擦られると、蕩けるような甘い感触が広がる。唾液をすすり、舌をしゃぶると、まるであれを咥えているようで、ぐらりと陶酔してしまう。
――ドキドキする!
心臓が破裂しそうなほど高鳴る。二人は、倒錯的なディープキスに没入する。
「うん――」
 驚くほど細い腰から、オーギュストの手が下がっていく。下着を穿いていない剥き出しの薄い尻肉を掴まれると、たまらず小さく鼻を鳴らした。
「ううん」
 キスをしたまま、指先は、割目を撫でて、ゆっくりと脚の付け根から内腿へと舐めるように弄っていく。
「お?」
 ふとオーギュストが、興味津々の顔をした。
「ずいぶん期待していたようだな?」
 からかうように言う。
「ち、ちがっ!」
 反射的に激しい口調で否定しようとして、急にその口が止まった。
「俺はずっと期待していた」
「え?」
「お前が欲しい」
「っ……」
 頭が混乱して、言葉を返せない。でも、胸の内に狂おしいほどの嬉しさが溢れてくる。
――ずっと彼のことばかり考えていた……。
 裾をぎょっと強く握りしめる。緊張で顔が強張っていく。
「……違わない。ずっと期待していました……」
 白雪のような美肌を真っ赤に染めて、勇気を振り絞って、か弱い声で告げる。
「かわいいよ」
「うれしい」
 乙女のように恥じらいでいる。そして、眉を八の字に、目じりを蕩けたように下げて、舌足らずに甘く呟く。
 もう一度キスをして、そのままゆっくりと長椅子へ倒れ込んでいく。
 座るオーギュストの膝の上で、身体を横に寝かせながら、股間に顔を埋めて、ペニスを口に含む。
 ジュツ、ジュル、ヂュルゥ、と頬を窄めて吸い啜り、そして、頭を上下させている。時折、止めては舌を出し、裏を舐め上げ、先端を舐め回した。しゃぶればしゃぶるほどに、まるで体臭に酔ったように官能が高まっていく。その昂ぶりに身を委ねて、貪欲に口唇奉仕に耽る。
 一方、オーギュストは、アルトゥーリンの開いた股間に手を伸ばし、秘唇を掻き回している。
「まるで洪水だな」
 笑うと、秘唇を弄っていた指を抜き、愛液の絡み付いた指を、アルトゥーリンの顔に擦り付けた。
「そんな……ひどいわ……」
 そして、ペニスから糸を引いた唇で、だるく言う。そして、拗ねたように顔を背けた。
「かわいいよ」
「うそばっかり……」
「嘘じゃない」
 その証拠とばかりに、オーギュストは、アルトゥーリンを仰向けにして、その上に覆いかぶさる。
「ああっ、いやぁ……」
 オーギュストは、平らな乳ぶさを巧みに揉みたて、乳首を咥えて吸う。そして、可憐なクリトリスを捏ね回す。
「ああっ、いやァ……」
 嗚咽を響かせて、腰を捩った。
「アアン……はぁん!」
 首を左右に激しく揺すると、束ねた髪が解れて、プラチナの長髪が扇状に広がり、キラキラと幻想的な美を醸し出す。
「いくぅっぅうう!」
 長椅子の革に、爪を立てて、雄叫びのような声を上げて達した。
 その瞬間、理性の箍が焼き切れた。まるで仕組まれたトラップが発動するように、心の奥の歯車が動き出して、意識とは関係なく、あらぬ言葉を口走っている。
「卑しい雌犬のオマンコを…ご自由にお使いください……身も心も…捧げます……」
 至福の表情でそう囁いた。そして、脚を大きく開いて、秘唇を指で広げた。
「存分にご堪能ください……忠実な僕です……」
 羞恥と快楽が微妙に溶け合った甘ったるい声色で鳴いた。

 光り輝くような白い太腿の狭間に、淡い繊毛を備えた新鮮な赤い果実は、全く色素が定着していない襞に守られて、清々しいほど澄んだ桜色をしていた。それは見る者の心を奪うほど美しかった。
 やはり、エルフ女は違う!
 元来、男を悦ばせるために作られた亜人である。
 一度喉を鳴らした。そして、ふらふらと吸い寄せられるように、そこにペニスを埋めていく。
「ひぃーつ!」
 脚を高く持ち上げ、V字型にすると、深々と打ち込んでいく。
 肉襞が蠢き、ギュッと握ったようにキツク締め上げてくる。その感触は絶品で、まるでミミズが千匹いるような、えも言われぬ快楽を与えてくる。まさに天下髄一の名器であろう。
 くっ!
 流石のオーギュストも耐え切れず、強引に引き抜く。
「ひぃっ、あぁーん!」
 肉襞が捲れて、アルトゥーリンがまた腰をくねらせて悶えだ。
 おりゃ!
 ペニスを甘く蕩けさせるようなその快感に、オーギュストの気分も高まった。そして、今度は肉襞を巻き込むように、激しく打ち込む。まるで中毒になってしまったかのように、我を忘れて没頭する。
「あっ、ああっ、気持ちいイッ!」
 アルトゥーリンは、上体を反らして喜悦の声をもらした。
「うぐぅ……んん……」
 その口を不意にメルローズが吸った。
 一方、アメリアは背後に廻って、二人の結合部から溢れ出した粘液へ舌を伸ばす。そして、クリトリスも弄り出した。
 二人とも、オーギュストとアルトゥーリンの交わりを見て、すっかり発情している。
 しかし、である。
 この二人を接待役に選んだのは、清楚でありながら、巨乳で、巨尻で、エルフと対照的な豊満な肉体美を誇っているからだった。だが、雪も恥じらうような純白の肌を晒し、細く歪みない肢体を幽玄的に悶えさせ、熱い情感を溶かした吐息を吹く、エルフの快美感に高揚した美貌の前では、どうしても霞んでしまう。オーギュストをして、耽溺に値すると思わせるほどだった。
 その時、3人がかりで責められて、アルトゥーリンは、極彩色のような、淫靡な快楽に満たされていく。
「ああん、あん、ああーッ!!」
 狂ったように腰を振りたてる。恥骨と恥骨がぶつかり合い、卑猥な水音が響き渡った。

「すごい……」
「……」
 メルローズが思わず感嘆の声をもらし、アメリアは絶句する。
 あの透明感に溢れた美少女が、初めてで、これほどの痴態を晒すことに驚愕するとともに、ますますエルフの神秘性に、恍惚とした憧憬を抱く。

 その頃、アルトゥーリンの精神も、限界を迎えていた。
「あひぃーーーッ!!」
 顎を突き上げ、白く細い喉を反り伸ばすと、一際大きな声を張り上げた。白磁の光沢に似た美しい肌は燃えるように火照っている。
「行くぞ!」
 オーギュストはとどめとばかりに、控えめの胸を鷲掴みにすると、強く腰を突き上げた。
「あ、ああ……熱い……、熱いわァーン……」
 そして、その動きを止めて、奥深くに射精する。
「ああ、おいしいそう」
 零れ出した精液をアメリアが、舐め取っていく。


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Date:2013/03/01
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Thema:18禁・官能小説
Janre:アダルト

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