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□ エリーシア戦記67 □

67-1

第67章 蛙鳴蝉噪


【神聖紀1234年5月、アルティガルド王国】
――アルテブルグ。
 ジークフリード・フォン・キュンメル邸の西館は、アルテブルグを代表する文化的なサロンであった。
 権力に擦り寄る輩によって、アルテブルグ中の骨董や美術品などが、彼の膝元に溜まり、また、それら宝物に吸い寄せられて、蟻が砂糖に群がるように人気の著名人も集まっていた。
 これら第一級の人と物に囲まれていても、ジークフリードの存在は、些かも見劣りしなかった。
 手を上げて群臣に応える仕草だけでも、演出では決して表現できない自然の優美さがあった。また、黒の正装の上に黄金の長髪がよく映え、白い手で払うたびに、無音の空気の揺れに、人々は勝手に流麗な旋律を思い描いた。
 市井の噂話では、立ち姿を古代の彫刻のように、微笑みを名画のように、発する言葉は歌のように称えていた。
「閣下と踊れて光栄です」
 曲が終わると、ダンスの相手をした貴婦人が、瞳をハート型にして言う。
「フロイライン、私も、だよ」
 ジークフリードは、紳士らしく丁重に扱う。
「さあ、皆さんも楽しんで」
 そして、万来の拍手に愛想を安売りすると、新しい曲が奏で出す中、ひっそりとラウンジを後にした。
「ちぃッ……」
 影の中へ歩を進めながら、徐々に人を魅了する笑顔が消えて、烈火を内に秘めたクリスタルのように美しく、そして、危険な美貌へと変貌していく。
「低能ども、めッ!」
 人気のない暗闇に向かって、一人毒気づいた。
 溢れる明るいと光と談笑の声を背に、左右に部屋のある薄暗い廊下を歩き続ける。一番奥まで一心不乱に進んで、ようやく足を止めた。
「……」
 不機嫌さを隠さず、無言で入室する。陰気な顔の軍人二人が、一斉に立ち上がった。一人は若い士官で、もう一人は、ヘルミーネ・ザマーである。
 彼女は、元々平凡な国境警備隊員だったが、ジークフリードの筋掛けによって、名将として祭り上げられてしまった。或いは、ジークフリードが己の孤独を癒すために同類を求め、その生贄に運悪く選ばれてしまったのだろう。どうあれ、名声と富の代償として、砂上の楼閣の上で踊り続ける役務を自らに課すことになった。
「楽にしろ」
 ジークフリードは、中央のソファーに腰を降ろす。すぐに、スマートな猫が、膝の上に乗った。
「危険分子どもは、メーベルワーゲン城に集まっております。密かに呼びかけたのは、ルッツ・フォン・ニーダーベルゲン子爵のようです」
 緊張と恐怖を織り交ぜた声で、若い士官は、ようやく報告を終える。
 彼が告げたルッツ・フォン・ニーダーベルゲン子爵は、名宰相ベレンホルストの孫で、ニーダーベルゲン州を治める大貴族である。
「やはり、メーベルワーゲンか」
 ジークフリードは、頬杖を衝き、口の端を不適に上げる。それから、徐に葉巻へ手を伸ばした。
「一網打尽にしますか?」
 手際よく、若い士官は、マッチに火を点けて、下から葉巻を焙った。そして、媚びるような口調で、勇ましいことを言った。
 その瞬間、ジークフリードは、噛み付かんばかりに、その若者を睨み付けた。炎が一瞬で氷になったような神秘的な美と恐怖に包まれた瞳である。
 射抜かれた若者は、忽ち視線を落とし、顔中に汗を流し始めた。そして、「あわあわ」と口を震わせて、二歩三歩と退いていく。
「バカめ!」
 吐き捨てるように言い放つ。そして、荒ぶる魂を落ち着かせようと、目と閉じして、深く葉巻の煙を吸った。
「敵の戦力が揃っているところを攻めたりすれば、雑魚どもが、粋がって、無駄な抵抗をするだろうがッ!!」
「ごもっとも……」
 若い士官は、泣きそうな声で、ただただ頷く。そして、ザマーに促されて、一人寂しく退室していく。
