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□ ほんの短い夏《序章中編》 □

――3――

――3――
 夜が更ける。日が沈んでも気温は然程下がらず、生ぬるい風が吹き続けていた。ざわざわと葉が揺れて、ぎしぎしと枝がしなって、まるで山の神々の悪戯心が騒いでいるようであった。
 湯から上がった麻由美は、白い襦袢姿で鏡台の前に坐り、長い黒髪に櫛を入れていた。
――今夜の風は妖しい……。
 月明かりに青く照らされた障子に映った庭の木々の影が、一段と激しく揺らいでいる。
――山の神は男と女を狂わす、という……。
 すっかり忘れていた昔の記憶が、突然鮮やかに蘇った。それは五年前の石堀詩織の言葉だった。
……
………
「私はあの人を決して許しません」
 夫たちが旅立った後、麻由美は、届いた手紙を石堀家に届けた。詩織はキツイ目をして、膝の上で握った手を見つめながら呟いた。
「何をおっしゃるのです!」
 麻由美は慌てて、諌める。
「男たちばかり勝手なことをして……」
「来秋には、皆無事に帰ってまいりましょう。それまで留守を預かるのは、妻の務めですよ」
「ばかばかしい――」
 詩織は厚い唇をかみしめて、本当に悔しそうに吐き捨てる。
「未だかつて大陸奥地に赴き、帰ってきたものはおりません。霧の中は魑魅魍魎の巣なのでしょう」
「……何を言うのです」
 一度目よりも、口調は弱くなってしまった。
「私は決めました――」
「え?」
「生きて帰った者に、この身体を与えます」
「ら、埒もないことを!」
 突然の大胆な発言に、唖然とするばかりである。
「不埒なことは百も承知です。ですけどね……」
 急に、詩織の声が涙に曇る。
「悔しいじゃありませんか、男ばかり好き勝手して、これは復讐なのです」
 懸命に強がる詩織の姿が哀れだった。
………
……
 果たして詩織はあの時の言葉を実行するつもりなのだろうか。否、あの顔はすっかりその気であった、と麻由美は確信している。割り切った女性は大胆なものだ。
『悔しいじゃありませんか、男ばかり好き勝手して……』
 詩織の声が、何度何度も頭の奥で鳴り響く。
 あの時の詩織は、男たちの理不尽さへの怒りを言葉にしただけで、さらさら本気ではなかった、と思っている。
 しかし、女にとって5年はあまりにも長い年月であった。詩織はもう女盛りの後半に差し掛かっている。今さら操をとやかく言うつもりはない。第一に、その立てるべき相手はとうの昔に死んでいるという。何という無情であろうか……。
――わたくしも……もはや……。
 白い襦袢の上から、少し垂れた乳ぶさに触れた。もし夫が帰って来ていたならば、変わり果てた自分の姿に、驚き、嘆き、そして、遠ざけたかもしれない。そう妄想すると、胸が締め付けられるように痛む。
「あっ……」
 思わず、胸に触れていた手に力が入って、揉み解していた。脳裏に、獣のようにもつれた詩織と若い男の姿が浮かぶ。
――確かめたい。
 すぐ客間に向かいたかった。
 今この瞬間、詩織は若い男の部屋を訪ねているかもしれない。否、逆に、詩織の熟した色香に惑わされて、若い男の方が夜這いをかけているかもしれない……。
「ら、埒もない……」
 何度も打ち消そうとしても、卑猥な妄想は止まらない。
 詩織はあの厚い唇で、若い男の口を貪りすすり、あの豊満な尻を惜しげもなく与える。
「ああ……」
 清楚な唇を割って、甘い吐息がこぼれた。
 鏡を見やる。顔が赤く火照っている。股間にも手が伸びていく。
「あっ、んんんん」
 秘裂はすっかり濡れている。そして、その上部の小粒な蕾に触れると、さらに頭がぼーっと上気していく。
――ああ、逞しい生命力を持つ、女のように美しい、若い男……。
 魂が浮かび上がり、今にも男の部屋に走り出しそうである。
「ん、あああん!」
 指先を軽く秘壺に入れた瞬間、気をやってしまう。
「うううう……」
 麻由美は鏡台に顔を伏せて、短く咽た。己が浅ましく、情けなかった。
――まだ夫の供養も終わっていないというのに……。

 翌朝、麻由美はたくさんの夢を見て、いつもより早く目覚めた。頭の中はすっきりしないが、表面上はいつも通り、きちんと身なりを整えた。着物は桔梗色と白の縞模様で、帯には同じ組み合わせの水玉模様である。
「きゃあ、きゃあ、すごいわ」
 裏庭が黄色い声がした。下女たちが騒いでいるようだった。
「何をしているのかしら? 今日は忙しいのに……」
少しイラつきながら、裏庭へ向かう。
「お上手なんですね」
「このくらいは、誰でもできますよ」
 鷹佐が薪を割っていた。上半身を肌蹴て、斧を軽々と振り上げている。
――逞しい……。
 思わず、喉の奥を鳴らして、唾を飲み込んだ。女のように優しい顔をしていながら、その肉体は不均衡に屈強である。無駄な贅肉はなく、一つの動作のたびに、引き締まった筋肉が浮かび上がる。うっすらと汗かいた肌からは、男の匂いを発散しているようだった。
――あの傷は……尋常のものではない……。
 そして、左胸に刻まれた十文字の傷が目についた。相当の深手であることは明確である。まさに、人跡未踏の地を旅した勇者の証であろう……。
「やはり男手があると助かるね」
 下女が言う。
「役に立ったのなら、うれしいよ」
 鷹佐は汗を拭いた。そして、麻由美に気付いて、笑顔で一礼した。
「おはようございます」
「……」
 その瞬間、麻由美の心に、一陣のさわやかな風が吹き抜けた。
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Date:2012/04/27
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