 室内の空気がピーンと張り詰める。元の位置にザマーが戻ると、ジークフリードは、テーブルの上の地図をじっと見詰めていた。
「敵の出発地と目的地は、分かっているのだ……」
 呟くことで、自らの考えをまとめている。
「進路は予測できる筈だ……計算しろ」
 自らを叱咤しながら、徐々に身を乗り出していく。
「ここだッ!」
 そして、瞳をがっと開くと、葉巻を地図の上に押し付けた。
「この橋に伏兵を置けば、公爵を捉えることができる!」
 力強く言い放ち、それから、ふつふつと笑いを零し始めた。
「ははは、はっ!」
 ジークフリードは、狂ったように笑いながらソファーを離れると、隅のバーカウンターで自ら酒を注ぎ始めた。
「私が」
 慌てて、ザマーが駆け寄る。
 その時、突然ジークフリードはグラスを投げ捨て、ザマーの腕を掴んで、強引に引き寄せる。
「あっ……」
 厳つい軍服姿で、ザマーは、弱々しく喘いだ。
 後から抱き締めて、ジークフリードはそっと白いシャツの上から、乳ぶさを揉む。
「お前が行け」
「はい」
 ザマーは、柔らかい女の声で素直に首を縦に動かす。


――メーベルワーゲン城。
 アルティガルド王国の国土は、東西に細長い。東をエリース湖、北をウェーデル山脈、西をセブリ山脈、南東をカレドリア山脈、南西をモンベル山脈で囲まれている。
 セブリ山脈北端にはソルトハーゲン街道があり、ここを経てカイマルクへと通じている。また、南端にはホークブルグ街道があり、これはサイアへと繋がっている。余談だか、両街道には、それぞれ街道の名を持つ要塞があった。
 メーベルワーゲンは、このホークブルグ街道上にある。サイアから運ばれてきた物資が、ここでフリーズ大河の水運に積み替えられる。古くから、交易上の中継都市として、重要な役割を果たしてきた。
 城は、深いモンベルの森の淵に、ぽつんと浮かんでいた。街道沿いの岩山の上に、灰色の小石を積み上げて築かれている。しかし、狭い台地の上に、無数の塔が乱立する異様な外観であり、遠くから見ると家具を運ぶ馬車のように見えた。
 サリスとの戦いに備えて、小さな古城に、周辺の城砦から塔を移築させたものである。急造と言っても、最も高い塔は9層もあり、さらに、東西南北を4つの塔が囲んで、それを城館で繋いでいる。ただ、台地の上に治まり切れずに、谷の上に、懸け造り(清水寺のようなもの)で張り出している。
 完成すれば、壮麗で雄大な姿を誇る難攻不落の要塞となっただろうが、財政難などから工事は滞り、内装工事はほとんど行われていなかった。
 荒い石組みに、隙間を漆喰で埋めただけの質素な広間に、若い人々が集まっていた。
「誰がお前の指図など聞くか!」
「黙れ、ゲス!」
「腐れ坊主めェ!」
 怒声と罵声が飛び交う。尽く、汚い言葉を厭わずに言い争いしている。中には、掴みかかる者や、食べ物を投げつける者までいた。
 反政府の声を一つにまとめようと、各地で活動する者たちが一同に揃った。一般に、『メーベルワーゲン大会』と呼ばれている。しかし、取り潰された貴族から、浪人の武将、僧侶、商人、そして、群盗の頭目までも参加している。とてもじゃないが、意見がまとまる訳がなかった。
「どうするの、これ?」
 目の前の残念な光景を眺めて、ヴェロニカ・ベルタが、投げやりに、隣のロマンに囁く。
「どうするも何も、ニーダーベルゲン子爵をお待ちするしかない」
 主催者の一人であるロマン・プラッツが、疲れ切った顔で呟く。難癖を付けられ問答無用にハルテンベルク子爵家が滅ばされてしまい、大貴族達はこぞって萎縮してしまった。この状況で、ジークフリードに物を言おうとする者は、名宰相の孫ニーダーベルゲン子爵ぐらいしか残っていない。また、彼ならば、経験、名声ともに旗頭として申し分ない。
「その前に柱を登り始めるわよ。猿のようにね、ははは」
 ヴェロニカは、彼女に似つかわしくない不健康な笑い方をした。
「つまらない冗談はよせ、よけい疲れる」
 ロマンは憮然と腕組みをした。
 その時、天地を揺るがす雷鳴に似た大きな音がした。
 中央の細長いテーブルの上に、ヴォルフが仁王立ちで立っている。そして、天井に向けた鉄の筒から、烈しい火花を舞い上げていた。
 心臓が止まるかと思うような衝撃に、人々は、一先ず争い止めて、見知らぬ少年へ視線を注ぐ。
「もう止めろよ――」
 若い声が、澱んだ空気の中を、すっと広がっていく。
「みんなで一つにならないと、政府軍には勝てないぜ!」
 水を打ったように、広間がしばし静まる。誰も即座に反応していない。加熱した頭には、逆にこんな単純な言葉の方が、理解し難いのかもしれない。
 ロマンは天井を仰ぎ、ヴェロニカは目を覆った。
「黙れ、こわっぱ!」
「嫌だ。難しいことごちゃごちゃ言い合っていても仕方がないだろ。今も何処かで、人が苦しんでいるんだ。取り敢えず、みんなで走り出したらいいんだ!」
「そんなことが簡単にできるなら誰も苦労しない。バカ!!」
 最初に噛み付いたのは、政治犯の痩せた男である。しかし、その病的にやつれた顔に岩のような拳が、突然ぶつかる。
「ガタガタぬかすんじゃねえ!」
 殴ったのは、群盗の頭目だった。スキンヘッドに、揉み上げとヒゲが合体した荒々しい印象を与える中年の男である。ひと睨みで、頭に血の上った男たちを萎えさせる。
「ガキの方が分かってるじゃないか。戦いとは、考えるより先に行動するもんさ。コゾウ、思い切りのよさだけは、気に入ったぜ」
 そう言うと、にやりとした笑いを、ヴォルフに向ける。
「……」
 この一連の動きを、広間の隅で、無言で見守る女性がいた。頭に青い布地を巻き、実用的な軽鎧で、その身を包んでいる。露になっている二の腕や太腿は、白くきめ細やかな肌をしていた。背丈はあるものの、柳のように細い。しかし、胸と尻のふくらみは十分見応えがあった。
 女は、ずっと寄りかかっていた柱から身体を離すと、喧騒の中を、広間の入り口へと歩き出す。
「姫様」
 廊下に出ると、厳つい顔の老人が駆け寄ってきた。
「会議は如何でしたか?」
「こんな格好をしてきて、馬鹿みたいだった」
「それでは……」
 老人は、露骨に肩を落とす。
「ああ、物を知らない子供が、一人目立っただけだった」
 言いながら、頭の布を解く。短く切り揃えた灰色の金髪が現れる。清楚で気品のある顔立ちに、烈しい怒りの感情が、鮮やかな彩を添えていた。
「ここでは戦えない」
「爺が余計な事を申しました……」
「駄目な事が分かっただけでも、前進だ。後は、ニーダーベルゲン子爵の決起に期待するしかない」
「御意」
 彼女の名は、アリーセ・アーケ・フォン・ハルテンベルク。先月、ジークフリードによって責め滅ぼされた、ハルテンベルク子爵家の生き残りである。
 アリーセが、城館から中庭に出ようとすると、肩をばっさりと斬られ、背に矢の突き刺さった騎士が、両肩を兵士に担がれて、中庭を突っ切ってきた。
「……」
 息を呑むアリーセとすれ違い、広間へ入っていく。
「ニーダーベルゲン子爵様が、待ち伏せに合い、御戦死!!」
 騎士は、最後の力を振り絞って叫んだ。その声は、稲妻のように走って、人々の心を撃ち痺れさせた。
「……」
 アリーセは、黙って下唇を噛む。


――城下町。
 このホークブルグ街道の町並みは、大きな出窓が特徴である。出窓の並ぶ街道を、一癖も二癖もある連中が、北へ南へと続々と通り過ぎていく。
 出窓の一つに、フィネの可愛らしい顔があった。フィネは、出窓に接した机に向い、兄の遺品の古本を開いている。
「読めない……」
 短い詩が並んでいるようだが、見知らぬ文字である。一行たりとも分からない。
「ああ、それ神代文字だねぇ」
「うわっ」
 いきなり頭の上から声がした。気がつくと、キョーコが頭の上に顎を乗せて、本を覗いている。
「驚かせないで」
「だって、何度呼んでも返事ないから」
「……ごめんなさい」
 素直に謝るフィネに、キョーコは「気にしないで」と手を振る。そして、「これね」と顔を古本に近付けた。
「ふーん」
「分かるの?」
「全然」
「……」
 思わず、フィネの鼻から盛大な息が洩れる。
「でも、分かる人を知ってるから、連絡とってみようか?」
「ホント、お願い」
 フィネは目をみはり、それから、両手を合わせて、愛らしくウィンクした。
「ただいま~ぁ」
 その時、ヴォルフが帰ってきた。
「レディーの部屋に何?」
 露骨に嫌な顔をして、キョーコが言う。それでも、ヴォルフは、呑気な足取りで出窓に腰掛けた。
「また移動だぜ」
「え?」
 キョーコとフィネが同時に声を上げた。
「頼みのニーダーベルゲン子爵が、さっさと戦死しちまってさぁ、こんな未完成の城じゃ戦えないって、みんな逃げ出してるよ」
 ヴォルフは言いながら、出窓の下を顎で指す。
「ロマンは、どうするって?」
 表情を殺して、キョーコが問う。
「さあ」
 それにヴォルフは首を捻り、無責任な顔で両手を上げた。
「呆れた。何のために、ついて行ったの?」
 キョーコが、非難がましい口調で言った。
「俺はスパイじゃないぞ」
 ヴォルフは、ぷっと頬を膨らませて、横に向く。
 スパイという言葉に、キョーコの瞳が微妙に揺れて、思わず唇を閉ざした。
「もう国外逃亡しかないのかなぁ……」
 フィネがぼんやりと囁く。彼女は、芸人一家で、旅ばかりしてきたから、アルティガルドに留まる事に拘りが薄いようだった。
「国境を越えられないよ」
 キョーコが、フィネの肩に手をおき、残念そうに告げた。
「そうでもないぜ。俺のこれがあれば、何とかなるさ」
 ヴォルフは、腰から『鉄砲』を取り出て、きりっとした表情を二人の女性に向ける。その時、銃身に小さな汚れを見つけて、血相を変えて服の裾で拭き取り、それから、然も愛しそうに頬擦りした。
「……」
 キョーコは、フィネの背後に隠れながら、鋭い眼光で鉄砲を観察していた。


 三人は、食堂で昼食を食べながら、今後のことを話し合うことにした。
 ここは、キョーコの知り合いが経営する宿屋で、一階に吹き抜けの小さな劇場があり、その脇に食堂兼酒場があり、そして、二階に宿の小部屋が並んでいた。
 食堂のカウンターに三人は並んで坐る。お金がないので、大皿のパスタを注文して、密かな奪い合いを演じていた。
 食堂は『メーベルワーゲン大会』に参加した雑多な人々で込み合っていた。厨房の影から、店長らしき人物が、店内を凄まじい眼力で見渡している。三人は恐ろしさのあまり、パスタの味が分からず、また、あまり喉も通らないようだった。
「……こわいよぉ」
「……がまん」
「……」
 暫くして、最初の客が帰り始めると、店長らしき男は、玄関へ移動して、効率よく客を入れ替え始めた。
「何なの?」
 小声で、フィネが問う。
「もうこんな繁盛は当分考えられないから、少しでも稼ごうと思っているのだろう」
 そっとヴォルフが返した。的を射ていると感じたらしく、フィネも小さく頷いた。
「……」
 その時、三人の背後を、アリーセとその従者が、通り過ぎようとする。空いた席を探しているらしく、顔を右に左に繰り返し振っている。そして、何気なく、フィネの本に目が留まった。
「それは?」
「え?」
 突然声を掛けられて、フィネは、驚いた表情で振り返る。
「随分古い本のようだが?」
 アリーセは気取らない優しい笑みを浮かべていた。そして、興味津々な声で訊ねる。
「兄の形見なのですが、古い歌集のようです」
「ふーん、ありがとう」
「いえ」
 アリーセは感謝の言葉を残して、3人から離れた。そして、従者の待つ席に着いた。
「如何されましたか?」
「古書があった。だが、違うようだった」
「まだ伝説の秘宝を探すおつもりですか?」
 従者の顔が曇る。
「必ず何処かにある。我が先祖の残した言葉に偽りはない。私は信じている。あの力があれば、王国にも勝てる」
 アリーセは顔を近付けて、周囲を気にしながら、小さいが、強い口調で述べる。
「しかし……」
 従者が否定的な表情で口を開きかけると、調度ワ国人の若い店長が、メニューを持ってきた。さっとアリーセと従者は、顔を離して、それぞれに髪などをいじった。
「何にしますか?」
「オススメは何?」
 ナプキンを敷きながら問う。
「そんなものはない。うちは下町の店だぜ」
「そうだな」
 アリーセは、爽やかに苦笑いする。
「まあ自慢は、旅人の噂話ぐらいさ」
「ほお――」
 横顔に、微かな興味の色が過ぎった。年頃の娘らしく、噂話に目が無い。
「例えば、どんな?」
 今度は、店長が得意げな顔を近づける。そして、もったいぶった言い方をした。
「実は、あのサリスの、あの最強の男は、実は、実在しないらしいぜ」
「はぁ?」
 アリーセは、盛大に眉間にしわを寄せた。その反応を楽しむように、店長は話し続ける。
「サリスの三姉妹が、魔術で異世界から呼び出したらしいぜ。でも、もう期限切れて、消滅したらしい」
「ぐははは、それは最高だな」
 従者は笑いながら、眉につばを塗った。
「俺も最初は疑ったが、どうやら本当らしいんだ。次女が、エリース湖に浮かぶ孤島の神殿に行ったのは、正式な記録が残っている。そこで儀式をしたらしい。ほら、闘神教とかいうのが、セリアで流行っているだろ。あれだよ、あれ。で、その時生贄にされた水夫の名前が、確か……そう、モクアンだ。だから、サリスの宮廷じゃ『元のモクアン』という諺が囁かれているらしいぜ」
 店長は朗々と語った。それから、やりきった爽快感に満ちた顔を、悠然と上げた。
「……」
 アリーセは、黙って身を引いた。そして、眼を伏せて、深く考え込んでしまう。
 一方、カウンターでは、三人が顔を寄せていた。誰、とキョーコが問う。それに、ヴォルフもフィネも、知らない、と首を振る。
 そこへ、ロマンとヴェロニカが、やってきた。
「どうするか決めたのか?」
 飾らず、ヴォルフが問う。
「取り敢えず、モンベルの森に隠れようと思う」
「みんなそうなの?」
 キョーコが窓の外の街道を見て、問う。
「いや、ほとんどは、ソルトハーゲンに向かうそうだ」
 ソルトハーゲンは、セブリ山脈北端の麓に位置し、標高500メートルにある要塞都市である。300年続く大司教領で、近くに大規模な岩塩坑があり、岩塩をフリーズ大河からエリース湖沿岸へ送り出してきた。その富で、ソルトハーゲン大聖堂は、大きく繁栄してきた。しかし、アルティガルド軍によって、大聖堂は、大司教と信者3000人とともに焼け落ちた。
「あそこは廃墟だろ?」
「少しずつ復興しているの。信仰の力ね」
 ヴォルフの質問に、ヴェロニカが答える。
「じゃ、そっちの方が頼もしいだろ」
「騎士やら軍人やらは、民間人のことを考えていないよ」
 ロマンは言って、ヴォルフとキョーコの頭を軽く叩いた。
「俺は戦えるぜ」
 ヴォルフは、テーブルの下で鉄砲を固く握る。
「少年は、彼女を守りなさい」
 ヴェロニアは、視線でフィネを指した。
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Date:2011/02/01
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* あとがき

はい、アルティガルド側です。こんな風に分けるのは不本意ですが、他に思いつきません。残念です。場所とかは地図を参考にして下さい。かなりサイアに近い所で、物語が進んでいます。
それから、一応、アルティガルドは、エリース湖沿岸とフリーズ大河両岸に人口が密集しています。
ではでは。
2011/02/01 【ハリー】 URL #- 

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